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コロネロ亭と重ね

「はぁ~エアたんマジ天使」


 俺の友人、瀬良太一が机にグデーっと倒れ込み、一枚の写真を持ってそこに気持ちの悪い笑みを向けている。ここはストラージュにある宿の一つ、コロネロ亭。


 豪華絢爛という訳ではないが、ファンタジーちっくな内装で人気が高い。ちなみにここはF~Cクラスの面々が多いとのこと。掲示板で分けられたせいか自然とそうなったらしい。


「ふわあ眠む」


 正直、町を見て回りたかったけれどあの後すぐにお馴染みとなったF面子に呼び出されてしまったためここにいる。


(あの子エアっつうのか)


 俺がチラリと覗き込むとやっぱり写真はあの水色髪の女騎士が映し出されていた。俺は椅子を引いて、太一の対面に座る。


「なんそれ盗撮?」


「おっ流星もいるか?課金1500円だぞ」


「たっか」


「馬鹿いえ格安だっつーの。現実の方でも届くんだぞ。つまりゲームと現実二つの世界で俺はエアちゃんと二人きり。うへへっ」


 うわあ……っと駄目な悪友の姿にドン引きしつつ俺はアイテムボックスから飲み物を取り出しそれを啜る。ゲーム内だが味覚が再現され旨味を感じる。


「はああー出会って即衝突とか。運命感じちゃうわー」


「馬だろ?お前が出会ってぶつかったの」


 無視。そして太一による太一のための寸劇が始まった。


「ごっごめんなさい。怪我はっ!?」


「あれ?今ウマ当たっちゃいました?まあ、俺鍛えてますからノーダメですけど」


 へーあれ当たっても大丈夫だったのかとズズズっと飲み残りを鳴らす。まあ、あんなんで死に戻ったら悲惨過ぎるのでそりゃそうだろうけど。


「良かった……でも、もしかして貴方稀人?」


「稀人が何なのかはわかりませんが、俺は恐らく貴方の勇者かと」


「きっしょ」


「素敵。太一様。私貴方と話がしたい。このギルドカードを。ああああエアちゃん可愛いいいいい。俺はエアたん一筋だあああ」


「……お前ハーレムPTだっつってた話はもういいのかよ」


 そう俺が言えば太一は真顔になって俺の肩にポンと手を置いた。


「いいか流星。ハーレムっつうのはな。現実じゃありえねえんだ。それに男が妄想するほどいいもんじゃないんだ」


「そんなのあったり前でしょ」


 そんな俺たちに声を掛けてきたのは俺が勝手に委員長と呼んでいる柊テトラ。眼鏡が似合っていて冒険者風の衣装を身に纏っていた。皆この装備だったからこの国で買ったんだろう。俺も早く欲しい。


「大体、好きな人ができてその人には男が沢山います。貴方はその中の一人ね。なんて言われたらアンタ達だって嫌でしょ?」


 そりゃ嫌だ。そして何気に俺を入れるの止めて欲しい。ハーレム願望とかないのだから。柊さんは俺と太一を横にした真ん中に椅子を置いて座った。


「100年前に男が書いた小説もハーレムハーレムハーレム。ホント昔から男ってのは変わってないわね」


「ん?柊さんってネット小説とか読むんだ?」


 ちょっと意外。俺が指摘すればガタっと彼女は立ち上がった。


「いっ今のはその……あれ……ただの例よ!!読んでないわ!いい!わかったわね?桂木君」


 ギロリと睨まれる。


「え?あっはい。すません」


 怖い。美人だけど柊と付き合う人は尻に敷かれそうである。


「なんやなんや何か盛り上がってるやんか」


 ここでやって来たのは大阪出身の新見さん。栗色ツインテールの彼女はニコニコと笑顔の似合うムードーメーカである。ナズナとキッカも彼女の後ろから付いてきていた。


「別になんでもないわよ」


 ガタっと座りプイっと横を向く柊さんにキョトンとしつつ新見さんは俺を見てニタリと笑った。


「それにしても久しぶりやな流星君」


「ん?そうだっけ?ゲームでは日が開いたかもだけど別に学校では会ってただろ?」


「会ってたけど流星君心ここにあらずって感じやったからなー」


「流星、フィールドボスに熱中で私に構ってくれなかった」


 しょんぼりするのは蒼龍ナズナ。キッカよりほんの少し背が大きいその少女は小動物系で目と髪が紫色をしている。彼女の姿に違和感を感じたが彼女のトレードマークである青マフラーが無かったからと気づいた。


(ってか何か仲良くなってね?)


 気のせいかキッカとの距離が近い。会ってなかったはずなのにやっぱりちびっ子同士だからだろうか。


「まあ、わしは流星と二人きりの時間を過ごしておったがの」


 キッカの煽りにシャーっとナズナがマングースと化し、キッカもフシャーっとハブになった。


(気のせいか)


 ぶっちゃけ、俺の勘違いでなければナズナからの結構な好意を感じている。ただ、理由はわからない。マフラーの事もそれとなく聞いてみたけれど彼女は答えてくれなかった。俺はどうしても思い出せなかった。


「まあ兎に角や。許可出しありがとうな流星君。うちら見とったで。それと遅れたけど突破おめでとうな」


「ああ、ありがとう新見さん。でも結局お前らには先こされちまったな」


「アホいいな。自分だけが特別や思ったらアカンで。うちらだってラヴェルに受かってるんや。優秀なゲーマーが集められとるんやから」


「そうだな悪かっ」


 た……と言いたかったけれどズイっと指を立てた新見さんに迫られ固まる。


「って言いたいところやけどな。正直、うちは度肝抜かれたわ」


「そうね。同じことやれって言われても私も無理。正直、変態だと思ったわ。8時間以上ずっとあの猿と戯れてたし」


 柊さんからの変態呼ばわりに思わず口元が引き攣る。彼女が言うと何だか違う意味に聞こえるのだ。


「へっ変態……」


「流星は凄い」


「そうじゃ凄いのじゃ」


 そして、こういう時は揃って全肯定してくれるキッカとナズナ。


「まあ流星は竜爪(ドラクロ)ん時からヤバかったしな。つっても俺もあのスキルの重ね打ちには驚かされた。マスターするにしても流石に早すぎじゃねえか?リーダー」


「ああ、あれは」


「っせや!あれ!あの動きうちにも教えてや。ねえ、流星君」


 ぐいぐい来る新見さんを押しとどめる。


「仕様を理解したわけじゃないんだ。あれは完全に動きをトレースしたからできただけでホントあのまましかできねえ。ぶっちゃけ相当練習しねえと使いもんにならねえって」


「トレースっつうことはだ。上と闘ったな?流星」


「ああ」


「相手を聞いても?」


 少し考えたが、泣いていた有栖川の姿が頭を過り、俺は首を振った。


「悪い、でもラヴェル生徒だ」


「そっか、ならしゃあねえ。でも、そうか。もう重ねをできる奴がいんのか。ハハ……マジかよ。流石ラヴェル、こりゃ俺もウカウカしてらんないな」


「せやね。激ヤバやわ」


「ちょっと!ちょっと待って」


 柊さんはMMOの戦闘にそこまで詳しくないと聞いていたので付いていけないのだろう。彼女はハイエルフと呼ばれる職人タイプの廃人を目指していると聞いていた。


「そのスキルの重ね打ち?ってそこまで凄いのかしら?だって、桂木君もそのサポーターの子も職を変えて連続でスキル使ってたわよね?」


 うぬ?っとキッカが首を捻り太一がパンと手を叩く。


「よし、ここは俺っちがテトたんに教えてしんぜよう」


 柊さんが不安そうにチラ見してきたので俺は苦笑して言ってやった。


「太一はオタク系男子だから俺より知識あって説明も上手いぞ柊」


「オタク系ってなんだよ。よいしょっと柊さんもちょっち立って貰える?」


 二人は立ち上がって太一はアイテムボックスから二本の枝を取り出してその一つを柊さんに手渡した。


「じゃあそれで俺に切りかかってみてくれる?あっゆっくりね。街中での武器使用に引っかかるかもだから」


 ええっと気の無い返事で柊が振るった枝を太一が受け止める。


「はいストップ。じゃあテトたん……そのままの状態で剣術一式マギア一閃を撃ってみようか。どう?できる?」


「……無理よ」


「そう、無理だ。理由は今のテトたんがその態勢じゃないから。基本的にVRMMOスキルには体勢や向きが発動条件として付けられている。足が地に付いているかどうかとか、その構えをとっているかどうかなどなどそれは…」


「どんな状態からも放てなくするためによね」


 流石にこれくらいは理解してるという柊さんの態度に、ここからと太一の笑みが深まる。


「その通りだ。じゃあ、逆にこの状態のままテトたんが『マギア一閃』を打てたとしたらどう?」


「それは……物凄く強いと思う」


「うん、言ってしまえばこれが重ねうちの強さ。流星とキッカちゃんは確かに流れるようにスキルを行使した。でも、職玉を潰して姿が切り替わるのを経てスキル発動って間があった。仕様。その間が無いのが重ね。仕様を超えた力」


「仕様を超えた力?」


「重ねは現代VRMMOの穴って言われとるんよ」


 新見さんにいい所をとられ太一がちょっと悲しい顔をする。


「VRMMOの穴って……それって不正ってこと?」


 復帰しないので俺が説明してやる。


「いや、普通に合法。認められてるぞ。ハイヒューマン同士の戦いなんかじゃ当たり前のように使われてるくらいだ」


「お前ら……俺が説明するって言ったのによ。まあ要するに必要悪ってことさテトたん」


「必要悪」


 柊さんがオウムになっているのは気のせいか。キッカとナズナも難しかったのかぽけーっとしている。


「うちは開発者やないから詳しいことはわからへんけど、重ねを完全に潰してしまうと戦闘がちぐはぐになってしまうらしいわ」


「かといって重ねを全面的に取り入れちまうとライトが付いてこれなくなったり、ゲーム調整が難しくなる。だからゲーム仕様を深く理解しないとできないようにしてあるんだが」


「桂木君の相手はそれを為してしまった」


「何で俺たちが驚いたか。それをすっごく分かりやすく言うと、流星が相手した奴はプレイヤーでありながらたった数日でシステム側に入ったってわけさ」


「天才だ」


 思わず漏らしてしまう。流石にラヴェル主席は伊達じゃない。有栖川胡桃。俺が勝てたのは序盤であったからとお遊びのような変則ルールであったから。もしスキルが出揃っていたら完膚なきまでに叩きのめされていたのはこっちだったかもしれない。


(あれも騙し討ちみてえなもんだったしな)


 次は通じる技じゃない。勝った気はしていないとぎゅっと手を握り締める。


「まあ俺からすると見ただけで再現しちまう流星も大概だけどな」


「ほんまやわーヤバいのゴロゴロおる。これはすぐに上がれんかもやなー。先輩には悪いけどうち最下荘から脱出したいのに」


 最下荘と聞きうっと女性陣が呻く。俺的にはロマンがあって廃墟寮好きなのだが……。


「ってかそもそも成績ってどうやって決まるんだ?」


「あーそれは俺も思った。あの時は興奮してたから気にならなかったけど兎に角上を目指せだっけ?上って漠然としてるよなー。まだβテストだろ?このゲーム。一般公開されてないみたいだし」


「上もくそもない」


 ナズナの言葉にそうだなっと俺は同意する。


「あれじゃないかしら。ストーリーがあるんだしどれだけ進んだか的な」


 それが一番固いだろうか。レベリングは余りにも味気ないので違うだろう。総合評価かもしれないが。称号も考慮するつってたし。


「ストーリーと言えばあれや。今、ギルドで有栖川さんが募集掛けてるわ」


「募集?」


「そうそう何でもSクラスはストーリーボスに挑戦してるらしいで」


「はっや」


 俺とか町に入ったばかりだというのに、これはウカウカしてられない。


「ん?わざわざ募ってるってことは?」


「そう苦戦しとるらしいで、何でも複数PTで挑むレイドボスらしいわ」


 レイドボス。全くヴァラパラはまだβテストだというのに俺たちを退屈させてくれないようだ。

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流星ノート〇 重ね(英名トラックコンボ)

 身体とのリンク重視、そのため体勢と軌道を以ってスキル発動に至る仕組みが採用されている。『重ね』とはその仕組みを利用しスキルの連続使用を行う手法。

 軌道を一致させる必要があり、通常プレイヤーでは使用不可なほどシビアに設定されている。運営はこれを嫌ったが西洋プレイヤーのデモによって戻されたという経緯がある。英名はトラックコンボ、略称トラコンとして一般化している。

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