喋る魔物とストーリークエスト
ギルドカードを渡して彼女に思い出させた俺は出して貰った紅茶を啜る。システムに出たエアの部屋という表記をチラ見しつつ、俺は室内を改めて観察する。元々広くはない上に物が多いためかなり狭い。
机には大量の本やフラスコなど実験を彷彿とさせるものが散らかっていた。彼女が研究しているというのは本当らしい。そしてその対象はやっぱり魔物であるようだ。
「どう口に合うかな?」
「ああ、すげえ美味い」
「それは良かった」
二っと彼女は笑って自分も入れたカップを手に持って俺の対面に座った。何だか変な気分である。まるで人と喋っているようなのに彼女はAI。そしてこれはストーリーで多くのプレイヤーが俺と同じ体験をする。
(何かギャルゲーみたいだよな)
「どうかした?」
「あっいや何でもない。ちょっと考え事を」
ふーんっと彼女もカップに口をつけてそれをコトリと置いた。
「ごめんね僕、目が悪くてあの時君の顔実はよく見えてなかったんだよ」
「眼鏡とか掛けないのか?」
あの受付嬢もしていたのでこの世界にあると思うのだが。いや、NPCにこんなこと言ってどうすんだ感もあるけども。
「普段は魔法で見えるようにしてたんだけど、あの時は魔力使い果たしちゃってて」
ほら、追われてたからと言い俺は納得する。
「姫さんなんだよな?」
「うん、でも影姫。僕はホンモノじゃない。本物は妹だよ」
姫にホンモノとか偽物とかあるのだろうか。
(影武者ってことか?いやでも影武者って評判下げたりしねえし、そもそも姫様ポ
ジションなのにこんな城から離れたところに住んでるし)
どういうこっちゃっと悩みつつ
「実はこないって思ってたんだ。町で僕の噂は嫌でも耳に入るだろうから」
「魔物の声が聞こえるんだよな」
「そう、やっぱり気持ち悪いって思うよね。君も」
「いや、気持ち悪いとは思わねえかな別に」
即答しつつも、もしかして分岐があるんじゃないかと俺は疑う。
(これもし気持ち悪いって言ったらどうなるんだ?必ず同じ流れになるようになってんのか?)
良心的に言えなかったけれどゲーマーとして気になるものは気になった。普通にプレイヤーに問いかけてくるセリフがあると。
「ホント?」
「正直に言うと俺は来たばっかりで分からねえってのが本音。まあ、魔物と喋れても別にどうとも思わない。プレイヤーならな」
「そう……やっぱり稀人は違う。話を聞いて貰えるだけで僕は十分。魔物はね忌むべき対象なの。町の人も親しい人を殺されたり、畑を荒らされたり、攫われたり」
ふむっと黙り続きを促す。ここから彼女としても勇気がいるのかすーっと息を吐いて俺の目をじっと見た。そして見極め、彼女は話すのを決めたようだった。
「でも、いい子達もいるの。信じられないかもしれないけど話が通じて私たち人と同じ思考を持つ者がいる」
「それはそういう種族ってことか?」
ふるふると首を振った。
「姿はマチマチ。紛れてる。スライムであることもあれば、ハッピーだったりオークであったりすることも。その子達の声が聞こえるのどうしてこんな酷いことするんだって」
彼女はぎゅっと腕を握った。その姿は本当に辛そうでこれがゲームであることを忘れてしまいそうになる。
「勿論、純粋に悪い子もいる。ううん、大抵がそう。でも、ただ住むところを追われたり、人に子供を盗まれた子だっている」
「そいつらを助けたいってことか?」
「無理。私はこの人の国の姫。民のために私はいる。でも」
彼女はエアは両の手を出しじっとその掌を見つめた。
「私は知りたい。魔物って何なのか。どうして私には魔物の声が聞こえるのか。こんな力を持つ私が姫として何を為すべきなのか」
(何を為すべきなのか……か)
「君にお願いしたいことがあるの。僕がやることや見たことに稀人としての意見が欲しい。できれば理由が分かったら最高だけどね。報酬は」
これっと彼女は懐から包みを取り出し机に置く。ズシリとした重みのあるお金の音。結構な金額のようだ。
「この20万PC。僕が冒険者で貯めたお金だよ」
「いいのか?結構な大金だろ」
「うん、使う予定があったんだけど無くなっちゃったから」
ん?っと疑問に思ったが彼女は更にとシュルリと包んでいた布を俺に向けて広げた。
「後、これ水飛竜の翼っていうの。風が必要だけど滑空できて冒険する稀人の貴方の役にすっごく役に立つと思うんだ。できればこの二つで受けて欲しいけど僕の傍にいることで貴方も変な目で見られるかもしれない。だから、全然この話は断ってくれてもいい。どう……かな?」
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ストーリークエスト :エア姫の願い
魔物の声が聞こえるという影姫エア・ストラージュが稀人としての意見を聞きたいようだ。
報酬20万|PC 水飛竜の翼
承諾 拒否
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「うおっ」
「どうしたの?」
「ああ、いや何でもないこっちの話」
行き成り目の前にウインドウが出てきてビビった。リアル過ぎるのも考えものかもしれない。ゲームとして当たり前のことなのに色々と落差が凄い。
(拒否ったらストーリー進まないだけかな?)
そんな事考えつつ承諾を押す。ヴァラエティーパラシス、このゲーム何だか断ると話が流れそうな怖さがある。水飛竜の翼ってのは良く分からないが報酬が無くても受けるに決まってる。
「っ!ありがとう!受けてくれて」
(うっわ)
潤んだ瞳での上目遣いにドキっとしてしまった。現実なら顔が赤くなってしまったかもしれない。
(こりゃこのキャラ人気でるわ)
太一が落ちたのも無理ないかもしれない。姫騎士みたいなものだし、僕っ子だし滅茶苦茶に可愛い。
(でも……キャラ……なんだよな)
これがただのキャラクター。エアとの話に花を咲かせながら俺は架空技術の進歩にジワリとした恐怖心を抱いた。
彼女との軽い談笑を終えて、外に出た俺は壁に凭れ掛かったキッカに目を合わす。
「早かったな」
一緒のストーリーのはずなのに、もしかして同じものじゃないのか?プレイヤーとサポーターで見るものが分けられている?ぐるぐると考えた俺はキッカの様子がおかしいことに漸く気づく。
「キッカ?」
話しかけてもじっと俯き下を向いている。露出度を抑えるために買ったローブのせいで全く顔が見えなかった
「どうした?」
肩を持ちぐいっとすれば彼女は顔を真っ青にして赤い目を見開いていた。
「何かあったのか?」
「流星、わしは力に目覚めたようじゃ」
「力?」
キッカは両の手を出し見つめプルプルと震えだした。己を恐れるかのように。
「信じられん力じゃ。世界を変えうるほどの」
かつてない真剣な視線をキッカから送られ俺はゴクリと唾をのみ込む。
「どんな力なんだ?」
「時飛ばしじゃ」
「時……飛ばし……ってマジか」
俺の驚きにキッカは頷いた。
「うむ、まずわしは視界右下に出た矢印マークを押したんじゃ」
(ん?)
「すると次の瞬間全てが終わっておった。わしは理解した。今、わしは時を越えたのじゃと……わしの真の力が解放ってどこ行くんじゃ!流星」
スタスタスタと歩き、俺はジト目で振り返る。
「ただのスキップ機能じゃねえか。ストーリー飛ばすような奴はゴミだ。折角、お前とストーリーについて話そうと思ったのに今日の予定に入れてたカフェは無しだ」
「ぬわあ後生じゃあああ。許してなのじゃああ」
「駄目。それよりこの町、ダンジョンがあるらしくてさ」
「あっお主元よりその気じゃったじゃろう!いーやーじゃ。キッカはカフェデートするんじゃ」
「なあキッカ、実はダンジョンにもカフェがあって」
「嘘つけーなのじゃ」
俺たちはその場を後にする。キッカと話すことに夢中で俺は見落としてしまう。エア・ストラージュがじっと此方を伺っていた描写があったということに。




