スキルカードと二つ名
腹が一杯というわけではないのに満腹感に包まれているという不思議な感覚に包まれている。店を出た俺たちは広場の方にぞろぞろと歩いていた。
「のっじゃじゃ~♫のっじゃじゃ~♫のじゃのっじゃじゃ~♫」
PTを組まず俺と二人で攻略すると知ってからキッカのテンションがフルスロットルで上がった。恥ずかしいので俺はそれから距離を離し、俺の横には相変わらず黒ノ助を頭に乗せた呆けた太一がいた。
そうなのだ。あれから太一の様子がちょっとおかしいのだ。ちなみに、三人の女性陣は俺たちの前でキャッキャと盛り上がっている。
「何かお前、ボーっとしてね?」
「え?そうか」
にへらっと太一の顔が溶けたように緩み、俺はドン引きした。
「うわ……。急に気持ち悪い顔すんなよ。どうしたんだよお前」
「流星君、俺が組むPT構成を言ってみて下さいな。男女比、男女比」
男女比?っと首を捻って俺は答える。
「男1の女の子4だろ?」
「イグッザクトリーっ!!」
ただただウザい。
「流星君!それについて何か思うことは?」
「え?肩身狭そう」
「ちっちっちっちっちいいい」
中学からの付き合いであるが、もうフレコ切ろうかなと思うくらいうざい。
「ハーレムですよハーレム。おっと俺、アニメの主人公になっちゃったか?なっちゃいましたか?いやーこれ、なっちゃったよ」
そして太一による太一のための寸劇が始まった。
「このボス強いわ。勝てない。俺に任せろ。たっ太一きゅん。俺だけユニークスキル発動。ズバッ!ギャー!すっ凄い凄いわ太一きゅん、たった一撃で……素敵、太一君好き。はい、俺モテ男確定」
「断言するけど、その妄想。女子からのきっもの一言で100%砕け散るぞ」
妄想は自由。だが、現実というのは辛いものだ。
「言っとけ。俺が男になったら流星には教えてやるよ」
「へいへい」
そう話を切れば前にいる女性陣の話題が変わり、ピクピクと太一の耳が動いた。
「それでPTリーダー誰にする?」
自然と足が早まり太一が俺の前に出る。
「そうね。太一……」
振り向いた太一がニマニマとした笑みを俺に向ける。殴りたいこの笑顔。
「太一君のサポーター黒ノ助がいいんじゃない?」
愕然とした太一の足が止まり、俺が追い抜く。通り過ぎる際に頭に乗る黒ノ助がクエっと鳴いた。
「じゃあ太一君の役割どうするん?」
「さあ、私はどうでも。荷物持ちでいいんじゃない?」
そして太一が俺の前に出る事は無かった。やはりこれが現実。
(南無)
「流星」
「ん?」
気づけばナズナが横にいて青いマフラーでゲーム内なのに相変わらず暑そうに見えてしまう。
「流星のやりたい事が全部終わって時間があったら私とPT組んで欲しい。駄目?」
「ああ。別にソロ専って訳じゃないから全然いいぞ」
「やった。じゃあまた連絡する。猿退治頑張って」
「お前らも頑張れよ」
それでまた前に戻るナズナを見て俺はあれっと首を捻った。そういえば、あのマフラーどうやって持ち込んだんだっと。
その後、俺たちは適当に駄弁りつつ情報交換を約束し互いに別れた。向こうはPTでそして俺はサポーターと二人での攻略に乗り出したのである。
早速その計画準備と言いたいところだが、俺は一度落ちて現実で食事を取る。パンドラボックス、というかラヴェルでは連続5時間で一時間の休憩が推奨されている。
「うへえ」
ゲームで食べ過ぎたため胸焼けがする。当たり前だがヴァラパラの世界で食事をとっても栄養は補給されない。
腹が膨れないわけだが、余りにもリアルだと脳がこうやって誤認する。リアルを追求した弊害とでもいうのだろうか。ちなみに、生徒による健康管理もクラス決め査定対象となっている。だから、無理にでも食わなければならなかった。
「旨くねえ……」
俺がいるのはFクラス野ざらし食堂。まだ早かったせいか周囲の連中が疎らだった。目の前には今朝食べた味付けと似たものがある。確かに先輩たちが言っていたように飽きが早そうである。
俺は勿論、この後すぐにヴァラパラに再度INするつもりだが、それで学校で許されているゲームプレイ時間は終わってしまう。
計10時間。そして自室でのプライベートタイムでの5時間。これら合わせて15時間が俺たち学生の公私あわせた一日最長プレイ時間となる。ゲーム漬け、まあその辺りは流石廃人養成場と言えるだろう。
「だな」
「おお」
手を挙げた塔鉄君がやってきた。正直、ちょっとよく分からなかったが挨拶的なものだろうと適当に返せば彼は軽く微笑んで俺の前に座った。
「聞いたんだな。流星君がフィールドボスにソロで挑むって」
「ぶっふ」
ジュースを含んでいたので思いっきりむせてしまった。
「大丈夫なんだな?」
「ごほ。大丈夫大丈夫、ごっほ。喉奥に入っただけ。あれだなえらく話しが早いな」
別に隠してるわけじゃないが、想像以上の情報回りの速さに驚いてしまった。
「新見さんが教えてくれたんだな。いいネタ教えてくれたら、面白い話教えてあげるって」
「あの野郎……」
可愛い顔してちゃっかりしてる。気を付けないと骨抜きにされそうである。
「凄いんだな」
「いや、まだ何もやってねえし挑むだけなら誰でもできるぞ?」
「それでも、目標を決めてグングン進もうとするのは流石なんだな」
「別に普通だと思うけどな」
何だか中学での俺が塔鉄君の中で美化でもされているのか彼の中での評価が異様に高く感じると俺が見れば塔鉄君は首を振った。
「流星君は自己評価が低すぎるんだな。当時、あのゲームでの流星君の動きは今でも忘れないんだな」
「えっと……そりゃどうも」
当時の事はガムシャラだったので余り記憶がない。挫折も味わったし、確かに色々と人間性を捨てていた気がする。主にプレイ時間的な意味で。
「頼みがあるんだな」
「頼み?」
クラスメイトなので仲良くしたいところだが、あのお猿さんに集中したいので面倒ごとなら断りたいところである。
「流星君とそのフィールドボスとの戦闘、見学させて欲しいんだな」
「見学か……」
これは俺が非公開にしていなければ一々言わなくてもいいことだ。でも、塔鉄君はマナーを通した。こういうのは現実と同じで凄く大事だったりする。VRMMOはやはり人と深くかかわることになるのだから。
「それならいいって言いところだけど何で俺?正直、AとかSとかの奴らの方がずっとためにならねえか?」
「俺はライフストリームでの流星君の動きを知ってるんだな。あれだけの動きをこなせる人がこのゲームの序盤でどれだけ動けるのかそれを見たいんだな」
それだけかと俺がじっと見れば伝わったようで彼は続けた。
「俺は余り運動神経が良くないんだな。でも、ハイヒューマンになることを諦めていない。俺は不動ノ王を目指してるんだな」
「不動ノ王か」
世界人口の1%と言われるハイヒューマン、その中でもトップに君臨する者達はそのプレイスタイルによって二つ名で呼ばれる。典型的なのが~王だ。
不動ノ王、不眠ノ王、不戦ノ王、武装ノ王などなど沢山存在している。これを恥ずかしがってはいけない。そういう時代なのだ。ちなみに不動ノ王はあらゆる楯役をこなす絶対防御の男だったはず。
「だな。だから俺にとって流星君のようなスピードトリッキータイプは一番の苦手なんだな。それを研究したいんだな」
成程と俺は頷いた。
「そういうことなら、全然いいぞ。俺でよければ見学してくれても。後、ソロだけどサポ入りな」
俺はさっとフレンドコードを書いた紙を渡せば、彼も送り返して口を開いた。
「ありがとうなんだな。でも、やっぱり流星君は普通じゃないんだな。研究されると言われたら断るものなんだな」
「そうか?俺の師匠が言ってたぜ?トッププレイヤーは研究されて当たり前。その上で相手を超えるからこそ強者と呼ばれるんだってな」
そう、暴かれても、マネられても、対策を練られても勝ち続ける。だからこそ彼らはハイヒューマンの肩書を持つことを許されているのだ。立ち上がった塔鉄君は懐から何かを取り出して俺に放り投げた。思わず受け取ってしまう。
「代わりと言ってはあれだけど、それお礼なんだな」
「いや別にいいんだけど」
(ってか何だこれ)
確認すると分厚めのカードであることがわかった。電子的なものであるようでICチップが埋め込まれ、サイドに電子版がついている。俺がどういうっと疑問の目を向ければ塔鉄君は笑みを深めていた。
「スキルカード」
「スキルっ!?」
ばっと目を落とす。確かに張られたシールにはスキル名と杖のマークが書かれている。
「魔物との戦闘でかなり超低確率でドロップするんだな」
「マジかっ」
ずっと望まれていた仕組みだ。ありそうだと思うだろうがVRMMOの制作には天文学的な資金が掛かる。そのため膨大なスキルが必要となるその仕様はどの会社も踏み込めなかった。ヴァラエティーパラシス。一体どれほどの力作なのか。
「まだ使えない上にプレイヤー用なのかすら分からないんだな。でも、流星君。このゲームはきっと大流行するんだな」
成程、塔鉄君が本気を見せている訳が分かった。このゲームで覇者になることがハイヒューマンへの道と確信に至ったんだろう。そして俺もまだ本編をやっていないというのに何故か不思議とそう思う。
このゲームのヤバさをひしひしと感じ始めるが……。
ん?でも何でゲームで使うアイテムが現実でカード化してんだ?
よく考えれば謎であった。




