挑戦と死闘
それから俺はボス猿撃破集中のため、友人とも連絡を取ることなく籠ることになる。徹底したAIキッカとの訓練。僅かながらレベルリングを行いレベルは3となり、幾つかスキルも習得した。その中にあの三式『山茶花』もあったが流石にあの巨体には通じないだろう。
無謀な挑戦だが、準備は怠らない。可能性を上げるため入念にスキル効果をチェックする。そんな俺に相棒キッカが声をかける。場所はもう俺たちのお馴染みの場所となりつつある猿ボスのいるベルナ平野である。
「の……う流星や」
「ん?」
キッカには訓練という名の戦闘を行って貰っていた。勿論、レベリングも兼ねているが3から必要経験値が跳ね上がったのでボス戦までに俺たちが4に到達することはないだろう。
このゲーム無駄にリアリティーが高いところがある。現実に即したゲーム性はプレイヤーに没入感を与えるけれど、余りにも忠実だと面倒くささを生む。適度がVRMMO作りにおいてセオリーなはずだがホントにそのギリギリを責めているように感じられた。
「のう流星!聞いておるのか!」
「うおっ」
考え込んでいると目の前で展開していたステータス画面からキッカの顔がにゅっと飛び出してきて俺は尻餅をつく。
「いてててて」
尻を撫でながらまた思考が回る。やはりこのゲーム、サポートAIにまつわることになると必ず痛みがあって徹底的にサポートAIを守っている。その理由を俺は知ったけれどどうしても違和感が消えない。どうしてこのゲームの開発者はここまでするんだろうと。
「のう、流星」
「へ?」
気づけば眼前にまでジト目のキッカが迫っていてギクリとなった。
「流石に考え込みすぎじゃと思うのじゃ。サポートAIとはいえそこまで無視されるとワシも悲しいのじゃ」
「悪い悪かった……ついな。次から気を付ける」
そうクシャクシャと頭を撫でてやれば何するんじゃーと言いつつ彼女は喜ぶ。ほんと人間のよう。AIと接してるとは思えない。
(こりゃ無意識でもNPCのように見ないようにしねえとかもだな)
肌感覚だがそれがとても大切なことに感じるのだ。
「それでキッカ?」
何の用だと聞けばキッカは腕を組んで答えてくれる。
「うむ聞きたいことがあるんじゃ。おぬしはわしに盾技ばかり練習させよったわけじゃが」
そうそれはもうクランメンバーに教えているつもりで徹底的に体に覚えさせた。
「ああ」
「それはやはりボスとの闘いでわしがタンク役になるということなのかの?」
不安そうに言うキッカ。まああの剛腕をその身で受けると想像すれば怖いだろう。
「まあそうだな。ただ俺もなるぞ」
「ぬっではタンク二枚で挑むのか!?」
「いや、状況においてはそうなる場合もあるかもだけど……」
俺は立ち上がってアイテムボックス欄を開いた。このアイテムボックスはクエストでゲットした。ただ容量は少なく、拡張クエストが待っていると思われる。ちなみにこれを手に入れるのにまたたらい回されキッカが再び発狂したとだけ言っておく。
ポンっとタッチするだけで指定の場所に煙りが立ってホワイトボードが現れる。何て便利な力。現実でもあればいいのにと願ってしまう。俺はペンを持ってきゅっきゅと慣れた手つきで猿と冒険者PTの絵を描いた。
「基本的にVRMMOのボスの多くはPTで戦うように設計されてる。メタ的な発言をしちまうとVスポーツでPT戦が人気だからだ」
真剣な表情で聞く優等生キッカに苦笑しつつ絵を書き足しながら話を続ける。
「だからべらぼうにただ強いボスを作るってよりも開発者はプレイヤー全体に動きがでるよう神経を注いで設計するんだ。極端に言えば大縄跳びだな」
「大縄跳びというのは文字通りのあれかの?前にお主が見せてくれた」
「そう、誰かが引っかかればピンチになる。でもタンクのスキルを使えば、僧侶が回復すればその危機を脱出できる。そういう仕掛けが幾重にも張り巡らされている」
まあその辺のバランスが悪いと一部の職だけに責任が圧し掛かったりするのだがその説明は今はしなくていいだろうと省いて最後にとそれっぽいボスでホワイトボードを埋めた。
「勿論、純粋な火力押しだったりこれに該当しないボスも沢山いるはずだ。でもまああの猿は溜め技っぽい攻撃が多かったし。PT向きだろうな」
何より攻撃がほとんど通らなかった時点で奴との戦闘は長期戦となる。低レベの前衛だけでは敗北必至である。
「のう流星よ」
「ん?」
「その縄跳びはソロでも飛べるのかの?矛盾してるように聞こえるのじゃが」
「残念ながらVRMMOのプレイヤーってのはPTでも楽しみたいしソロでも楽しみたいもんだからな。ゲーム部分は対人のチュートリアルみたいなもんでレベルを上げればライトにも越えられる設計になってる。だから一応できるはずさ。ただソロで簡単にクリアできちまうとPTプレイの意味がなくなっちまうからその難易度は高め。本来はそこをレベルで埋めるけど」
「わし等はそれを行わない」
まあもし誰かが狩場を見つけていてもFなので教えて貰えないから行わないといよりできないだがとオホンと咳をうつ。
「だからセンスでぶち抜かなくちゃいけない。職玉を使って二人で通常PTくらいの動きができなきゃまず勝てない。それにそもそもこいつは絶対に無理な挑戦かもしれない。俺たちがこれからやろうってのはそういう戦いなのさキッカ」
ムムムっと唸るキッカに俺は優しく声を掛ける。
「不安になっちまったか?」
「うぬ……」
「初心者のお前に結構な無理させようとしてるってのは自覚してる。ただ俺はハイヒューマンを目指してる。絶対になるって決めたから俺はこの足を止められない。お前が望むなら他のマスターを見つけてやるし、べったりでなくていいなら一緒に冒険だってできる。でも」
俺は彼女を見据えた。
「もしお前が相棒になって並び立ちたいっつうならここで踏み越えて欲しいんだ」
AIにこんな事を言っている俺を見ればきっと多くの者がイカれていると言うだろう。俺だって自分で何やってるんだろうって思いが一切ないと言えば嘘になる。けど、どういうわけだが俺の中に確信があるのだ。このAIであるはずの彼女が俺の相棒になりえる存在であることを。この勘が真実か否か。俺はそいつをどうしても確かめたい。
「やるのじゃ!やる!わしがお主の相棒なのじゃ」
「なら軽く作戦会議をして職玉の練習……って言いたいところだけどまずお前は職の理解を高めてからだな」
「ぬーわし勉強は苦手なのじゃああ」
キッカの姿が完全に昔の自分と一致してつい噴出してしまった。こうやって色々模索している時がゲームで一番楽しい時間。こうして早くも俺とキッカはまるで師弟のような関係となってゆくのだった。
準備は整った。ボス手前で厚手のグローブを嵌める。その現実と変わらぬ感触に軽く驚きを覚えながらもお馴染みとなった剣士の衣に身を包む。これより上の装備も既に所持しているけれどやっぱり着心地のよいこれにした。
(よし)
チラっと横のキッカを見れば彼女は買った装備を纏っていた。
(初手、武術士か)
軽く作戦は決めたが大まかな判断は彼女に任せている。どこまでフォローし対峙できるか。全ては俺の手に掛かってる。
キッカは緊張しているようで、口を一文字に結びぎゅっと手を握りしめていた。俺はバシリと背を叩いてやった。
「んにゃっ!?」
「力抜けってキッカ。こいつはゲームだ。別に死ぬわけじゃない」
「うむそれはわかっておるのじゃがの」
ピピっと呼び出し音が鳴りウインドウに目を落とせば観戦者がいるため観戦許可を出しますかとシステムから操作を求められる。10名。何だか塔鉄君たちだけじゃなさそうだが、まあいいかとコードを知ってる者に公開してやる。
太一達か。有栖川か。理聖か美咲か。あるいはそれ以外の誰かか。誰だっていい。そこで見てろ。俺たちがアイツをぶち抜く様を。
「いくぞキッカ」
彼女が頷いたのを見て俺は歩を進める。殺気演出なのか肌にビリつきを感じ身が震えた。
「すまぬ、これが最後じゃ主よ」
もう始まっている。俺は振り返らずにキッカの言葉に耳を澄ます。
「これに勝てればお主の言うように本当にわしは強くなれるんじゃろうか」
「キッカ、VRMMOにおいて何を強さとするのかってのは人によって違う。単純に勝率の高さを競う人もいれば稼ぐ金額で争う奴らもいる。ptプレイが上手い奴がいれば純粋に才能の力だけでのし上がってく奴もいる。じゃあ上にいける奴とそうじゃねえ奴との差は何なのか。ギリギリ限界の闘い。VRMMOをやってると必ずそういうシーンに遭遇するんだ。さっきゲームだからやり直せるって言ったけどな。そのたった一回のチャンスをものにできなかっただけで攻略が一か月遠のくなんてザラだし同じ相手に一生勝てなくなったりする。だからそういったチャンスを掴みとれることがハイヒューマンへの第一歩だって俺は思ってる」
「チャンスを掴みとる……のう」
「まあ要するにだ。分かれ目となる明暗を踏み越えられるかどうかって話さ」
来る。ズダンっと木が蹴られ重力に逆らうように巨体が宙を舞った。ズンっと地響きを起こして着地した大猿は強烈な振動を与え俺たちを睥睨する。ラウンドエイプキングLv,10の文字が踊り、バトル開始の合図が下される。そして──死闘が始まった。




