テスターシティーと転職
βテスト学園専用都市テスターシティー。それがこの場所の名前であり、今、睨めっこしている地図によってその名を俺は知った。テスター用の街にしては結構デカく、複雑だと眉間に皺を寄せれば、俺の服の裾を持ち並歩する相棒の感嘆が鳴った。
「すっごいのじゃ。すごいのじゃ。AIがゴミのようにおるのじゃ」
「いや、一応お前この世界の住人だろ?何で驚いてんだよ」
「馬鹿をいうでないわ。サポーターはプレイヤーと共に成長あれ。それがこのゲームの方針じゃ。わしには何の情報も渡されておらんわ。あるとすれば、わしの生みの親である絵師、黒牡丹の言葉。天上天下唯我ロリ魂くらいなもんじゃ」
なんだその造語は。
「俺、お前の生みの親とは絶対仲良くできそうにねえわ」
それと仲良くすると俺の学生生活が終わる気がする。割とマジで。
「それで?どこに向かっとるんじゃ?レベ上げかの?」
「いや、まずはお前と俺の職決めだな。このゲーム、転職タイプみたいだしな」
「転職タイプ?」
?マークを頭に掲げるキッカに俺は軽く説明する。
「VRMMOって大体二つのタイプがあるんだよ。始めからジョブを設定して、そう簡単に変えられないタイプと好きなタイミングでジョブチェンできますよっていう転職タイプと。今は……市民がセットされてるっぽいな」
ほらっと俺は軽く指を振って二人のステータス画面を開いた。
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プレイヤー/桂木流星/ヒューマン/男/ジョブ市民lv.1
★フィールドスキル:和気藹々
レベル増加と共に街で特殊イベントを発生させる確率があがる
サポーター/キッカ・マークツー/ロリ/女/ジョブ市民lv.1
★フィールドスキル:噂好き
レベル増加と共に街で耳より情報を得られる
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「おっプレイヤーとサポーターでちょっとスキルで違いが出るみたいだな。ってか種族ロリってなんだよ」
「流星!流星!わしにも見せてくれなのじゃ」
「へいへい。ったく。どっちがサポーターなんだか」
横でぴょんぴょんと跳ねるキッカのために屈めば、ほほうっと目をキラキラさせる。俺はそんな彼女の横顔をじっと見つめてしまい、それに気づいたキッカが目をしぱしぱさせた。
「ん?なんじゃ。人の顔をジッと見よってからに」
「いや、お前って中身人ってオチじゃねえよな?マジで信じられねえわ」
カップワンの時にも思ったことだが、改めて触れ合えば異常だとわかる。ちょっと凄すぎである。怖いくらいに。サポーターがフラグメントってオチじゃないのか?いや、暮らしてはないのか。やっぱあれ関連の話はようわからん。
「ほほう、つまりわしに惚れたと」
「欠片もそんな事言ってねえんだが?」
俺は目を細めて言えば、彼女は俺の手をとってステータスを消させた。
「大丈夫じゃよ」
「?」
「これからよくわかるはずじゃ。わしらはAI。お主達の世界には絶対に踏み込めぬ。架空の存在じゃとな」
儚げなキッカの表情に俺は少し見惚れてしまった。
「ねえ見て。あの人もしかして……」
「はっ!?やべえ」
「なっなんじゃ」
俺はキッカの手をとって駆けだした。
「職決めたら、服買いにいくぞ。ローブだローブ。こんままじゃ俺の学生生活が終わる」
「ようわからぬが、案外、現実も面倒な場所なのかの?」
「そりゃあまあ面倒面倒。だから、人はゲームに嵌まっちまうのかもな」
「現実から逃げるためと?」
「まあそういう側面も「ん?どうしよった」」
「いや、何でもねえ。ほらいくぞ」
ちょっと思い出してしまったのだ。カップワンの問いを。現実に無い刺激を求めているというのに何故、俺たちはゲームにリアルさを求めてしまうのかと。
≪転職神殿≫
転職神殿。それは読んで字のごとく転職を行える場所である。最初に設定できるジョブは市民、剣術士、弓術士、拳術士、治術士、魔術士の6タイプでここに来ればいつでも切り替えが可能なようだ。
そんな場所で俺とキッカはジョブ表を前に睨みあっていた。そう、俺たちは揉めているのだ。どちらがどちらのジョブを選ぶかという話で。
「いいか。キッカ。よく聞いてくれ。俺はずっとMMOをやってきて自分のプレイスタイルはわかってる。脳筋なんだ。だから前衛をやりたい」
「よいか。よく聞くんじゃ主よ。サポーターにも性格があっての。合わないジョブは負荷がかかるのじゃ。わしはぶん殴るのが好きじゃ。じゃから、前衛をやりたいのじゃ」
「くっ……」
流石は高性能AI。自己主張が激しい。俺はジョブ表に描かれたキャラ絵をトントンと叩く。できれば俺はPTバランス的に彼女には回復か補助に回って欲しいと考えていた。
「ほら、見ろよキッカ。回術士の服。可愛いぞモテモテだぞ」
「それならばわしはこっちの拳術士の衣服を所望するのう。わしのセクシーなボディーを存分に生かすことができよう」
「いや、お前ツルペタツルーンじゃねえか」
俺がそう指摘すれば真っ赤になって唸る。
「ぐぬぬ。成長するのじゃ。見ておれ流星」
「へいへい。ところで、AIって身体的に成長すんのか?」
「せぬのか!?」
どうなのだろう。進化するタイプは見たことがあるが、ボリボリと頭を搔いて、俺は仕方ないと溜息をついた。
「まあ、こうなりゃしょうがねえな。脳筋PTで行くかー」
「ふむ。わしが言うのもなんじゃが回復なしで行けるものなのか?」
「余程酷い構成じゃなけりゃ行けるようになってるはずさ。ただ大体、回復をアイテムで代用することになるから金掛かるだろうって話なだけで」
ふむふむと感心するキッカの横でどうやらこっちでの財布も厳しそうだと俺は肩を落とす。
「どうしてもというのなら、わしもお主に従うがの」
「いや、いいさ。この手のゲームって結局、当人がやりたい職をやるのが一番だからな。効率も大事だが楽しむことが一番大事だって俺の師匠が言ってたんだ。それにAIにそういう設定があるってなら、製作者側も色々試して欲しいって思ってのことだろうし」
俺はジョブ選択画面を開いて続けた。
「じゃあお前のジョブ拳術士にするけど、それでいいんだよな?」
「うむ!うむ」
ピョンピョンと軽くジャンプすることで喜びを表わす。何だか俺が初めてMMOを体験した時のようでキッカを見てるとほっこりする。
(俺も初めての時はジョブ決めだけでテンション爆上げだったっけか)
ちょっと懐かしい気分になりながらも俺は設定を終えて画面を閉じた。
「じゃあ、俺は剣士でっと。目の前に魔法陣に乗ってくれ」
転職しようと生徒達が魔法陣の前で並んでたが、丁度、手前の二つが空いたので俺たちは並んで入る。俺たちはあっという間に光の渦に包まれる。キッカが不安そうな顔をしていたので俺は頷いてやった。
(しかし、マジでどっちがサポーターなんだか)
愛着を持たせるためにわざと知識が無い状態にしているのだろうか。
(正直、キッカのお洒落アイテムとか課金で出たら買っちゃいそうだよな)
俺は人知れず運営の罠に恐怖した。
「おお」
効果音が鳴り、光が弾けて転職が完了する。直ぐに装備は変えるつもりだが、剣士の初期装備は中々に良い。ダランとしたアラビアっぽい衣で、腰には鞘つきのロングソードだ。
「やっべ。俺、初期装備全力強化しようかな」
まだこのゲームのシステムは全然把握していないけれど多分、そういうこともできるはずである。間違いなく労力はかかるし、いずれお洒落以外では使い物にならなくなるだろうけどロマンだ。
「ふぉおおおお」
どうやらキッカも終わったようである。全貌を捉えた俺はぎょっとした。
(あかん)
黒髪のサイドポニーにサクランボのようなアクセサリーが付き、武道家らしいダボっとした白ズボンを履いている。それはいい。問題は上。ビキニのような薄い布が胸元を覆っているだけで露出が多すぎた
「どうじゃ?似合っておるか?」
似合ってはいるが……。っと無い胸を張るキッカの肩にポンっと手を置いた。
「ぬ?」
「着替えるぞ。現実だとお巡りさん級だ」
「ゲームじゃぞ?」
「駄目だ。俺の学園評判が死ぬ」
「のう、わしが言うのもあれじゃが、もう手遅れじゃと思うのじゃ」
「いや、俺は全力で足搔く。学園恋愛とかやってみてえし」
そう、俺はやってみたいのだ。はい流星君お弁当。ありがとう美味しいよみたいな学校生活を。
「む」
「ん?」
トントンと腕をつつかれ何だと視線を落とせばニッコリとしたキッカに思いっきり足を踏まれた。
「いったああああああああ」
「ほれ、行くぞ流星」
「いちー。フレンドリーファイアー有りなのかよこのゲーム。ってかゲームなのに痛え何で?」
それに、今、AIに嫉妬されたのだろうか。ホントにとんでもないAIである。
「ほれ早うせんか」
「わかったっつうに」
そして──改めて思う。やっぱりサポーターとプレイヤーの関係逆転していませんかって。まるで我儘なお姫様に添う従者のように引っ張られて俺は武器屋に向かうのだった。
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流星ノート〇 ジョブ市民
何もセットしなければプレイヤーのジョブは市民となる。フィールドスキルと呼ばれるものが使用可。




