裏ストーリーと師匠
「俺たちまでご一緒させて貰って良かったのかな、みーたん」
美咲だからみーたん呼び、こいつもしミの付く人が今後出て呼び名が被ったりしたらどうするつもりなんだろうか。
「えっと、流星と組んでる人たちならもしかしたら説明が二度手間になっちゃうから。それに別に隠すような話でもないしアハハ」
ここはまたギルドから戻ってのカフェ。ナズナとキッカとも合流し、全員で卓を囲んでいる。いい加減俺達はPT名を決めた方がいいかもしれない。そして太一のノリに美咲が困ってる。
「貴方前々からずっと言おうって思ってたけどその、たん付け呼び女の子受け相当悪いわよ」
「例え、嫌われようとも俺はたん付けを止めない。テトたん、これが俺のポリシーだからだ」
「どこで決め顔しとるんや。絶対そこちゃうやろ」
「わしはキッたんになるのかの?」
「何呼ばれたいの?」
ナズナにふふんっとキッカが答えた。
「流星にならの」
「それは駄目」
「何か個性的な人たちだね」
キョトンとする美咲に俺は肩を竦めた。
「だろ?俺が一番真面なくらいさ」
「「「「「それは」ない」ないわね」ないのじゃ」ない」ないわ」
全員から揃って否定されてしまった。解せぬ。プッと噴出して美咲は笑う。記憶と違って青髪がショートボブになって成長してしまったけれど、あの時と変わらない彼女の笑顔だった。
「できるだけネタバレにならないように言うけど、どうしても大きなところはその……」
「かまへんかまへん。どうせ今日の事とか掲示板に出回るわ」
「まあSクラスのもめごと。あれだけ目立ってりゃな」
俺が言えばきゅっと美咲が縮こまった。
「まあとりあえず話してみい美咲よ。わしらにの」
当たり前のようにキッカが仕切ってるが変な感じになるので止めて欲しい。
「ざっくりというと私たちSクラスは全員ストラージュのストーリーをクリアしたの。数日前に」
「はや」
柊さんは驚くがゲーマーからすると結構普通。ただ、彼らは装備も整えられていたし、この町に用意されたコンテンツをやりきった上でだろうから本当に早いと言わざるをえない。人を回して上手くやっているのだろう。
「でも裏があって」
「裏なのじゃ?」
「裏ボスのことだな。かなり強めに設定されてるからその一歩手前でクリア扱いにするんだ」
「ライト勢への配慮やね。次に進めるから強くなってからでも挑戦できますよー言うてな」
俺が言って新見さんが説明を引き継いでくれた。
「ちなみに、倒したら超級とか絶とか同時三体とか出てきたりする」
ナズナがいって現代VRMMOあるあるの水増しだなっと太一が笑った。
「それで負けたってことなんだよな?」
「うん、裏ボスは6名3PTの18人で挑むレイドボス」
「レイドボス……」
これは予想外。まさかこんな最序盤で複数人で戦うボスが実装されているとは思ってなかった。
「私たちは正直、舐めてたの。このゲームの仕様なら簡単に突破できるだろうって、でもあのボスは「美咲」」
俺が待ったを掛ければ美咲は理解したと頷いた。
「初見を楽しみたいんだっけ?」
「ああ、悪い。そこは内緒にして欲しい」
思い出しているのか彼女の手がきゅっと握られた。
「私たちは何度も挑戦した。惜しいところまで行ったんだけど有栖川さん以外の人たちが折れちゃって。あっ私達のPTは今ちょっと用事があって別れてて」
「それであーなった……ってわけね」
「そう、えっと……」
「柊よ相田さん」
「あっ相田美咲です。よろしくお願いします」
「ふふっ桂木君の知り合いって聞いてたからてっきり変な人だと思ってたわ」
「どういう意味だよ」
何か柊さんの俺への対する評価がどんどん下がってる気がする。
「それで?美咲はどうするんだ?」
俺が聞けば彼女はもじもじっと指をいじった。
「んー有栖川さんに付いていこっかなって。一人だと寂しいだろうし。それでなんだけど……できれば流星にもレイドボスに参加して欲しいなって」
俺がリーダーじゃないのに全員の視線が集中する。
「美咲、俺たちはまだストーリークリアもまだだ。んで俺は戦うかどうかは自分で決めてえ派だ。だから、俺がやりてえって思った時にもし席が空いてたら入れてくれ」
「うん、わかった。何かでもあれだね。流星変わってないね昔と」
「そんなことねえってこれでも大分、マシになったって」
ほらっと俺は拳を前に出しレベルを上げてっといえば美咲は苦笑した。
「物理で殴る。ふふっほんとだ。じゃあ、流星はきっと……ちょっとだけ変わったんだ」
◇◇◇
帰り道──というか宿への道。何となくばらけたためキッカと二人きりになった。やっぱりサポーターなので人と組むと彼女との時間は減ってしまう。まあ、またソロプレイになれば序盤のような二人プレイになるのだろうが。キッカは何だか黙ってうんうん唸っている。珍しい。
「どうしたんだよ。今日はえらい静かじゃねえか」
「何じゃいつもは煩いみたいに。わしだって考え込むこともある」
「ふーん、それで?何考えてたんだよ?」
淡々と返す俺に溜息をついてキッカは難しそうに口を尖らせた。
「美咲達のことじゃ。あれはどちらが正しいんじゃろうとな」
二人で連れ添って夜になったストラージュの街並みを歩く。昼と違って静寂が満ち水が流れる音がよく聞こえ何というかロマンチックは雰囲気。まあ話す内容はあれだが。
「どっちも、強いていうなら先に行った奴らの方が一般的には正しいかな。詰まってるんならさっさとレベルを上げにいった方がいい。それで速攻解決さ」
「じゃがお主のプレイスタイルもそうじゃない。流星、お主はわしに言ったであろうギリギリの戦いがわしを強くすると。踏み出す勇気となると」
「あー言った言ったあの猿の時の話な」
「じゃが、あの先に行った者たちのようにひたすら強くなり、装備を手に入れ進んでゆく。そうなるとどんどん差が開くことになるのではないのかの?」
「数値的にはな」
「つまり、数値で測れない強さがあるというのかの?」
彼女の問いに俺は頷きそして答えた。
「VRMMOというかMMOの性質上、進めば進むほどいいアイテムや強さが手に入るようになってる。報酬とコンテンツは一体。でも、そうなるとドンドン効果がインフレしてくる。それはわかるよな?」
「うむ」
「旧来のゲームだと数値で殴り合うだけだからただ数字を伸ばせばいい。でもスポーツ性のある現代VRMMOだと能力の強化は肉体の外に出ることに繋がる」
「肉体の外?」
「現実ではできない力のことさ。ゲーム中盤から後半になるとこういったプレイヤーへ与えられる効果、その威力が爆発的に増加して超人化する。そうなると冗談抜きで訳が分からなくなってくる。果たしてレベルによってこの力が出せているのか装備によって出せているのか。プレイヤーはその力の源を見失い崩壊する。当人はそれに気づいて無かったりするけどな」
そういうプレイヤーを俺は何人も見てきた。150ccで超早い奴が200ccだとてんでダメというレースゲーでよく生じる現象が往々にして起きるのがVRMMO。数時が高いと強いじゃない、自分が適合できる数値を弾けることこそが大事。
「じゃから一歩一歩地に足を付けよとお主は言ったのじゃな」
優秀な生徒。正解と満足気に俺は頷いた。
「いいか、キッカ。VRMMOで本当の闘いが始まったらレベルなんてまるで意味を為さない。何故ならゲーマにとってそいつはカンストして当たり前の数値だからだ。これは改めて言う必要がないくらい全員が理解してる常識だ。この先から考え方に違いが出るっと」
ぴょんっと俺は手すりに飛び乗った。バランスをとって歩きながら俺は言葉を続ける。
「攻略スピードが速いと周りにそれを誇示できるし、最新コンテンツにも参加できて優秀な奴が集まりやすい。勧誘に割く時間もそれでぐっと抑えられる。んな訳で上げ切ってから訓練した方がずっと効率がいいって考え方が主流を占めてる」
「じゃがお主は違うということじゃな」
チラッと見たキッカに俺は頷く。
「どれだけ再現されていたってこれは現実の肉体じゃない。0.01mm横にズレるといった現象。取るに足らないそれも積み重なれば歪みになる。一歩一歩遊びつくして肉体を作り上げるように情報を仕入れる。全く意味がない行為だって揶揄する声もあるけど俺は信じてる。それにこれが師匠のやり方だ」
「流星の師匠か。さぞかし強いのじゃろうな」
「滅茶苦茶強えぞ。なんてったってあの人は」
ハイヒューマンだからな。昇った月が俺とキッカの姿を優しく撫でる。そう、俺は昔ある廃人に師事していた。まあ、勝手に俺がそう思ってて面を合わせたらお前なんか弟子じゃねえって言われるような関係性だけれども。俺はその人に今もなお憧れている。




