初戦闘とマギア一閃
このゲームのマップは基本的には足で埋めるタイプのようで灰色。町で地図も購入できるがべらぼうに高かった。
なのでやはり人海戦術が最効率となるだろうか。勿論、歩き回ってではない。大人数で金策をしその集めた金でさっさっと地図を買うのである。
ただ、極稀にクエストで簡単に手に入ったりするものだから、暫く俺たちの間では情報戦が展開されることになるだろう。
「っと」
俺は飛んできた石を避け、投擲者を軽く睨む。只今、絶賛戦闘中。何もない平原で猿の化け物ラウンドエイプLV1が軽快なステップを踏めばキッカの声が飛んだ。
「のう、主よ。何故この道に決めたんじゃ。それも迷わず」
「ん?そりゃ色々あるっけどっ!!」
飛びかかってきたラウンドエイプの一撃を剣で受け止めて弾き、俺は見学するキッカの傍まで中々に手強いと引き下がる。
「一つは人が少ないと思ったからだな」
「のう、わしは主のために学ばねばならんのじゃ。後学のために教えてたもれ。何故、すくないと判断したのかを」
「一種のオカルトさ。ランドマーク。人は前の目印に何かがあると思い、つい向かいたくなる。だから逆に何もないっ?!」
ラウンドエイプの右足が光った。溜めのようなエフェクトが入り、俺の予測通りの光景が目に飛び込む。跳躍。一気に距離を詰めてきたラウンドエイプの牙が迫る。
「っぶねええ。レベル1でスキル使ってきやがった」
避けきった。いや、やや掠めたか。少しHPバーが減少している。
「糞面白え。来いよエテ猿」
(スキルで返すっ!!)
アドレナリンが噴き出て少し言葉が乱暴になる。向こうもそれに応えるようにぎゃっぎゃっと獰猛に笑った。俺は駆けるが体は重い。
通常のMMOよりも負可は重め。その辺りはレベルで開放されるのかはわからないが、とにかく今はこれに体を”慣らす”。
「疾っ」
横凪ぎの一撃が相手が振るった爪と衝突する。大抵のVRMMOでは武器の攻撃力とステータスなどの数値がそのインパクト時に計算される。ガキンっと音が鳴り数値負けした俺の体が後方に大きくそらされた。戦闘に置いて体勢が崩れることは圧倒的な不利となるが──
(ここ)
それを覆す方法がある。それがスキル。ヴァラパラはレベル制。ジョブレベルを上げることで既に覚えたスキルを更に踏み込み、俺はやや下から放とうとする。
「剣術一式、マギア……」
技が発動すればその間、動作する手足はその通りにしか動かせなくなる。それをどのタイミングで叩き込むか。クールタイムと合わせてどのように戦闘を組み立ててゆくか。それが現代的なMMOの戦い。
マギアと唱えれば俺の真横に半透明の歯車が出現し、それがキリキリと巻かれてゆく。謂わば溜め。回せば回すほど威力が高くなるが発動時間が長くなる。今は早さがいるので続きを叫び発動させる。
「一閃っ」
「gigyaa!!!!」
剣術一式『マギア一閃』が完全に胴を捉え、振りぬいた。このゲームはR15指定設定が可能なので体が分断される。死亡認定エフェクト。ただ表現の残酷性は抑えられていて、猿の体は黒い粒子となって掻き消えてしまった。
流石にレベル1ということで一撃で屠ることができた。ちなみにダメージ量もインパクト計算だ。武器、ステータス、技の威力に加えてどうその攻撃が相手を捉えたかでその総量が変わる。
「うし」
パチパチパチと手が鳴らされる。勿論、キッカである。
「大したもんじゃの。流石はわしの主人よ」
俺は敵が落としたドロップ品を拾いながら答えた。その中に金は無い。こいつを売って金(PC)にするのである。
「別に、褒められるような事じゃねえけどな。レベル1の猿倒しただけだし」
「そうかの?初めてのスキルを完全に使いこなしておるように見えたのじゃが」
「まあ、そこは大体一緒だしなVRMMOって。ゲーマなら要領は分かってくるって」
ふむむと関心していたキッカはところでと話を変えた。
「話を戻すんじゃが、何で主はこの人気の無いルートを選んだんじゃ?」
「ん?ああ。序盤のVRMMOって如何に旨味のある場所に早く辿り着けるかが勝負って面があるんだよ。製品版だと基本先行った方がいいけど、βだとな。途中までってのもあって人多い時点でその手の旨味が死ぬからいないところを探るのがいいっつうかな」
「成程のう」
まあ、幼女とキャッキャウフフしてるの見られたくなかったからって理由が一番でかいのだが、言わないことにした。キッカは俺のようにな笑みを浮かべてガインっと手甲を胸の前で叩いた。
「では次はわしの番じゃな」
「おう、他のをリンクさせんなよ?引っ張らず一対一になるようにな」
「分かっておるのじゃ。ただ戦闘のアドバイスは欲しいのう」
「空打ちしてもいいからスキルの距離感とリキャストタイム、どれくらい動けなくなるのかを兎に角、馴染ませるんだ。とりあえずはそれでいい」
「了解じゃ」
所謂は師弟関係。それがサポーターとプレイヤーの間で交わされるもの。ちびっこに言うとかなりあれだが、知識を与えて自分好みのサポーターを作ってゆく。それがこのゲームにおけるサポーターの成長要素の一つなのかもしれない。
「のじゃあああああ」
「gyaggya」
猿とちびが交錯する。猿の鋭い攻撃をキッカは軽やかに回避し、反撃した。
「武術一式『破天掌』」
キッカは覚えたスキルを放つが距離が足りずにミスとなる。素人は発動タイミングが掴めない。こうなると劣勢になる。ちなみに武術一式『破天掌』はノックバック付きの掌底だ。
「ぬぅ」
「GYa」
猿の一撃が掠め、HPバーの一割が消滅した。もしもキッカが運動神経の悪いオジさんであれば今ので終わっていただろう。さて、そろそろ説明すべき時だろう。
どうしてゲームなのにこれほど反射神経が反映されてしまう作りになっているのかについて。それには大きく二つの理由が存在する。一つは政府がそれを強く推奨しているからだ。
VRMMOが盛り上がり、架空にのめり込むようになってしまった人類は目に見えて不健康体となった。それも軽く生活習慣病を誘発するレベルで社会問題化。
この事態を重く見た各国政府は運動を促すようなゲーム作りを行うようにゲーム会社に指示したのだ。よってVRMMOが世間で認められるには現実と連動しなければならなかったというわけである。
そして二つ目、近年のVRMMOの製作費はプレイヤーに徴収するだけでは賄いきれず、もはや天文学的なものになりつつあると言われている。そこで放映権。見世物としての興業になるようにゲーム会社は踏み切ったというわけである。
謂わばオリンピックのゲーム番。昔はE-sportsなどと呼ばれていたが今はV-sports、ブイスポと呼ばれている。
レベルを上げて物理で殴るは一定の人気を博しているけれど、やはり対人戦となるとそのシステムは見ててつまらないのである。見世物にするにはどうしても動きにスポーツ性を入れ込む必要があった。
といっても現実のスポーツとVRMMOはまるで違うもの。スポーツ選手が常に優位に立つかと言われればそういう訳ではない。ただ、体を作っていた方が有利であるし色々と優遇されるというわけである。
「のじゃっ!のじゃっ!のじゃっ!のっじゃあ!」
キッカは連打で崩す作戦に出たようだ。ジャブのような軽いものだが角度がいい。レベル1とはいえ、あの入り方ならば──
「Gugi」
パンッと高音が響き、猿の腕が上にぶち上げられた。そこで踏み込む。鋭いその動きは俺にそっくりだった。いや、トレースしているのだ。彼女の手が淡い光を放つ。クールタイムの終わりを飛び込みに合わせてみせた。あれは猿にはかわせまい。
「武術一式っ『破天掌』じゃ」
キッカによる渾身の右掌底が突き刺さる。それに応えてかクリティカル演出が入り、エテ公が吹き飛んだ。魔物が岩に激突し消滅する。
このゲームにはリフレクションダメージが存在する。受け身を取らなければああやってHPバーが減少する。つまりフィールドも武器になるということだ。
「どうじゃああ。勝ったのじゃああ」
満面の笑顔に頬を緩めてしまうが、俺は思った。彼女はいや、このゲームのサポーターというのは一体どこまで強くなるのだろうかと。
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流星ノート〇 現代VRMMOの戦闘
HPはかなり少なめに設定されている。ボス戦時に改めて説明するがスポーツ性を高めるためヒットマーカーという方式が採用されている。崩しゴールに叩き込む形。
〇 肉体作り
反射神経や運動能力が問われる形となっているが、現実の戦闘とはやはり別物である。とはいえ有利に働くことからVRプレイヤーが体作りに励むのは常識である




