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廃人遊戯譚『ヴァラエティーパラシス』~人とAI率いる俺が廃人へと至る道  作者: 流体紀行
βテスト『学園ラヴェルとヴァラエティーパラシス』
27/110

閑話『輝き始めた星とそれを意識する者たち』

【一年Sクラス現トップPTアルケミスト】


 水の都、ストラージュ。ここはフィールドボスを突破した流星達が辿り着く事になる都市であるが、既に幾人かの学生達がくつろいでいた。


 当然、彼らもフィールドボスを打ち倒してここに来ている。つまり、一年の中で優秀な面々であると言えるだろう。f~Cまではゼロ。BとAは足して7人で、Sはもう全員突破を決めていた。


 そんな水の流れと石畳で彩られた街並みの一角でカフェを陣取って(くつろ)ぐ一団がいた。名をアルケミスト。あの有栖川をリーダーとし、流星の幼馴染である美咲も所属するSクラスPTである。メンバーは流星が武器屋で出会った面々だ。計6人。


 ヴァラパラのPTは6名で丁度だが一人を()えて余らせ、その人員は情報収集や休息とし役割を回していた。実に効率的である。上品にコーヒーを(すす)る美咲と有栖川。その2人の動きがピタリと止まったのはある運営からのお知らせのせいであった。


「ラヴェル学園の生徒の皆様初めまして私は貴方がたのアナウンス係を担当する事になりましたテムシスと申す者です。以後、お見知りおきを。重要。貴方がたの中で称号を獲得した者が現れました。おめでとうございます。称号番号25番『フィールドボス単独撃破』」


 美咲は目を見開いた。これ絶対に流星だと。


(Fクラスって聞いた時はどうしたんだろって思ったけど。やっぱり流星……凄い)


 有栖川も何かに気付いたのかごっほごほごほっとむせていた。そこにアルケミストきってのチャラ男、深爪切嗣(ふかづめきりつぐ)の声が飛ぶ。


「あれをプレイヤーソロ撃破はやるねー。一体誰……。ありゃ?待てよ。この町にSクラスが揃っているということはSじゃない誰かって事か?」


「タイミングから見てそうだろうな」


 眼帯の男、十文字が深爪の気付きに同意すれば、デザートをつついていた双子の姉妹ネネ、ユユは口を尖らせた。


「でも非効率だよねユユ」


「うん非効率的だねネネ」


「そうだよな。そんな称号、装備を整えレベルを上げればすぐに取れちゃうわけで。俺達が目指すべきは誰も取れない先の成果や称号。やったのは目立ちたがり屋の馬鹿ってところか?とはいえ、Fには無理だからAかBって感じか?」


っと深爪は言うが全く聞いていないといった様子で有栖川がボソリと呟いた。


「間違いないわ。絶対にあの人……」


「どうした有栖川?」


 様子のおかしい有栖川に十文字が聞けば、彼女はぎょっとして手をぶんぶんと振った。


「え?いえ何でもありませんわ!。無駄なことをする人がいるものなのですねって思っただけですわ!わっ私ちょっとお手洗いに」


 テテテっと逃げるようにテラスに向った有栖川。その様子にPTメンバー達は顔を見合わせて首を捻るのだった。


「お手洗いってここゲーム内だよねネネ」


「しかもあっちテラスだよねユユ」


 ◇◇◇


 2階テラス。周囲にNPCしかいないことを確認した有栖川はコツンっと壁に額をつけた。その顔は真っ赤に染まっていた。


「うぅぅうぅ」


 有栖川胡桃(うな)る。桂木流星とはあれから口はおろか顔を合わせてすらいない。互いに忙しかったということもあったが有栖川も意図的に避けていた。理由はそう恥ずかしいから。


「絶対に見られました。絶対に見られましたわ」


 負けたことに関しては既に彼女は立ち直っている。でも、あれ。パンドラボックスの中で少女のようにワンワンと泣いてしまったあの姿。


 あれを見られたとなると話が変わる。気持ちの整理がついてから彼女は気づいたのだ。桂木流星は既にその場を後にしていたが、あれ?これ見られてたんじゃねっと。


「くっ末代までの恥です」


 パンドラボックスを覗き込みニヨニヨしたあの男の笑みが浮かぶよう。


「うぅううぅ」


 許すまじ桂木流星。暫く(もだ)えてようやく落ち着きを取り戻した有栖川はふぅっと溜息をつきテラスからストラージュの街並みをその瞳に収めた。


「ですが、全ては私が負けたことが原因。受け入れましょう」


 有栖川家は廃人を輩出する名門。既にお叱りを受けていた。Fに負けたという話は信じては貰えなかったが。


「確かに私は貴方に負けた。ですが、貴方のやり方は時間と共に差が生まれるものです……。貴方のその甘えたやり方で上にあがれるというのなら私に見せてみなさい。そして」


 風が吹き有栖川の栗色髪を揺らした。彼女はメニュー操作し新ジョブである騎士の姿になると拳をぎゅっと握り込んだ。


「私はもう二度と貴方には負けませんわ」


 再び店内に戻った有栖川はPTの面々に告げる。ストーリーボス、レイドボス攻略に乗り出すと。


【一年Sクラス現二番手PT千里の風】


 ストラージュの街、チームハウス。流星にとってのもう一人の幼馴染である白虎理聖(しとらりせい)率いる千里の風はもう自分たちの拠点を購入し、ラヴェルの学生には授業の一環として必要経験値アップの負荷が掛かっているにも関わらずそのレベルを7としていた。


 これは現状、一年の中で最も進行度が早いPTと言える。ちなみに、エイプキングを倒した流星が2であり、有栖川が5である。


 そんな最速である彼らの拠点は2階建てのログハウス。その一階にリビングルームと理聖の部屋があり、彼は今後の計画を立てるために(こも)っていた。


 そして──それを扉越しにじっと見守っていたのは、PT仲間である金髪少女の司法レアと姫カットの九頭目舞(くずめまい)。彼女たちが縮こまっていたのは、理聖の部屋から何かをぶっ叩いた音が聞こえたからだった。


「理聖さん荒れてますね。思った以上の難度で上手くいっていないとは聞いていましたけど」


 心配顔の九頭目(くずめ)の前で、司法の首が振られた。


「それもあるっすけど、理聖っちの機嫌が悪くなったのは多分、さっきの放送っすね」


「放送?フィールドボスをソロで突破したという?」


 凄いが、後数レベル上げれば苦も無くこなせること。それに手札が増えてからこそが腕の見せ所であり、そんな序盤で本気になる必要はないと九頭目は考えていた。何よりあのフィールドボスは学園が用意したただの試験ボスなのだ。


「その突破した人物、あの底辺君じゃないかってねー私は思うっスよ」


「底辺?」


 首を捻る九頭目にいつもの立場が逆転したかの如く司法がはあーっと溜息をついた。


「もう忘れちゃったんすか?ホント興味ないことはすぐ忘れちゃうっすよね舞っちって。ほら、始業式で会ったじゃないっすか。理聖っちの幼馴染とかいう」


「ああ」


 思い出したとポンっと手を叩いた九頭目だったがピタリと止まり眉間に皺を寄せた。


「どうしたっすか?」


「いや、彼はFじゃなかったかと」


「そうっすね」


「いけるものと?Fランクの男が単騎であのフィールドボスを突破など」


「どうっすかね。私も信じたくないっすけど、あの荒れようはそうかなと」


 ドンっと再び音が鳴って司法が肩を(すく)めれば、バチンと頬を叩いた。


「まあどうであろうと私は理聖さんに付いてゆくだけです。彼には恩がありますから」


「お熱いお熱い。折角だしその体で慰めてあげればどうっすか?VRの体で減るもんじゃないしーチャンスチャンスー」


 ニシシーっとからかう笑みを浮かべた司法にんなっと九頭目が赤く染まった。


「げっ下品ですよ司法さん。私と彼はそういう関係じゃありません。それにハイヒューマンを目指す者にとって恋愛は非効率ですから」


「そうっすね。でも、ゲーム以外ではとことんつまらない時代っすよ」


 九頭目も同意とばかりに押し黙り、少ししんみりとしてしまった。咳をうって九頭目が聞く。


「司法さんは何故、理聖さんに?」


「寄生っすよ。彼が一番上に上がれると思ったからっす。楽してのし上がる。それが私のプレイスタイルっすよ」


「有栖川さんは?」


「あれは色々求めてきそうっスから。楽できないっす」


 まあ確かにと納得しつつ九頭目は司法を睨んだ。


「司法さん。今はプラスになっているので何も言いませんが彼の邪魔となれば私が追い出しますからね」


「わかってるっすよー。もう舞っちはすぐ睨むんすからー。大丈夫っすよ。ハイヒューマンになりたいってのは同じっすから。邪魔なんてするわけないっすよ」


 といってもと司法は目を落としてこっそり流星のプロフィールを確認した。


(まあもっと面白い寄生先見つけたかも知れないっすけどね。全然まだまだ育ってくれないとお話にならないっすけど)


 理聖に呼ばれるまで彼女たちは言葉を交わし、司法の指はいつまでも流星の写真を撫でつけていた。

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