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廃人遊戯譚『ヴァラエティーパラシス』~人とAI率いる俺が廃人へと至る道  作者: 流体紀行
βテスト『学園ラヴェルとヴァラエティーパラシス』
25/110

ラウンドエイプキング戦①

 言葉は不要。キッカがボスに向って駆けだした。それを見た俺は抜刀の構えを行い、その場でスキルを発動させる。


「剣術二式『一刀──


 呟けば足横に幻想の歯車が出現。そいつをカッカッと引き絞らせながら彼らの動き、距離、呼吸をじっと観察し踏み込む瞬間を図り待つ。キッカが懐に入った。押し潰さんとエイプキングが太い腕を振り上げる。


(ここ)


──閃火』」


 歯車が弾け、地を深く蹴り、俺の身が滑空するように彼らの間に割り込んだ。スキルによって体が流れるように抜刀を行おうとするが俺はそれに抗いパっと柄から手を離してしまう。


 すると、警告ブザーと共にスキル失敗と小さく表示され、ペナルティーを受けた俺の剣士スキルの全てが赤く染まる。使用不可。その代わりと言わんばかりに俺は職玉を潰した。


 選択したのは 堅術士(ガーディナー)。装備が切り替わり、そのライトシールドを持って迫り唸る剛腕に対抗する。


「ぐっ」


 ジャストガードを知らせる花火のような青いエフェクト散るがレベルの暴力によって俺の体が弾かれ泳ぐ。そんな俺の横をキッカがするりと抜けて前と後ろを入れ替える。彼女は既に溜めのモーションに入っていた。


「武術一式『破天掌』じゃ」


 武術一式『破天掌』。掌底で体勢を崩す技。相手がどれだけ巨体であろうとも例え放つ者が幼女であろうとも決まれば計算が行われ敵を大きくノックバックさせる。


 踏鞴(たたら)を踏むエイプキングの姿を見届けて俺たちも距離を離すため揃ってバックステップを行う。その際に今度はキッカが職玉を潰し、その見た目を赤のローブ姿へと変化させる。その小さな手には樫の杖が握り締められていた。

◆───-- - - -            - - - – --───◆

 タリム族の赤ローブ DEF+5 炎系呪文低アップ 1.2倍


 初級魔導士の杖   INT+3 戦闘終了時MP5回復

◆───-- - - -            - - - – --───◆

 キッカの詠唱。ローブがはためき、更に言葉が紡がれる。


「気高き君臨者よ 我が願いに呼応し その怒りを以って 敵を焼き払え 灼熱低位ガナフレアっ」


 ポっと効果音が鳴り、閃光が迸る。現れたのは拳ほどの火球だ。魔法は詠唱という溜めが必要だがその威力は高い。杖を振るって発射。炎弾が大猿の顔面へと向かう。その瞬間俺は気づく。ボスの目が笑っていると。


(間に合えっ!)


 ボっと空気を穿(うが)つ音が聞こえ、キッカが放った魔法の下半分が消失した。恐ろしく早い投石。寸でのところでキッカとの間に体を差し込むことに成功するが盾が破れ、わき腹に攻撃を喰らってしまった。HPの8割が消失し一気に危険水域へ。


「流星っ!?」


「よそ見すんなっ。来るぞ」


 ヒット確認ができなかったが、顔の右側が焦げている。削ったがHPは一割と減っていない。大猿は咆哮し、殴りかかってきた。


(まずいっ)


 この体力では受けれず避けるしかないが、受けジョブである堅術士(ガーディナー)ではスピードが遅く回避不能。


白霊(はくれい)よ 我が希求(ききゅう)を通す道を為せ 導け 氷結低位 アイシクル・ロア」


 氷魔法の使用により道が凍る。キッカの機転に気づいた俺は彼女を蹴り飛ばした。その反動で俺も氷の道を滑り攻撃の回避に成功する。丁度俺たちがいた場所に拳が落とされ、薄氷がズガアアアンっと砕かれた。


「ナイス!キッカ」


 転がり起きた俺はアイテムボックスを開き、低級ポーションと新しい盾を取り出す。このゲームのポーションは徐々に回復するリジェネタイプ。また再使用に秒数が掛かるなど制約が多い。その時間2分。ぶっちゃけボス戦では使い物にならない性能。だからこその回術士。気休め程度と考えた方がいいだろう。


 俺はチラリと職玉の時間を確認する。残り一分と30秒。しかも、劣勢。前衛と後衛が分断された状態で耐えなければならなくなってしまった。キッカが原因だが責めることはできない。


「ふぅ」


 息を吐いて心を落ち着かせる。盾を顔の前に構え、スキルを唱えた。


「堅術二式『ガウル・ハウル』」


 堅術二式ガウル・ハウル。こいつには敵の注意を引き付け、後衛を守るタウント効果がある。


 MMOではタゲとかヘイトなどで説明されるあれだ。スキルによってキッカに向けられていた大猿の敵意が強制的に俺へ移り変わり、動き出そうとしたキッカに慌てて指示を飛ばす。


「キッカ待機っ!絶対にこいつからヘイトを買うな」


 心配そうな視線を向けられるが信じろと目で語る。ここは俺が耐えるしかない。グルルっと喉を鳴らして大猿が振り向いた。本当に嫌そうだ。キッカを狙いたかった。そんな意思がひしひしと伝わってくる。やはりこのボス知性がある。


(さっきの分断された攻撃……。偶然じゃねえ。こいつは狙ってやった)


 従来のAIであればヘイトを多く買っていたであろうキッカが狙われていた。けれどこいつは真ん中を穿ち分断してから後衛を狙った。それも流れるように。


(剛腕、アジリティー、どれもヤベえが……)


 もっとも気を付けるべきはその知能。突如、地面から突き抜けてきた尻尾を俺が躱せば大猿が目を見開き俺を見た。


「一度見せた技は俺には通じねえぞ。エテ公」


 初見で俺がやられた尻尾による攻撃。その見極めは簡単だ。足を止めなければ放てない。まだ予想段階だったが、不自然な位置で止まってくれたお陰で読み切れた。


「gururururu」


 今ので決める気だったのか、まるで狼のような唸り声をあげるエイプキング。時間を稼ぎたい俺にとって躊躇(ためら)ってくれるのは有難いが──


「後、2分」


 そんな俺の狙いに気づいたか。それとも野生の勘なのか。ドスドスと地響きを上げながら一気に距離を詰め殴りかかってきた。唸る剛腕。過去の体験の中でもトップクラスの迫力に襲われる。


 ゴッと空気が穿たれる音。それが耳横ギリギリを掠め身が凍る。


 打ち下ろしの攻撃をバックステップで回避。腕が地面にめり込んだがそれも狙いであったと言わんばかりにエイプキングはそのまま土を掬い上げ俺に礫を飛ばしてきた。賢い。盾で弾き落とすが幾つか被弾してしまった。


「っチ」


 思わず舌打ち。こうした絡め手でこられると厳しい。でも、相手も相当苛立っているようだ。ラウンドエイプキングの足が再び止まる。


(また?いや……)


 勘。さっきとは何かが違う。背を向けたエイプキングの姿に警戒を引き上げる。そして──気づいた。


「スキルっ!?」


 予想的中。尻尾による横凪。ゴゥっと大気が裂かれた。目でとらえられない速度。避けれたのは奇跡。屈んでいた事が功を奏した。今の攻撃、反応できる能力値を超えている。レベル不足。このAIGでは運が味方しない限り逆立ちしても避けられない。


(今のはもう絶対に打たせちゃダメだ。使われたら時点で終わる)


 ではどうするか。打ち下ろされた尻尾を寸でのところでジャストガードした俺は引き戻されるタイミングでその尾を掴んだ。


「堅術一式っ『シールドバッシュ』」


 引き()られるようにして飛んだ俺は大猿の鼻面にスキルをお見舞い。ガンという鈍い音と共に悲鳴を上げた大猿が仰け反る。答えは超接近戦。狂っているが勝つ道はこれより他に存在しない。これだけやってまだ一割も削れていない。この戦い一体何時間掛かるというのか。


 でも、俺の心の底からぞくりとした感情が溢れてくる。楽しい。楽しくて溜らない。俺はもう職玉があるヴァラパラの戦闘に魅入られていた。俺は喜々とシールドを構えるのだった。

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