マグドール校長と特殊クエスト
「流星君、えらい遅かったやん」
「え?マジ?」
そんなはずはないのだがと新見さんの言葉に俺が首を傾げれば太一が苦笑して答えてくれた。
「マジだよ。マジ。多分、遅れて20分くらいだな」
おかしい。どこで時間を食ったのだろうかと俺が頬を搔けば太一の頭に乗っていた九官鳥のような黒い鳥がくえええっと鳴いた。こいつが太一のサポーターなのだろうか。だとすると人外もいるようである。収納もできるのか他の生徒達のサポーターの姿は見えなかった。年玉も言っていたがやはり上を目指す者はサポーターを使うことはなさそうだ。
「でだ。流星」
「ん?」
「一応、友として聞くがな。その左手をかじってるのは何だよ?」
「まあ、俺のサポーターだよ」
そう、俺は先程から怒り狂ったキッカに齧られていた。太一は眉間をもみ込む。
「悪い。俺にはロリに見えるんだが?」
「まあ、ロリだな。どう考えても」
「お前……俺のアドバイス……」
「しゃあねえだろ。2連続でこいつ引いたんだから」
そう俺が答えれば太一は呆れたような顔になった。
「何言ってんだよ。ランダムはランダムだったけど、系統は選べただろ?初回特典で、動物系とかお姉さん系とかラテン系とか」
「え?」
おかしい。選ばせて貰った記憶がない。俺が反論しようとすれば新見さんのからかうような笑みが目の前に来てのけぞった。彼女は距離感が近い。
「ほうほう、桂木君はそういうのが好みっちゅうわけやな」
「いや、違え」
「流星諦めろ。手遅れだ」
周囲にいる女性陣のじいいいいいっという視線が痛い。あらやだ奥さん的に耳打ちしてる者までいる。確かに時すでにお寿司のようだ。
「糞……お前もいい加減嚙むの辞めてくれよ」
「流星。むっ」
「ぬっ」
やってきたナズナとキッカが見つめ合う。何となく波長が合いそうな二人である。ナズナが無言でそっと俺からキッカを引き剝がそうとすれば、キッカが軽やかにそれを避わしてニヤっとした。
「ふっしゃあああああああ」
「しゃああああああああああ」
「お前らは近所の猫か」
「でもあれやんね。この子がAIやって信じられんわ。勿論、うちの子も」
「ああ、やべえよなこのゲームのサポートAI。マジで生きてるみてえだ」
太一のその言葉には同意である。ただ何より俺の楽しみなのが戦闘だ。
(この調子だとモンスターのAIもヤバそうだよな。くううう早く戦ってみてえ)
「あっやっと始まるみたいやで」
「始まる?」
新見さんの言葉に首を捻ねれば、太一が答えてくれた。
「ああ、軽く校長の挨拶があるんだってよ」
へえーっと言えば中心にドンっと台が置かれた。ひょこひょこと上がってきたのは始業式でも登壇した外国人のお爺さんである。確か名前をマグドールと言っただろうか。彼は真剣な表情で周囲を見渡し、口を開いた。
「よっこら○っクス」
「……」
唐突な爺ギャグに浮ついていた生徒達のざわめきが死んだ。ある意味、効果的であったかもしれない。
「校長先生っ!!!」
「あだだだ。教頭先生タイムじゃタイム」
教頭と呼ばれた背の高い綺麗な女性がアイアンクローを決めている。始業式でも思ったが随分と校長はお茶目な性格のようだ。俺と太一は顔を見合わせて肩を竦めた。
「うむ、どうやら生徒達は集まったようじゃな。お主達もさっさとプレイしたかろう。挨拶は長くならぬようにしようかのう」
おっほんと咳をうってからマグドール校長は続ける。
「さて、予め放送でも伝えた通りここから1か月、お主達の好きなように動いて貰う。謂わば放置プレイ。んー学園としては楽でいいのう「校長先生っ!!!」」
老人らしからぬ動きで、ひょいと教頭の攻撃を避わしてみせた校長はニヤッとした笑みを浮かべた。
「勿論、査定が行われ、そこでの評価が成績、クラス替えにも影響してくるから遊ばずに上を目指すことを推奨するがのう」
「余りにも酷ければ最悪退学もありえるので。余り馬鹿げた行動はとらないように」
教頭から放たれた退学という言葉に再び生徒達がざわついた。それに苦笑したマグドールが指を立てまた注目を集める。その指の先にはプレートが表示されていた。
「実はわし、昨日からこのゲームをやっておっての。どうもこのヴァラパラβはすこぶるレベルが上がりにくいようじゃ。お主らもそれを身をもって知ることになろう。そして、わしのレベルは10。こいつの意味するところはお前さん達ならわかるじゃろう。そう、狩場あるんじゃよ。この近くにの」
そう言い終えたマグドールは台を蹴り上げ、指先に乗せた。恐らくこのゲームの仕様を利用しているのだろう。
「流星、あの爺さん」
「ああ、多分糞ほど強い。戦ってみてえな」
「リーダーって何気に戦闘狂だよな?」
これは普通だろとキョトンとすれば、最後にとマグドールの声が響く。
「あと、この街は学園専用の拠点。近くには一般のβテスターさん達に開放されておる街もあるのでの。組むことは許されておるが、問題は起こさぬように。ではの、頑張って上を目指せ若者達よ」
黒い渦。アイテムボックスだろうか。そこに台を放り込んでマグドールと教頭は光の中に消えてゆく。その際に指を弾けば、俺たちの前にクエストが浮かび上がった。
”特殊クエスト:兎に角、上を目指せ”
「はっ」
最高過ぎて思わず笑ってしまった。ゲーマー心を分かっている。周囲も騒ぎ出し、スタートダッシュを決めようと動き出している者もいた。
「どけどけいー。成績トップを取るのはA組のこの吾輩、凌豪遊よう」
「馬鹿言え。SだよS。お前がどけよ」
小競り合いのようなものも起きている。俺も行くかとぐっと伸びをした。
「桂木君と太一君はやっぱ一緒にやるんか?」
「いや」
「いんや」
新見さんの言葉に首を振って俺と太一は互いにだよなーっと見合った。
「「やっぱMMOの触りはソロっしょ」だろ」
友人とやるのもありだとは思う。ただ、最初のソロプレイだけは譲れない。VRMMOにおいて最高に楽しい時間なのだ。何の情報もない状態で自分の判断で突き進むという行為は。勿論、気がすんだら組むつもりだ。
「ふーん。ようわからんけど、うちらは組むで。何せFで同じクラスとしか組めへんやろし。なーナズナズ」
「うん」
ナズナがジトリと見ているのが未だ俺の腕に張り付いているキッカである。俺はそんなロリっこ娘の頭をはたいた。
「お前もいい加減離れてくれよ」
「ふっ嫌じゃ。わしをチェンジした罪は重いのじゃ。お主の嫌がることをやってやろうと決めたのじゃ。ほれほれほれー」
「はあ……なんつうサポーターだよ」
「一応、言っとくけど流星。お前それロリと全力で戯れてるようにしか見えねえからな?現実だと補導だぞ?」
確かに周りの視線がかなり痛い。俺は頭を抱えた。
「俺、ダンジョンにでも籠ろっかな」
「はは……ご愁傷様やな流星君。じゃあ、出遅れてしまうからうちらも行くわ」
「ああ」
「流星、夜辺りに情報交換しようぜ」
俺は太一に手を振って答え、俺たちは別れた。鉄塔君やあの眼鏡の年玉もそれぞれチームを組むようである。こうして俺は相棒のキッカを連れてヴァラエティーパラシスでの最初の一歩を踏み出したのである。目立たないようにこそこそと。




