ギルドと稀人
カランコロンカランとドアベルを鳴らし、店から出てきた俺と太一の顔はホクホク顔だった。
「あー買った買った」
「よきかなよきかな。やっぱり初めて着いた町の買い物は至高の瞬間よな流星」
その後ろからウンザリとした女性陣が出てくる。
「何でVRMMOになると男の買い物ってこんなに長いのよ」
「男と女って現実と架空でよくひっくり返るんよな。あんなステータスと睨めっこして何が楽しいんかほんま分からんわ」
「長かった」
「飽きたのじゃー」
女性陣から大不評。でもこれだけは譲れない。男の冒険の醍醐味だ。
「何言ってんだって、装備整えるのは基本中の基本だろ」
「太一君、別に整えるのはええねん。うちらは長い言うとるねん」
「結たんいいか。そこはしっかりやっとかねえとPT仲間にこう言われるんだぞ。そんな装備で……」
太一が古のオタ知識を披露しようとしたので俺がスルーして前に出るとテテテっとナズナが付いてきた。
「悪いな案内までさせちまって」
「ううん、フィールドボスとの闘い見せてくれたお礼だから」
そう、という理由で俺とキッカは軽くストラージュの町を案内して貰っていた。しかし、流れで群れているが改めて考えると謎の面子である。
(キッカも入れると女4に男2か。むさくるしかった竜爪時代からすると考えられねえな。ああ、黒ノ助もいた……ってかこいつらのサポーター俺見たことなくね?)
今更だが気づいた。そういえば太一のサポーター黒ノ助の姿も見当たらない。
「どうしたの?」
「いや、そういえばお前らのサポーターはってさ」
「今更。始めの町にサポーター収納ボックスが売ってた。その中に皆入れてる」
「え?マジ?」
「マジ」
何それ知らない。ソロと情報遮断の影響がここできた。基本出さないが常識とはいえ道理で全く見かけないわけである。
「さっきの店には無かったよな。それこっちでは買えねえのかな」
戻るのはメンドクサイ。普通、転移石とかがあるはずだが、ベーターテストでは解放されていないっぽいのだ。ベータシティーが通常ゲームの内じゃないってこともあるだろう。これはやらかしたとガックリする。
「でも、流星は使わなくていい」
「ん?なんでだよ」
「あの子は君と一緒に世界を見たいと思うから」
「そっかな?」
「うん、そう。絶対」
それから彼女と並んで歩き続ける。会話デッキが尽きてしまってちょっと気まずい。ゲームの話題なら振れるけどそれ以外だと途端何を言っていいのかわからなくなる。仕方なく俺はあの疑問に頼ることにした。
「あのマフラー止めたんだな」
「うん、あれは貸し出し中」
貸し出し。あのよく一緒にいるちびっ子にだろうか。しかし、貸すほどのアイテムなのだろうか?
「流星、思い出した?」
「いや……教えてはくれねえんだよな?」
「うん、思い出して欲しい」
「うーん」
ここまで言われると思い出してやりたい。が、真剣に悩むも出てこずナズナが時間切れと笑った。
「残念、ギルドについた」
ギルド、ストラージュの中心に位置するそれは巨大な神殿だった。壁には絵具のような色彩で波を捩った模様が描かれ何とも不思議な建物。ぶっちゃけ俺はここがどんな役割を果たす場所か分かっていないけど
「私もここで止めてるから、一緒にストーリーできる」
ナズナの言う通り物語を進めるためにここにきた。今日は落ちる気だったが、有栖川達Sクラスに感化されもうちょっとだけやりたくなってしまったのだ。
(まああんまり長くできねえけど)
出だしだけもうちょっと見たい。そんな俺の我儘に彼らが付き合ってくれたのである。
◇◇◇
ギルド内、海岸を意識した内装と白い床と貝殻のような家具が入る俺たちを出迎える。受付があって何だか役所っぽい。そう感じるのは粗雑な冒険者がおらず生徒っぽいのがぽつりぽつりといるからだろう。
「ギルドっつうとクエスト受ける場所だけど」
俺がつい呟けば新見さんに聞こえていたようで答えてくれた。
「その通りやで、普通のクエストやデイリークエストもあるらしいわ」
「デイリー?」
「せや。その日に美味しいモンスター情報とか教えてくれるんやって。うちらテスターみたいなもんやから今は使えんけど、このゲームも本来はライトプレイヤーにも配慮した造りになっとるみたいやね。まあどこまで優しいかは知らんけど」
「へえ」
「その他にも自分でクエスト出してプレイヤーにやって貰ったり、報酬次第ではNPCがやってきてくれたりするそうやわ」
流石、高性能AIを有するヴァラパラ。どんな風に処理されるかは分からないが、プレイヤー側が依頼してNPCがやってくれるってのは面白い。
「んで最後に仲間の募集もここでできる。pt組みたかったらここで張り出すって感じやな。メニューからもできるらしいけどお金が掛かるらしいから破産には気を付けや」
「大丈夫、さっきの装備で一文無しだし」
もう破産してますビシッ。
「何ていうかその日暮らしみたいなプレイングしとるな流星君」
しかし、この施設はかなり便利。どうやらここが拠点となりそうだ。テスターシティー乙である。
(お)
受付の方に進むと奥に有栖川達Sクラスがいるのが見えた。幼馴染である美咲もその中にある。
(っと理聖はいねえのか)
でも、もう一人の幼馴染の姿はそこに無かった。理聖はどうしたのだろうか。始業式であんな再開をしてしまったため気に掛かってはいるが攻略の邪魔はできないと俺は美咲達から視線を外す。
「はい、こっから先行ったらストーリー始まるわ。うちらそろそろ時間ヤバいから先落ちるな」
「ああ、助かったよ。案内サンキュー」
「言いっこなしや。見せて貰ったし、流星君には色々頼むやろしな」
新見さんへの貸しは重そう。お手柔らかにっと伝えて新見さん、太一、柊さんと別れる。ナズナ、俺、キッカでカウンターへ進むとパッと二人が消えた。やっぱりストーリーは基本一人で見るものらしい。
(ってかAIにもわざわざ見せてんだな)
仕様で仕方なくだろうか。若干の違和感を感じつつ。俺は紡がれるであろう物語に集中する。水の都、ストラージュのギルドと文字が浮かび上がり彼らの仕事ぶりが映像で流される。
「おお」
自分がそこにいるのに視点が後方からやってきて、本来の目線に収まる。演出。ちょっと不思議な感覚でつい声を漏らしてしまう。
それが聞こえてしまったのかギルドカウンターでせかせか動いていた女の人が顔を上げた。20代くらいの女性、眼鏡を掛けて凛としているせいかちょっと柊さんと似てる。成長したら将来こんな感じになるんだろうか。
「こんにちは、初めての方ですか?」
「えっと……はい」
AIなんだろうがやり取りがリアル過ぎて緊張する。いや、ムービーだからこれも映像か?何だか分からなくなってきた。考えるのはよそう。
「冒険者登録でしょうか?」
「冒険者登録ってのは気になっけど」
まずこれからと女騎士エアから貰った証を手渡せば受付嬢の目の色が変わった。
「これはっ!これをどこで?」
「入口で馬に乗った彼女とぶつかりそうになって。そしたら稀人って言われて話したいって言われた感じだっけか」
改めて説明するとなると難しい。ただ俺から稀人と聞き受付嬢は驚き、成程と彼女は頷いた。いや、勝手に納得しないで欲しい。
「とりあえずその稀人ってのを教えて欲しいんだが」
「ああ、そうでした。来たばかりの稀人の方は混乱されているのでしたね。稀人というのはこのヴァラティエとは違う別世界、地球と呼ばれる場所から転移した人のことです」
普通に地球という言葉が出てきてちょっとだけドキっとした。そして漸く出たこの世界の名はヴァラティエ。多分、ゲーム名から捩ったのだろう。説明は続く。
「突如現れた稀人はこの世界をゲーム・遊び場と言い、事実彼らはとても強力な力を有していました。我々が恐怖するほどに。ですが事態を重くみたこの世界の神パラシス様が私たちヴァラティエの民と貴方たち稀人がこの世界で手を取り合い共に歩めるよう。共生の道を示されたのです」
神パラシス。俺たちから見るとゲーム開発者エリオットということになるのだろうか。いや、そういう見方をするのは流石に野暮ってものか?
「魔物と闘うギルドはそんな稀人と深い縁があります。また富と平穏を与えて下さったパラシス様に我々ギルドは畏敬の念を抱いているのです」
面白いと素直に思う。つまり力あるプレイヤーを排他せず引き込むことで荒事を生業としていたギルドはとても恩恵を受けましたという筋書きなのだろう。ここが想像と違って神殿めいていたのも宗教要素を示していた。
(要するによくあるギルドと教会が混ざった感じか)
「稀人は不思議な力を持ち、また守られています。急に我々から貴方たちの言葉がわからなくなったり、転移したり、死んでも生き返ったりと。そして、この世界の住人でないあなた方には常識がない。そんな貴方だからこそ、姫様は言葉を交されたい。そう思われたのでしょう」
姫様。まあもう分かりきっていたことだけれど、この章のタイトルであるおてんばというのはやはりあの女騎士のこと。となると影姫が気になるところだがこの後、俺は眉を顰めることになる。
「俺に常識がないから話したい?」
そう言えば受付嬢は憂いのある瞳で俺を見た。
「はい、姫様はこの国の民から恐れられているのです。何故なら彼女は」
魔物の言葉がわかるから。ちょっと意外な展開。だからか妬けにそれが俺の耳に残ったのだ。




