相田美咲とチャンネル式
テスターシティーには同じ施設が複数存在している。例えば、武器屋だけでも8か所。ほとんどがまだ入れなかったため恐らくレベルか何らかの条件で開放される仕組みになっているのだろうと思われる。
(重要そうな施設が揃ってるっつうことはもしかして中盤の町を利用したとかか?)
流石にこれがテスター用だけに用意されたものとは思えない。
大体のVRMMOには幾つかの町がその世界に転在し、大抵、一番利便性の高い場所にプレイヤーが密集する。まあ、現実の方も人が東京に集中しているし大体それと似たような感じだ。
通常、初期の町は不便に作られていることが多い。それは大都市に向かう流れを作ることと、初心者が人の群れに面を喰らわないようにするためでもある。
長年のMMO経験から言わせるとこの都市規模は中盤当たりに登場するくらいのものに感じられた。となるとちょっとしたネタバレを喰らった気分。
この投げっぱなし感からみて実際のルートではなくβ用に場所移動されたものなのは確定。製品版の部分をプレイできるかの情報すら与えられず、どういったゲーム性であるのかも謎だ。
まあやることは変わらない。俺なりにコンテンツをぶっちぎればいい。街をどの程度まで探索するかはちょっと考えどころか。
「流星。絶対に入ったらいかんのじゃぞ?絶対じゃぞ。フリじゃないのじゃぞ」
「わかったから早よ着替えろって」
これからの計画を頭で練りながらも、亀のように着替え場のカーテンから顔だけを突き出したキッカにしっしっと手を振って戻れと示す。
彼女はブウっと頬を膨らませて頭を引っ込める。別にボタン一つでパッと装備することは可能なのだが、リアルを追求する近年のゲームでは現実のように着替えることができたりする。裸は視れない。
AIとはいえ女の子ということなのだろうか。キッカはウキウキで幾つかの装備を手に駆け込んでしまった。長くなりそうだと俺は溜息をついて、暇つぶしとAIの説明を読み上げる。
(えっと、AIについての注意事項と)
◆───-- - - - - - - – --───◆
ヴァラエティーパラシスのAIは最新技術により、高度な知能を有しています。その最大の特徴は感情を持っているということでしょう。そう、彼らは貴方達プレイヤーと共に成長し喜びを共有し合えるのです。
しかしながら高性能であるが故に、心の無い行動を取ればAIもまた傷つきます。そして彼らには人権がありません。
そこで我々は痛みによる罰則を設けました。勿論、人体に問題はありません。また最悪の場合、サポーター没収の措置を取らせて頂くこともありますのでAIとの関係につきましては
◆───-- - - - - - - – --───◆
(十分に注意をお願い致しますか。成程な)
どうやらそれで痛みが走ったらしい。何だか若干傷つけたどうかは怪しいラインだった気もするが、結構その辺りはまだ曖昧なのかもしれない。
(気を付けねえとな)
彼女に心酔しているというわけではないが、相性は良さそうだし今更、没収は嫌である。一応、言っておくがロリだからではない。決してないのだ。
(俺も武器でも見るかな。買う気ねえけど)
そう店内をうろつこうとすれば、俺の肩がトントンと誰かに叩かれた。振り返った俺はその人物に軽く驚く。
「流星だよね?」
「美咲?」
そう、俺の幼馴染、始業式でも見た相田美咲がそこに立っていた。彼女は成長した。いやホントに成長したとつい谷間のできた胸に注目してしまう。どうやら彼女もキッカと同じ武道家を選んだらしく、上の露出が高かった。
「コラっ!どこ見てるのかな?」
「いや、そりゃ見るっていうか。その装備そこそこヤバくないか」
美咲は両手で庇ってからだよねっと苦笑った。
「だから速攻で装備買いにきたのよ。一応、露出少ないタイプも選べたんだけどちょっとどんなのかなってこれを選んじゃって。それで」
「こうなったと」
店内には俺たち以外のプレイヤーはほとんどいない。理由はサーバーだ。大抵のVRMMOでは店内での混雑を避けるために建物内がチャンネル式といういくつものサーバーを抱えている。このゲームではなんとその数が2000も用意されている。
βで利用できるのは100だが普通にトップMMO規模。異様な力の入りようが見て取れる。
俺は一目を避けるためもあってかなり下の方を選んだ訳で、そこで出会うという偶然はないだろう。だから、偶然を装っているが恐らく美咲は追ってきてくれたのだと思われる。彼女の名誉のために黙っているが、それがちょっと嬉しかった。
「流星変わってないね」
「そうかな?」
「うん、Hなままだ」
「おいっ!確かに今はちょっとアレだけど昔は純朴な少年でだな」
俺はそう反論すれば、美咲はニタっと笑って指を突き付けてきた。
「よく言うわよ。昔、私のスカート散々めくろうとした癖に」
「う”」
確かに記憶の中のアホな俺がそれに情熱を燃やしていた時期があったような記憶がある。しかも、キッズ用だったので目指した先が暗黒で運営を呪ったような覚えが……。
「ねえ、流星」
「ん?」
上目遣い。それも距離が近くてドキリとする。
(美咲、滅茶苦茶可愛くなってんな)
「良かったらなんだけどさ。私と」
これはアオハル学園生活の幕開けかとゴクリと俺は喉を鳴らしてしまう。
「一緒に「どうじゃあああ流星。フルコーデ、キッカちゃん御目見えじゃあ」」
「げっ……」
史上最高レベルでタイミングが悪い。
「え?」
「ぬ?」
突如、飛び出してきたキッカに案の定、美咲が目を白黒させる。別に俺は何も悪くない訳なのだが頭を抱えてうずくまりたい気分だった。
「こっこれはっ!もしや!?まさかなのじゃ。このわしという存在がありながら浮気をっぷ」
パンっと俺はキッカの口を塞いだ。何でそういう知識は身についてんだよ。
「えっと……この子もしかして流星のサポーターかな?」
「ああ。ちょっと小さい子に見えるだろ?でもほら、コイツのじゃって語尾してるだろ?実はこう見えて結構お年を召してらして。おばあさん」
「誰が婆じゃっ!。わしはぴちぴちの0歳児じゃっ!!生まれたてじゃ」
「痛っ!嚙むなっつうに。お前、反撃起こるフリ幅小さすぎねえか?」
「当たり前じゃ。乙女は傷つきやすいのじゃ」
「ふふ」
噴き出すような笑い声に俺とキッカが揃ってキョトンとするとごめんなさいと美咲は謝った。
「やっぱり変わってないよ。流星は」
どの辺りがだろうか。状況が状況なので相当気になる。
「むう、昔の女っぽくわしの主に近づきよってからに」
ぐぬぬっと唸るキッカにタハハっと美咲が笑った。
「この子の名前は?」
「キッカ・マークツーだな」
俺がそう答えれば美咲はキッカの前でかがんだ。
「私、貴方のパートナーさんとは幼馴染だったの。よろしくねキッカちゃん」
「うむ……よろしくじゃ」
差し出された美咲の手を渋々といった様子でそっぽを向きながらもキッカは握る。性格設定に嫉妬深さなんてのがあるのかもしれない。しょうがねえなっと俺はぐしゃぐしゃと頭を撫でてやった。
辞めるのじゃ~子供扱いするな~と言いつつもキャッキャッしている。子供だ。
「ねえ、流星」
「ん?」
「私たちはさ。ちょっと変わちゃったよ」
俯く美咲に俺はキッカへのよしよしを続けつつも答えた。
「理聖か?」
「うん……」
「まあアイツ、雰囲気は変わってたな。理聖なら始業式で俺も会ったよ」
「そっか」
気持ちいいのじゃー。もっと撫ででくれなのじゃーとぐりぐりと押しつけてくるキッカを真面目な話だと軽くペチリと叩く。
「流星。やっぱり私おね「相田さんやっと発見っ!」」
新しい声。次から次へとそしてまたタイミング悪いなとため息をつけば少しチャラそうな茶髪の少年が俺たちの間に割って入ってきたのだった。




