竜贄の儀とフィールド魔法
コンコンっとノックして俺は壁を調べる。未だ俺たちは荷台の中。この荷台にはあの隠蔽の魔法が掛けられいるのだが、まさか出られない効果があるとは思わなかった。閉じ込められる形となりそのせいでミアがしょんぼりしている。
「ごめんなさい、まさかこんな魔法があるなんて。てっきり外から探知できないようにするだけって思ってたんだけど」
「言ったろ?付いていくって。だから別に閉じ込められても気にしねえ。調べてんのは自分が使えたらどういうシチュエーションで利用できんのかなってさ」
「使えないよ。これ闇の大魔法だと思う。国宝級の魔道具を使ってるんだよ」
「ん?ああ」
「絶対聞いてないし、君の事が大体分かってきたよ」
こういうのは大抵プレイヤーも使えるようになる。序盤でNPCが使う高位技にワクワクするのもVRMMOの醍醐味である。
(プレイヤーがプレイヤーを閉じ込められるっつうのは強すぎだからNPCに撃てる?サポーターにだけ撃てるとかか?それも強すぎか。だったら作戦会議用?もしかして戦争みたいな大規模コンテンツも実装されんのかな)
国宝級の魔道具とかも超難易度ダンジョンで出土したりしそうである。
(なんかダンジョン潜りたくなってきたな。敵強えけどソロでいけるようにしてドロップ品だけでどこまで降りれるかとかもやってみるか?そういえばユニークモンスとかもいるのかな)
「ねえ、君って緊張感の欠片もないよね」
「いや、今真剣にダンジョンについて考えてた」
「殴っていい?一発」
そんなことをやっていると荷台が止まり、二人で耳を澄ます。
「これやっぱ置いてかれてね?」
「もしかしてこのまま食べられちゃうのかな」
うーんと悩み。俺はふと疑問に思った。
「なあ、そもそもさ。何で龍は人を喰うんだ?」
「封印に巫女の血を引く者のマナが必要だって伝えられてる。僕は魔物専門だから竜の知識は余りないけど、竜がマナを蓄えるっていうのは聞いた事がある」
「マナを蓄える?」
「うん、実際にほらこのストラージュの町って水が一杯あるでしょ?それは水龍様のお陰で水の大龍脈が作られているからって言われてる。龍はマナを下の大地に流す性質がある。ダンジョンの自然階層も竜が原因って話があるくらいだから」
「へー」
「これはあくまで僕の予想なんだけど災厄は地脈に関係しているんじゃないかなって思ってて、封印のために巫女に連なる者のマナを大地に送る必要があるっ!?」
ズーンっという巨大な振動が起き、その衝撃で俺たちの体が軽く跳ねる。その揺れは何度も起き、龍であることが予想できた。そして明らかに近づいている。
「きやがった」
姿が見えぬというのに迫力が凄い。獣のような唸り声と共に聞こえるバキッゴキっと砕く音が一瞬でごりっごりっごりっという磨り潰すものに変わった。奴は貪り喰っている。
「竜贄の儀、思ってたのと随分と違えな」
「うん……」
GOaaaaAAAAAaaaa!!!!
突如放たれた劈くような咆哮に身が貫かれる。デバフが入った。恐慌。この状態は全ステータスが10%ダウンする。
「チッ」
更に間髪入れずに空間、ミア側に赤い予測線が出現。
(イベント戦っ)
ゲーマーであれば見慣れたもの。即座に理解した俺は蹲るミアを掴み引き摺るようにして後方へ投げる。直後、刃のような幾本もの龍の牙が壁を貫き、ふわりとした感覚に襲われた。宙に浮いた。龍が荷台ごと銜えて持ちあげたのだ。
「うおっ」
「きゃっ」
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デバフ転倒 この状態となったプレイヤーは自ら起き上がれるまでスキル使用不可となる
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(こっから起き上がるとか無理だろっ)
そもそも手足が地面に付いていない。いや、今壁に激突したけども闇の魔法で柔らかくなってなければダメージが入っていたかもしれない。ズンっとまた振動。恐らく龍が踏み出した。想像する。何故奴が足を前に出したのかを。
「ミア備えろっ!!叩きつけられるっ」
「そんな事言われてもってっ!!きゃああああああ」
確かにこれは備えようがない。俺も焦ってたのだろう。とてつもない迫力に俺たちは襲われた。これ無理な奴いるんじゃねってくらいに。ただメタ的な視点から言わせて貰うなら、恐らくこの闇の大魔法とやらはプレイヤー保護の効果がある。そうじゃなくてもシステム的に何らかの力が働いているはずだ。でなきゃ無事である訳ないのだから。
ドガッと凄まじい轟音と共に衝突した俺たちは地面に落ち荷台から放り出されるように転がった。
剣を拾い上げるとズンっと龍が落ちてきたかのように対面に立ち、翼を広げて咆哮を上げる。
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水龍エゴ 種ヴァイツァードラゴン・LV20 狂
水の都ストラージュの守り神とされる水龍。水魔法を得意とし、巨大な体躯から放たれる必殺のアクアブレスはあらゆる存在を押しのける
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レベ20という数字に目を剥く。
「流星っ!」
ステータスに気を取られた。ミアの声に顔を上げると尻尾が迫っていた。
(やべっ)
「騎術八式 紫法ノ盾」
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騎術八式 紫法ノ盾 技
幻視の盾を召喚し、味方を守る守護の盾。対モンスター技
一度の戦闘で一度だけ使用可能
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出現した紫の光盾が竜の攻撃を防ぎ、ガラスのように砕けて消えた。弾かれた尻尾はうねり竜の元へ。俺も軽く後ろに飛び、ミアの前に立った。八式という高レベルスキル。どうやらミアは騎術士としてかなりの腕前であるようだ。
「悪い助かった」
「今のはもう使えない。気を付けて」
さっきのスキルは強力だ。俺も早く騎術士を取得すべきだろうと彼女から視線を切り、竜を捉える。水色の鱗を持つその竜は貝の殻のような装甲を纏っている。黄眼は血走り、半開きになった口からは涎が流れていた。当然、そこに守護神としての雰囲気はない。
「欠片も理性を感じねえんだが。こいつが封印してくれてるって?」
「明らかに様子がおかしいよ。普通じゃない」
「ん?」
水龍が大口を開けて上を向いた。水の玉が現れ。周囲からマナを巻き取るように次第に大きくなってゆく。そして発射、上空で弾れば洞窟内であるというのにざーっと雨が降ってきた。
「フィールド魔法。んなもんまであんのか」
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水の聖域 水威力1.5倍 範囲内にあるものを濡らす。地を駆ける者が滑りやすくなり滑ると転倒状態となる
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「流星、水龍様を殺しちゃ駄目」
「構わねえがどうやって止める」
ざざぶりの中で水を拭い、雨音で聞こえづらいと俺たちは互いに声を荒げる。
「額にあるコア。あれから僕と同じ魔の気配を感じる。それを砕けばもしかしたら」
「了解。じゃあさっさと行こうぜ」
一瞬、ミアが信じられないといった様子で俺を見たが彼女も慣れてきたのか首を振って付いてきた。
「君と話してるとさ時々、僕の方がおかしいんじゃないかって思うよ。それで?今更だけど君って強いの?」
「俺?レベルはなんと6だ」
「……相手20のドラゴンなんだけど」
「いけるいける。よくあるイベントボスの特殊勝利っぽいし」
「稀人って皆こうなの?絶対頭おかしいよ」
まあどういう感じで意思あるNPCが設定されているのかわからないが彼ら側から見たとなればそうなるだろう。ゲーム序盤のストーリーは大抵チュートリアルも兼ねている。この勝負騎術士である彼女とどれだけ合わせられるかが勝利の鍵と見た。
「行くぞミア」
「うん」
俺は剣士用に買った水の剣を抜き放ち、ミアは銀のレイピアを構えるのだった。




