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影姫制度とアッシュ

 エア・ストラージュとのストーリーは淡々と進展なく進んだ。彼女との仲は深まるが彼女に(まつ)わる事柄は依然として謎のまま。


 どうして魔物の声が聞こえるのか。影姫というのは何なのか。そんな停滞していた物語が大きく動き出したのは彼女の小屋に訪れようとした5回目のことだった。


「やっと新しいパターンか」


 横にいたキッカが消えた。それも街中で。今までに無かった展開である。俺は息をついて彼女の家に向って歩く。するとその通り道で一人の青年が俺を待っていた。そいつは壁に(もた)れ掛かり俺をじっと見つめている。


(アイツか)


 出会いの時にエアを追っていた白髪の青年。深い青い目を持つその青年は甲冑姿ではなく正規兵としての衣を(まと)っていた。アホほど美形で腹が立つ。


「こうして面を合わせるのは初めてだな。姫様を(たぶら)かす稀人」


「別に(たぶらか)してねえよ。俺は依頼を受けただけだって」


 ドチャっと青年が地面に金貨袋を放った。


「依頼か。金が目的なら好きなだけ拾うがいい。地に這いつくばってな」


 うむと俺は心で頷く。こいつはゲームだ。目の前にいるいけ好かない奴はAIで、これは運営の演出。


(よし、落ち着いた)


 と俺は冷静に金貨を蹴り飛ばした。ばら撒かれ相手の足にぶち当たる。


「別に金で受けたわけじゃねえからいらねえかな。あっと、それアンタの金なんだろ?拾えよ」


「貴様っ」


 あいつらがいたらNPC相手に何やっとんねんって言われそうだが生憎(あいにく)ヴァラパラのストーリーは現状一人で楽しむものだ。


 ここまでリアルだから完全に成りきるのもありだと思った。ロールプレイは当たり前だし、その方がこのゲームを思いっきり楽しめそうだし。


「アッシュ様ー」


 っと遠くの方で声が鳴り青年がチっと舌を打った。こいつの名がアッシュということなのだろう。


「稀人、やんごとなきお方がお前と話をしたいと申されてる。付いてこい」


「やだっつったら?」


 驚くべき速度でビっと剣を突き付けられた。俺より遥かにレベルが高いのか、それともスキルを使ったのか。そこに何人もの兵士が駆けてきた。


「アッシュ様、こいつが?」


「そう稀人だ。丁重にお連れしろとのご命令だ」


 剣突き付けられてますけどっとツッコミたかったが、ただ長くなりそうなので流石にやめておいた。


「あ、あの……金貨が散らばっているんですがこれは一体」


「私のものだ。悪いが拾って置いて貰えると助かる」


「ぶふっ」


 思わず吹き出してしまえば物凄い形相で(にら)まれた。こいつこわ。這って拾えとか言われたしこれくらいは許されるだろ。


「解りました。えっと」


「すまないな。こいつは私が連れてゆく」


「お一人で大丈夫ですか?稀人は強いと聞きますが」


「Lv5程度。どうやらこいつは落ちたてらしい」


 落ちたて=始めたてだろうか。弱いと思われるのはNPCだろうと癪だ。俺はこいつと戦闘イベがあることを強く望んだ。まあ、とのわけで俺は白髪の騎士アッシュに連れられ王宮へと連行されたのである。


 ストラージュ最上に位置する王城トリスタン。水の神殿としかいいようがないその空間は白で塗装されているだけあって輝きに満ちていた。また、噴水として飾られた水は色付き、壁は工芸品のように掘られ見るだけで圧倒される。


「おい余りキョロキョロするな」


「ん?ああ悪い。珍しくてさ」


「珍しい?稀人の世界は我々の世界よりもずっと進んでいると聞いたが」


「進んではいる。でも進んでるからこそ失ったり、止まったり」


「進んでいるからこそ失うか……」


 そのまま無言になって歩き続け、アッシュが扉の前で足を止めた。扉は綺麗だが、もしここがやんごとなきお方の部屋だとすれば何でこんな隅っこにと俺は思った。アッシュがコンコンっとノックをする。


「姫様かのものを連れて参りました」


「ご苦労様ですアッシュ。その方を入れて貴方は下がって下さい」


「いや、ですがっ」


「あの子が信じた者なのでしょう?だったら大丈夫」


「っ……わかりました……」


 行けっと言われ俺はドアノブを握る。何だか緊張すると恐る恐る俺は部屋に入るのだった。


 部屋の中はどういうわけか真っ暗だった。現代人の俺はこういう時何と言って踏み込んでいいのかわからない。


「えっと、失礼します。アダッ」


 痛くはないが確実に何かを蹴った。町にあるものを壊したり盗んだりするとプレイヤーには罰金が発生する。弁償とかになったらヤバいと俺は焦る。


「ふふっすいません。高位の隠蔽魔法使うとこうなってしまうのです。月だけは綺麗なんですけどね。稀人様もう少し此方へ」


 そう、夜になっている。窓から射した月明かりが窓際に立つ者の姿を露わにする。やっぱりと俺は思った。深く息をついてそのシナリオを受け止める。


「驚きました。驚かれないのですね」


「声で何となく……後……」


 新見さんから聞いていたミミックの話。声とあれで薄っすら予期してしまった。


「いや、これはアンタに言ってもだな。一応、聞くけど双子って訳じゃないんだよな」


「はい」


 コツコツっと履いたヒールで音を立てながら、女性が歩み寄ってくる。揺れる髪はやはり水色髪で俺を捉える瞳は彼女と同じブルーアイだった。初めて会うが俺の見知った顔。そんな彼女が──


「初めまして稀人様、影姫エア・ストラージュと申します」


 騎士姿でも村人服でもなくドレス姿で裾を軽く摘み優雅な礼を行うのだった。


 システムに表示された名もエア・ストラージュ。見た目もエア・ストラージュ。でも俺の知ってるエアとは雰囲気が明らかに違う。


 彼女には申し訳ないがこっちのエアはしっかりお姫様をしていた。ただ時々、紅茶を出してくれる姿などが彼女とピタリと重るのだ。


「紅茶、あの子も好きでしょうか?」


「ん?ああ、まだ5回くらいだけどいつも出してくれるから多分、好きなんじゃないかな」


「そうですか。あの子の好みは変わってないのですね」


 良かったと微笑するエアに俺は聞く。


「えっとそれで姫さん。できれば詳しく話して貰えると嬉しいんだけど」


「勿論、お話しします。ですが稀人様にはまずこの国の成り立ちからお話した方が良いでしょう」


 そう言って彼女は軽く喉を潤してから言葉をつづけた。


「今より遥か昔、ストラージュではある災厄が起こったと言われています」


「ある災厄?」


「冥王グレゴア。数多の(むくろ)を纏うその異形の怪物はストラージュにあった多くの命を奪い去りました。そこで竜の巫女であった我らが祖エウレ様が立ち上がり、水龍と共にグレゴアに闘いを挑んだのです。闘いは長きに渡り決着、互いに深く傷つきましたが巫女はグレゴアを封じることに成功しました」


 まるで神話のようなお話である。ただグレゴアって迷宮の名前じゃなかったか?


「ですが、封印維持には水竜の力を借りなければならず、水龍はその見返りとして生贄を要求しました。巫女のマナを持つものを生贄に捧げろ。さもなくば冥王グレゴアは復活し、この地のマナは失われるであろうと」


「成程なそれで」


「はい、光姫と影姫の制度が作られたのです。光姫は巫女の血を次代に繋ぐ役目をそして影姫は生贄(いけにえ)としての役割を」


 彼女はギリっと下唇を噛み締めた。


「本来であれば私は影姫の役目を果たし、(にえ)の定めを果たさねばなりません。ですが、父と母は私を愛しそれを良しとしなかった。彼らは私の代わりを生み出すことで私をお役目から逃そうとしたのです。ストラージュの秘宝とある魔物を使って」


「ミミック。そうやって出来上がったのがあのエアってわけか」


「はい……。彼女が魔物の言葉を理解できるのも当然です。だって彼女はもとより魔物なのですから」


 全くどこのどいつかは知らないが酷いシナリオを考えたものだ。


「それで?アンタが俺を呼んだ理由は?あのエアが生贄になるよう促せ……って話じゃないんだろ?」


「稀人様は話が早くて助かります。稀人様にはあの子が助かる道を私と共に考えて頂きたいのです。もしくはその協力も」


「アイツが助かったら高確率でアンタが生贄になるんじゃないのか?」


「構いません。元より私が生贄だったのです。あの子を犠牲にして生きるつもりなどありません」


「あいつは魔物なんだろ?」


「あの子は人よりも大きな優しさを持っています。自ら考え行動し、懸命に生きてるんです。魔物であるかどうかなんて関係あるんでしょうか。人と変わらない命。私はそう思います」


 ◆───-- - - -            - - - – --───◆

 ストーリークエスト :エア姫の願い 続

 本物のエア・ストラージュから真実が語られた

 彼女は身代わりとされたもう一人のエア姫を救って欲しいと貴方に訴える

 報酬????

 承諾       拒否

 ◆───-- - - -            - - - – --───◆


 このタイミングでこんな設問なんか作んなよっと少し怒りを込めて強めに押す。するとエア姫の表情が和らいだ。


「ありがとうございます稀人様」


「いいってアイツから受けたやつの延長線みたいなもんだし。しかし、ミミックの擬態?ってのはとんでもねえな。姿は完璧。まあ、性格は随分と違うみてえだけど」


「いいえ、稀人様。昔の私は騎士に憧れてたんです。これでも男らしくなりたいって思ってたんですよ」


 彼女はムンっと細い二の腕を見せて、ほら、だから僕って一人称を使っていたでしょうと言われコクコクと頷く。


「あれは昔の私です。ほんとそっくり。おてんばで無茶苦茶してよく騎士団長様に叱られてました」


 もう随分とお年を召されてしまいましたけどねと言われ騎士団長は最初のムービーであの追っかけていたお爺さんなんだろうと思い至った。


「私は王家としての教育を受けてこうなってしまいましたが、あの子は変わらない」


 あの子は私の未来なんです。そう語るこっちのエアも相当の闇を抱えているように俺の目には映る。果たしてこの物語はハッピーエンドになるのだろうか。それがちょっと不安だ。

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