表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/110

水の都とおてんば影姫

 俺が通う廃人養成学校ラヴェル。そこは当然、誰にでも開かれた場所ではなく子供でありながらMMOで何かしらの功績を立てなければ試験を受けることすら許されない狭き門である。


 そんなMMO通の生徒達をラヴェルが教材に選んだヴァラエティーパラシスは(たちま)ち虜にしてしまう。勿論、俺もその一人だ。学園の試練を越え、ヴァラエティーパラシスに入った瞬間まさに世界が変わった。まだβだというのにやればやるほどのこの世界に魅了されのめり込んでしまっている。もうこれが授業であることすら忘れてしまいそうだ。


 埋まってない地図、広大なフィールド、高揚感のある戦闘、希少性のあるドロップ品。どれをとっても俺好みで既に最高のゲームだとニヤけてしまう。加えて待ちに待った国産。これで……


「ぬわああああ。流星っ流星っ毒に掛かったのじゃー」


(これで俺の相棒に少しでも落ち着きがあったなら)


 呆れる俺の前で黒髪の幼女が(もだ)えている。3D絵師黒牡丹(くろぼたん)作、キッカ=markⅡ。波打つ黒髪は長く腰まで流れ、エルフを彷彿(ほうふつ)とさせる尖り耳を持っている。八重歯があるし、種族モチーフはきっとバンパイアだろう多分。


 ちなみに彼女のランクはSだが、その評価は絵師人気に掛かるものらしく性能はコモンとも差がないのだそうだ。ホント性格も平均化すりゃよかったのにと彼女の手の中にある(かじ)られたキノコをジト目で見た。


「拾い食いすんなって言ったろキッカ」


「ぐぬ……じゃがっじゃがっお主は地面にこのようなキノコが生えておって食すことを我慢できるというのか?」


「できるだろ。大体なんだよそのキノコ、体全体で毒ですっていってるじゃねえか。ゲームとはいえそんなのよく食べれるな」


 まあ、彼女たちサポーターはプレイヤーが成長させれるように知識を削り取られた状態で造られているのだろうから仕方ない部分はあるんだろうけど。


「でものでもの!太一のやつが言っておったのじゃ。キノコで大きくなるゲームもあるのじゃぞって」


「あのバカたれ。いいかキッカ、アイツはいい奴だが基本適当なんだ。話の9割聞き流すくらいで丁度いい。それとな」


 仕方なく俺は職玉を使って治術士に転職。詠唱し、治術三式リキュアを発動させた。この魔法、時間が掛かるのであまり好きじゃなかったが使えと言わんばかりに毒消しが高額だった。青い光の帯びた手をキッカの頭に置いてやる


「プレイヤーの全員がいい奴だってわけじゃねえ。お前はシステムに守られてるとはいえ余計な事を吹き込もうとする連中も出てくるはずだ。勿論、選択はお前の自由だができれば俺に話を通してくれると嬉しい」


「うみゅ」


 ん?聞いているのかと見れば俺の掌にすりすりと頭を擦り付けて真っ赤になっている。俺は気づいた。


「お前……まさかこの魔法受けるためにわざとキノコ食ったんじゃないだろうな?」


「そっそんなことないのじゃー」


 ぴゅーぴゅーぴゅーっと下手糞な口笛を披露するキッカ。全くとんでもないAIだと俺は軽く小突いてやった。


 キッカからの好意は俺が出会った時点から始まっている。普通、人間であれば例え一目惚れであったとしてもここまで気持ちを披露することはないだろう。


(つまりは設定されたもの)


 当たり前といえば当たり前。けれど、その常識はAIが高性能であるが故に変わる。


(例えばもし俺がキッカだったとしたら)


 見ず知らずの男と出会い。強制的に好意を抱くようにし、付いていくことに何の疑問も抱かせない。


(キッカの選択は本当にこいつの意思なのか?)


 これではまるで人を使役しているかのような──AIとして割り切るべきってのは分かってはいるが……。


「どうしたんじゃ?急に黙り込んで」


 不思議そうに見つめるキッカに思考が中断された。


「いやなんでもない。そろそろ町だなって」


「そうじゃのう。地図によるともうすぐじゃ。楽しみじゃのう。ほれ早く行こうなのじゃ」


「あっ!おい!」


 考えすぎは俺の悪い癖だ。これはゲーム。楽しまなきゃいけないと今考えていたことを俺は頭の片隅に追いやった。


「こら待ってってキッカ。俺、回術士だからお前に守って貰わねえといけねえんだって。おい!ここまで来て死に戻っちまう。キッカ言う事聞けええええ」


 少し長くなってしまったが俺たちは森を抜けて水の都ストラージュに辿り着くのだった。


◇◇◇


「うおおおおおお」


「うひょおおおおじゃああ」


 その光景に俺とキッカは見上げてアホ面を晒す。水の都ストラージュは山のような傾斜地に建てられているため上に上にと街並みが広がっている。水の都というだけあって至る所に水路が張り巡らされていて、あちこちに小さな滝を作っていた。建物は白と青。貝を模してデザインされたものが多い。


「すっげえなこりゃ。あいつらが騒ぐわけだ」


 実は先に行った太一達にちょっぴり話は聞いていた。特に新見さん達女性陣の興奮が凄くてあまり耳に入らなかったけれどこれを見た後では納得である。


 俺たちが町に入ったのは順位があれば一年の中間あたりだろうか。ラウンドエイプキングで手間取ったのもあるがソロでストラージュまでの道のりが厳しかった。まだ苦戦してる生徒もいると聞いたがそれでも時間の問題だろう。Fとはいえ学園ラヴェルに入れる力を持っているのだから。


「さて、とっとと入って登録澄ましちまおうか。ここで死んで最初まで戻されると発狂するわ。それに太一達も待ってるしって……あれ?キッカ?」


 町に構えられた門の前、横にいたはずのキッカが突如消えた。


「は?」


 呆然としていると突風が吹き、周囲にあった葉を巻き上げてざああっと飛ばし俺は(たま)らず顔を手で覆った。


(何だ?)


 何かが聞こえた。それが(ひずめ)の音だと気づいたと同時に女性の慌てた声が鳴る。


「君っ!!どいて!どいてどいてどいてー!!!」


 見れば白馬に(またが)った騎士が俺に突進してきていた。


「ちょっ」


 咄嗟(とっさ)に転がって避ける。ほんとギリギリだった。すぐそばを馬の足が抜けた感触があったくらいだ。


「あぶっねーマジで」


「君、怪我はない?」


 そういって馬を降りた騎士が此方に駆け寄ってくる。ぶっちゃけ俺は混乱していた。なんだこれはと。そんな俺に騎士が手を差し出し、俺はその手を借りて立ち上がる。そこで俺は彼女を観察する。


 プレイヤーかとも思ったが違うと分かる。銀冑から覗く水色髪に憂いのあるブルーの瞳。綺麗だが人形めいた美しさだった。


(NPC)


「……ども」


「良かった。大丈夫そうだね」


 俺に怪我がないことを確認できホッとする女騎士。その一つ一つの仕草が人間っぽくてついついじっと見つめてしまう。


「えっと、そんなに見られると恥ずかしいんだけど?」


「え?あっ!すいません!つい珍しいっていうか。なんていうか」


「珍しい?騎士が?……もしかして君って、稀人(まれびと)


稀人(まれびと)?」


 稀人?なんだそれはと聞きたかったが邪魔するように現れた来訪者の声が届く。


「姫様~」


 お爺さんの声。その内容に俺は首を捻る。


「姫様?」


「うげっ」


 目の前の女騎士が丹精な顔を歪め、再び馬に(またが)った。その際にカードを放ってきたため思わずキャッチしてしまう。


「ちゃんとお詫びをしたいけど、ちょっと取り込み中なの。後日お詫びを受け取る気があるなら冒険者ギルドでそれを提示して」


「はぁ」


 怒涛の展開に気のない返事で返してしまう。彼女は少だけ馬を歩かせた後で再び振り返った。


「後、君が旅人ならすぐこの国を出る事をお勧めするよ。もうすぐこの国で魔物との戦争が起きるかもだから。行くよボルックス。ハッ」


 彼女は馬の腹を蹴って勢いよく駆けてゆく。多分、ボルックスってのは馬の名前なんだろう。その背を見送っていると先ほどの声の主であろう初老の男性と白髪の青年が現れた。彼らも馬で駆けてゆく。初老の男性は俺に一瞥(いちべつ)もくれなかったけれど青年の方とは目が合った。


(ん?)


 彼の視線と合わさったその瞬間、時の流れが遅くなった。聞こえる音がスローな低音となり、目に入る光景がゆっくりと動く。


(これって)


 この感覚には覚えがある。ラウンドエイプキングとの戦いで死にかけた際に味わったものと同じ。


(このゲーム特有の演出か)


 青年は何というか品のある顔立ちだった。美形で貴族と言われても納得する。髪は雪のように真っ白で目はあの女騎士と同じ青色をしていた。青年が最後にニヤっと口角を上げると時間が本来の流れを取り戻し彼らは通り過ぎていった。


「これもしかして」


「うおおおおいたのじゃああ 流星どこに行ってたのじゃあああ」


 行き成り現れた涙目のキッカが足に抱き着き、俺は呆け気味で彼女の頭を撫でてやる。


「キッカお前どこいってた?」


「どこもいってないのじゃ。わしはここにいたのじゃ。流星が消えて馬に()かれそうになったのじゃ」


 やっぱりと乾いた笑みがおきる。


「キッカ、今のはストーリーだ」


「ストーリー?」


「お話さ。どれだけの規模か分からねえがマジでありえねえ」


「それは……そんなにお主が騒ぐことなのかの?」


「ああ、多くのVRMMOがストーリー性を捨ててきたんだ。理由は余りにも金が掛かりすぎるから。マジでどうやって作ったんだこのゲーム。何でこれが騒がれてなかったんだ?隠さずもっと宣伝すりゃよかったのに」


 近代VRMMOはクエスト型。幾つかのクエストを掛け合わせることでストーリー性を辛うじて捻出している。またNPCを放り込むだけのゆりかご型というのも存在するが(ろく)に事件が起こらずいるだけ感があった。


 簡単に言うとムービーの無いゲームにストーリー性を感じられるかということ。そしてその答えは否だった。ゲーム開発者達はVRの可能性に期待したけれど現実は人がファンタジーごっこするより酷いものだった。


 だからストーリー性は削られ、ハクスラや対人だけに力を注いだものが主流を占めるようになった……というわけである。


「流星あれを見るんじゃ」


 キッカが指した空を見れば音楽が流され、宙に文字が浮かびあがった。俺がそれを読み上げる。


「Version1、水龍伝説とおてんば影姫」


 俺はこのゲームが覇権を取ると評したが、もはやこいつはゲームの歴史を変えるんじゃないか。そう言い切ってしまいたくなるほどこんなの期待してしまうじゃないか。ストーリー入りのVRMMOなど数世紀ぶり、俺の胸の高鳴りが止まらない。

────────────────────────────────────

 流星ノート〇 ストーリー性とロールプレイ

 この時代のVRMMOはストーリー性が乏しい。そのため100年前のゲームが今も人気でデーターだけであってもプレミア価格が付けられている。また一部の者たちに大昔のアニメが人気なのもそれが理由である。


 対してオフVRゲーでは体感的な物語が多く、ロールプレイ(なりきりプレイ)に慣れているプレイヤーは多い。対話式で進める事により耳よりの情報が得られるなど報酬が用意されているのはゲーマーには常識である

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ