職玉と獲得ジョブ
VRMMOの強化は多岐にわたる。レベル上げや装備によるパラメーターの上昇及び底上げ、インベントリーや道具袋の拡張。スキルレベルの上昇と新たなスキルの獲得。アビリティー、称号。そして新職、上位職を得ること。
食事を終えた俺が今日のうちにやると決めたのが新ジョブを得ることだった。とりあえずは新見さんが話していた”鑑術士”と塔鉄君が教えてくれた”堅術士”というタンク職の獲得を目指す。
他にもありそうだが、皆熱中しているのか学内掲示板には有益そうな情報はない。まあ、Sクラスの連中は見つけて隠していそうだけれど……。それよりも驚いたと俺は呟く。
「まだSクラスも突破報告なしか」
確かフィールドボスにはPT人数に付き微量ながら能力値が上がるという厄介な能力があった。恐らく全フィールドボスにそのアビリティーが付いているのだろう。
とはいえ微量。ソロより難易度が上がるということはないだろうし、ここにいる連中は全員VRMMO経験者。レベルが抑えられているとはいえ、そろそろ突破者が出てもおかしくない。
「あの爺さんホント」
俺の堪というかこいつは経験則になるけれど、恐らく12体もいることから一番弱いボスが判明し、その攻略法が出回ることになるだろう。
まあ、最初に抜けたPTがべらぼうに強かっただけで、後に続くPTが死屍累々なんてこともあるにはあるが……。
「とってきたのじゃー」
「ああ、サンキューなキッカ」
俺たちは二手に分かれて行動していた。キッカはこの町の情報探りをそして俺は生徒達の会話に有益なものがないかどうかを調べている。
俺は別に効率的な行為が嫌いな訳じゃない。寧ろ、こういう作業的なものは効率厨になる。ただ、その着地点が楽しいものじゃないと途端やる気を無くしてしまうタイプなのである。
俺はキッカから渡された紙にざっと目を通してあるアイテムの存在に気づいてその効果に驚いた。そこにはこの町のアイテム一覧。効用と相場が書かれている。
「これマジで?書き間違いじゃなくて?」
「うぬー間違いではないのじゃ。しっかし疲れたのじゃ。何で一軒一軒駆けずり回らんといかんのじゃ」
そう、キッカが駆け回ってくれたのだ。感謝である。
「そりゃ極力マップを覚えさせるようにだろうな」
「ふーむようわからんのう」
「まあ、おいおい適当にやってればその手の話は理解できるさ」
「それで?お主は何に興奮しておったんじゃ?」
これだよこれと俺はあるアイテムを示した。
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職業玉 uncommon 握り砕けば、どこでも職を変えることができる玉。戦闘中にも使用可能。ただ戦闘中で使用した場合、クールタイムを終えないと再転職不可となる
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「これ凄いのかの?」
「ぶっちゃけ洒落になってねえよ。しかも安い。このアイテムを基軸に間違いなく戦闘が組み立てられる。ゲームタイトル、ヴァラエティーの意味がちょっと分かってきた。こりゃ、今までにないほどのプレイスタイルが生まれるぞ。バランス取るので死人でるんじゃねえか?その上スキルが大量にあるかもしれねえとかホントやべえ。パターン考えるだけでもワクワクしてきた。涎が出そうだ」
目をキラキラさせる俺にキッカが呆れた顔をみせる。
「嬉しそうじゃの。流星よ」
「そりゃあもう。だって考えてみろよ。剣士である俺が相手の呪文を搔い潜って切りかかるわけよ。そしたら相手が盾ジョブに転職してはじき返す。それでも本来なら、相手は攻撃に転じれずジリ貧で終わる。でも大きくノックバックさせるスキルを持ってれば?俺は弾かれ、その隙を付いて相手は弓術使いに転職だ。そして射られた矢を俺はどのジョブをもって返すか考えなくちゃいけない。あー駄目だ。対人やりてえ」
「一つの職を極めたいわしからすると面倒な仕様としか思えぬのじゃがな」
「まあこういう仕様にした理由は色々あんだろ。この手のジョブ変えタイプのMMOってまず死にジョブが出るからな」
「死にジョブ?」
「使い物にならないジョブさ。下位互換とかな。ジョブの存在自体が無駄になる。だから運営はそうならないようにパッシブとかそれ専用のフィールドスキルを置くわけだけど面白さに繋がるかといえば繋がらない。ただレベルを上げるだけのジョブになっちまう。でもこの仕様にすれば下位職でもスキルが戦闘に幅を産むからあげたくなる。ジョブ全てに価値がでる。運営が望む横の成長が強化されるってわけだな」
「横の成長?」
質問に継ぐ質問。何だか長くなりそうだが、今のうちに説明できるものはしとくかと俺は口を開く。説明回。ちなみに、俺の手はキッカが購入してくれた材料で装備を作ってる。そいつはジョブ取得クエで必要なものなのだ。だから、それが出来上がるまではお喋りもいいだろう。
「近年のVRMMOは全部、この職変えシステムなんだ。種族決めて上を目指すってのもあるにはあるけど廃れた。理由は成長の方向性で、どうしても縦の成長はVRMMOとしての寿命が短いんだよ」
「ふむ、どうしてじゃ?ひたすら強くなれるように作ればいいのではないのかの?」
「プレイヤーが強くなれば運営はその分、数値的に強い魔物を用意しなくちゃいけなくなる。でもフィールド全体に配置するわけにはいかねえから大半が数値で殴るみたいな戦闘ばかりになる。そうなると面白いのは最初だけ。無双はすぐ飽きちまう。んでやることなくした準廃がエンドコンテンツと対人の強化をオウムのように訴え続けるのさ」
そうなるとVRMMOとして半分終わりかけだと俺は思っている。だって世界から魅力がなくなったと同意であるから。
「なら、レベルが上がっても数値を上げずにスキルゲットとかどうじゃ?」
「駄目駄目。ただレベルのいスキルが強くなるっていうくだらんものになっちまう。で上で頭つっかえたから横って話。職業制を導入すればレベル1に戻してもプレイヤーは怒らない。プレイヤーが成長を楽しむ時間を伸ばし、ステータスのインフレも防げる。VRMMOはかなり長く遊んで貰わないと厳しいから、ほとんどがこの形式だな」
「ふむ、ちょっと分かってきたのじゃ」
「ただ当然、職業制にも色々問題がある。さっきも言った死に職もそうだな。で、強職も出てきてプレイヤーのジョブがそればっかりになる。そこにテコ入れを打ったのが」
「これっというわけじゃな」
そう言ってキッカはピンポン玉くらいのガラス球を目にかざしてまじまじと見つめる。勿論、そいつは職業玉だ。
「そーゆーこと。後、俺たちプレイヤーの大半はゲームトップ層、ハイヒューマンってのを目指してる。そいつになるためにはVRMMO対人の祭典V-sportsって所で好成績を収めなくちゃいけない。謂わば見世物だ。現代VRMMOは戦闘を見て楽しいものにしなければ商業的に成功しない。どれだけスキルを用意しても強職同士の戦いにはマンネリがでてくる。近年、一対一の対人は人気が急落してるけど、もしかするとこいつが変えちまうかもしれねえ。なあキッカ」
「ぬ?」
「気が早いがこのゲーム、マジで覇権を取るかもしれねえ」
「覇権とな」
塔鉄君も言っていたが彼もこのアイテムを知ったのだろう。
「幾つもあるVRMMOの中で特に人気が出るもののことさ。ハイヒューマンになるにはそういったものに当たりを付けられる審美眼ってのも必要だ。不人気ゲーでトップとっても儲けられないし誰からも讃えられないからな」
「成程のう。といってもわしはゲームを変えることなどできんしの」
「そうだな。まあ教材にも選ばれたし俺が鞍替えすることはなさそうだよっと。そら完成だ。クエストに行こうか。さっさとジョブを手に入れる事が序盤は強さに繋がりそうだ」
「確か堅術士と鑑術士じゃったか。ちゃちゃっと取って今日あやつと再戦じゃな」
「って言いたい所なんだが」
多分、簡単にはいかないだろうなとウンザリした顔の俺にキッカは首を捻るのであった。
◇◇◇
無事にジョブを手に入れた俺たちは町にある小橋にて小休憩を取っていた。キッカは手摺りに腹を乗せてぐでーっとなっている。
「ぐにゃああああああなのじゃああ」
AIなのに疲れ切った顔のキッカ。横でステータス画面を弄る俺もゲーム体でその手の疲れは出はしないが、精神的に摩耗したと溜息をついた。
「な?」
言ったろっと俺が声色に含めばキッカが顰め面で振り返り、あるNPC達の真似をした。
「おっよく持ってきたな。確かに頼んでいた装備品だ。では早速、お前たちに鑑定士の職を伝授して……と言いたい所だが生憎、伝授に使う魔法紙を切らしていてな。それと今手が離せないんだ。悪いが道具屋で買って来てくれんか?」
「魔法紙?あら。ごめんなさい。今切らしてしまってるの。入荷は暫く先になるわ。直ぐに欲しいなら住居区F-23に住む魔法使いさんに頼めばいいわよ。ちょっと偏屈だけど」
「魔法紙を作れ?はっ貴方何様?私はね貴族なのよ。確かに没落しちゃったけどね。高貴なるこの私リシュリー様が、一般人の依頼何て受ける訳……えっ何?2000出す?そうね、ノブリスオブリ―シュというものね。いいわ。ミストスパイドの糸とカラカラ草を取ってくること。後、マロニケーキも忘れないで」
「マロニケーキを作る職人なら病気になって薬が必要……薬師なら行方不明……なんじゃあああこのタライ回しはっ!なんじゃあああ」
「MMOあるあるなんだよ。施設の場所覚えさせるためのな。字で書いても殆どの奴が読み飛ばしちまうから」
「ムーもっといい方法があると思うじゃ」
まあそれは俺も同意だが、しかし、制作者が設定したものが当人の作ったものに文句付けられるというのは中々シュールだなと俺は思う。
「やっぱ、時間的に今日はこれで終わりだな」
「ぐぬぬ無念じゃ他の者達はわしらより速かったと思うのじゃがどうやったのじゃ」
「普通に人海戦術だろ。塔鉄君は少なかったから抜け道あるかも知れねえけど、そうやって最初期から組んで行動するってのは有利なんだ。その集まりをクランと呼ぶ。俺たちが学校に通うのはそういった仲間や伝手を作るためであるって言っても流石にこれはわかんねえか」
ぬ?っとキョトンとするキッカに苦笑しつつ俺は見えるようにメニューを広げてやった。
「兎に角、ジョブは手に入れたんだ。かなり役に立ちそうだぞ」
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堅術士 タンク職/盾を操る者
初級の盾を装備可能。敵の攻撃を防ぎ、相手の敵意を集めるスキルを取得する
〇堅術一式『シールドバッシュ』
盾を構えた状態で打撃による攻撃を行う。射程が短くカウンターぎみに放つことを推奨。若干のノックバック効果があり、極稀だがスタンも発生する
〇堅術二式『ガウル・カウル』
体内のマナを爆発させてヘイトを急上昇させる
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鑑術士 サポート職/暴く者
アイテムの効果名称を見抜き、敵の弱点を暴く。戦闘を有利に運ぶ事ができる
〇解術一式『キャスト・コード』
アイテムの効果名称を表示。敵に対してはレベル差によって成功頻度が変わる
〇解術二式『アナライズ・コード』
魔物の詳細情報を見抜く
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これで初期と併せ計8つのジョブを俺たちは使いこなせることができるようになったということだ。
「ふむふむこれで満を持して明日あの猿にリベンジというわけじゃな」
ブンブンとシャードボクシングを行うキッカを俺はズッコケさせた。
「いや、明日はいかない」
「なっなんでじゃ!!」
「明日は一日作戦立てと職玉とスキルを徹底的に体に馴染ませる。本番で使う資金を集めながらな。キッカ」
「ぬ?」
俺は軽く口角を上げた。
「ぶっつけ本番、一発でアイツをぶち抜くぞ」
するとキッカもまた俺と似た笑みを浮かべた。サポーターはプレイヤーから学習し、成長する。よって性格が似るのかも知れない。まあ好戦的なのは俺好みだ。
「うむ!のじゃのじゃー」
まあ、その掛け声は謎なのでやらないがとキッカが上げた手をパンっと俺はうつのだった。
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流星ノート〇職玉
画期的なアイテム。人気を博し後に様々なVRMMOで採用されることになる。




