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恋愛観とSクラスの揉め事

「うへへ うへへへ」


 俺たちの定番の場所となりそうなカフェ。俺が座る対面でにやけきった笑みを晒しているのは我らがリーダー新見結。明るめの栗色髪をツインテに結び、胸はちょっと大きめ。そんな彼女の指は金貨であるPCパラシスコインを転がしていてその目は金貨袋に釘付けになっていた。


「はああ このジャラジャラ いい音やー いい匂いやー」


「いや、匂いはしねえだろ匂いわ」


 新見さんは顔を近づけて頬ずりする。


「入ったらすぐ使ってしまう人にはわからへんねん。この貯まったことへの喜び、これを元手にどう増やすか考えるだけで うちはっうちはっもう」


「ほどほどにな」


 よく話すがこうして彼女と二人きりになるのは珍しい。というか初めてかも知れない。彼女もそう思ったのだろう質問が飛ぶ。


「そういえばキッカちゃんはどうしたん?」


「あいつならナズナと買い物に行った」


 ダンジョンで稼いだ金を速攻でむしり取られた。もはや主人そっちのけで自立し始めているサポーターである。


「なんやーえらい仲ええなあの二人」


「気が合うんだろ。あいつら似てるとこあるし」


「それ……背がちっちゃいとかやったらぶん殴られるで?」


「……」


 俺はスッと目を逸らしてクッキーを頬張(ほうば)れば呆れたと溜息をついた。


「解ってへんなーほんま。うちが思うにや。あの二人が仲ええんわ。同じものを取り合っとるからやな」


「そんなんじゃねえって」


「おーおー照れて照れて。まあでもキッカちゃんは分かるけどナズナちゃんがあそこまで惚れやすいとは思わんかったけどな。二人は初対面やんな?」


「いや、出会ってはいたらしい。ライストってゲームの方で」


「それ流星君覚えてへんってこと?ひどっ」


「いい訳させて貰えるなら多分、一瞬だったんだと思う。それに俺、竜の爪のクランリーダーだったからそん時アホほど人と出会っててさ」


「まあ、VRMMOは出会いの場でもあるからね。でも、それやったら惚れっぽいってのは変わらんやん。流星君モテモテやな。うちも流星君の事好きやし」


「え?」


 ちょっとだけ驚いたが表情で完全に揶揄(からか)われていることがわかった。


「嘘ー」


「新見、お前な」


「まあ分かってると思うけど、まず学校の子はないと思った方がええで。そんなことするためにうちらここ来たわけちゃうしな」


 う”っ学校恋愛に憧れる俺にちょっと刺さった。ポーカーフェイスするけども。


「それに今時付き合いたかったらソフト()うてきて、それで理想の人を作ればええ。そしたら恋してフラれることも傷つくこともあらへん。それが現代っ子の恋愛観や。ただあの子らみてるとどっちがええんやろなってちょっと思ってまうけどな」


 そっかといいつつ目を落として手のクッキーをいじる。


(こういうのってズルズルせずにはっきりさせた方がいいんだっけか)


 でも、万が一。ナズナに告白されたとしたら何と返していいかわからない。そう思うともうちょっと時間が掛かって欲しいなって思う俺もいる。


「なあ流星君聞いとる?」


「え?ああ聞いてる聞いてる」


「ミミックの件は御免な。ネタバレせんようにしてってその子に聞いたら逆にあんな感じになってもうてな」


「別にいいって。むしろ良い感じになったし」


「ネタバレ滅茶苦茶怒る人もおるからなー。このゲーム相当シナリオ力入ってるみたいやし」


「そうだな。めっちゃ先が気になってる」


「どうなるんやろなーあの子ら。ハッピーエンドやとええんやけど」


 それは同意。


「それはそうとあいつら遅いな」


「せやね。町で問題起きることはないと思うんやけど」


 そんなことを話していただろうか。丁度いいタイミングで太一から新見さんにコールが入った。


「ちーっす。結たん、そこに流星いる?」


「おるで」


「ああ悪い、ストーリーでチャットコール切ったままになってたわ」


「流星、お前ホントそういうとこあるよな。まあいいけどさ」


「それで要件はなんなん?それだけちゃうやろ?」


「そうそう、二人ともギルドに来いって」


「ギルド?またダンジョンにいくのか?」


「違う違う。何か喧嘩してんだよSクラスが」


 喧嘩?何故?ボスのことで揉めているとは聞いていたがと俺たちはギルドに向うのだった。


 ◇◇◇


 言い争いの声が外まで聞こえてくる。確かに喧嘩というか何やら揉めているようだ。俺たちがギルドに入ると太一と柊さんが立っていて、他にも野次馬達が奥の連中を眺めていた。女性徒が声を上げた。


「おかしいって有栖川さん。こんなの貴方らしくない」


「貴方らしくない?貴方が私の何を知っているのかしら」


 おうふ、めっちゃ揉めてる。しかも、お冠なのはあの有栖川のようだ。対する連中はSクラスの生徒だろう。かなり装備が整っている。


 多分、相当ダンジョンを掘っている。これはSクラスととんでもなく差がついているかも知れない。一人の男子生徒が先ほどの女性徒を(かば)った。


「ストーリーはクリアした。確かに先は気になるけど(こだわ)るところじゃない。大体、これだけ挑戦して無理だったんだ。いい加減、次にいくべきだ。アンタだってそれは分かってるはずだろ?」


「ですから言っているでしょう。貴方たちだけで先に行けばいいと」


 有栖川がそう切り返せばもう一人の男子生徒が前に出た。多勢に無勢。有栖川対全でクラスが割れているそんな感じだった。


「有栖川、確かにこのゲームはシナリオが良く感情を揺さぶられる。だが、ゲームだ。実際に本当の命を持った奴が死ぬわけじゃない。お話なんだ。先に行ってレベルを上げてそれから戻ってくればいいじゃないのか」


「私は別に同情しているわけではありませんわ。私はもう負けぬと決めたのです。それが例え作られた造り物だとしても敗北のまま終わるわけにはいきません」


 固い決意を見せた有栖川の態度に男子生徒はガリガリと頭を(むし)って見せた。


「大体、有栖川お前どうやって仲間を募集する気なんだ。俺たちSが束になって勝てなかった相手だ。実力があって、こんなのを受けようって酔狂な奴ら。お前にそんな連中を集める伝手なんてまだないだろう?」


 図星なのだろう有栖川の拳がぎゅっと握り締められ、男子生徒はやれやれと肩を(すく)めた。


「熱くなりすぎたらプロじゃねえ。戦闘ならまだしもな。それはハイヒューマンから遠ざかる行為だ。お前ら行くぞ。主席様はちょっと頭を冷やしたいそうだ」


 そういってぞろぞろとSクラスの面々は出ていってしまった。残された有栖川はじっと地面を見て美咲が横でおろおろしている。やがて顔を上げた有栖川はその足をギルド受付へと向けた。座っていたのは俺を担当してくれた受付嬢だ。


「PT募集紙を」


「はっはい」


 有栖川の雰囲気にビビる受付嬢。何か不憫である。彼女はサラサラと書くとピっと渡した。


「これでお願いしますわ」


 そしてドンっと金貨を置き、受付嬢は無言で了解したとコクコクと頷く。有栖川は振り返りそこで漸く俺と目が合った。一瞬、足が止まりピクっと眉が反応したが無言でスタスタと通り過ぎてしまった。


「ああっちょっと待って!待って有栖川さん」


「美咲」


 その後を追おうとした美咲を俺は呼び止めた。


「りゅっ流星!?どうしてこんなところに!」


「別におかしかないだろ?」


「えっ?あっうんそうだね。えっと」


 彼女は有栖川の方をチラチラ見て決めかねていたようだが、俺の手をとった。


「流星、ちょっと話がしたいんだけど今大丈夫かな?」


 勿論と俺は深く頷くのだった。

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