キッカmarkⅡとスロスロ
カップワンに指定された白の塔はとても背の高い建物であったが、どうやら一階建てのようで描かれた模様が小粒に見えるほど天井が離れている。
また、床には赤い絨毯が敷かれ、シックな黒い家具と装飾された金の柱が高級感を出していた。
そんな謎めいた空間だったわけだが何をする場所なのかは明白だった。空に浮かぶネオン文字と真ん中に鎮座するスロットが教えてくれるのだ。
ここは狭いカジノであると。とのことで、多分、これを引けばいいのだろうと俺がスロットレバーに手を伸ばせば急にスロットが動き出し、それも喋り出したので俺は驚いてしまった。
「マドモアゼル~お客様。ようこそラヴェルへ」
「っ!ビビった~お前喋れんのかよ」
にょきりと腕が生え、俺の言葉に反応するかのように上部分に取り付けられていた電工板にニコちゃんマークが描かれた。足はポールで地面に繋がっていて歩くことはできなさそうだが、腹にあるスロットは激しく回転したままである。
「私、スロットのスロスロと申します。以後、お見知りおきを」
「流星だ。桂木流星、よろしく。っつかマドモアゼルってお前……。一応、俺男なんだが」
「ほう、雌ではないと?」
「どっからどうみても雄だろ雄」
俺が手を広げて謎アピールすれば、映像だと言わんばかりにスロスロはその身を折り曲げてお辞儀した。
「これはこれは失礼を致しました。私、スロスロ。まだプレイヤーの男女の見分けがつきませんで」
「設定とかされてねえのか?アンタもAIなんだよな?」
「ええ、されていません。何せヴァラパラの運営AIは自律性。性能に差がありますが、学習してゆくようにできているスロから」
これに俺は首を捻る。
「あんたに聞くのも違う気がすっけど、それって大丈夫なのか?」
「さて、どうでしょう。安全には万全を期していると言われておりますが。全ては運営の御心のままですから」
少し考え込もうとした俺だったが、それを遮るかのようにチーンとした音が鳴り、パンっと目の前で紙吹雪が弾けた。気づけば腹のリールが止まっていた。
「おめでとうございます。桂木流星様。77二つ揃いということで貴方の今日の運勢はそこそこ素晴らしいものとなるでしょう。それでは早速引いてもらいましょう」
「引く?」
「ええ、きっといいものが出るはずですよ。貴方のサポーターを決める。ガチャを」
すると、ズドンっともう一体の巨大なスロスロが空から降ってきて俺の前髪を浮かせた。俺は口元を引き攣らせることしかできなかった。
「このゲームの演出激し過ぎんだろ」
「それでは、お客様どうぞお引きくださいスロ」
「引けっつわれてもな」
「いえいえ、そちらの本体は出てくる場所でございまして。そちらを回して頂ければと」
そうやって示された場所には町内会で使われそうな簡素なガラガラがあった。これまでの演出が謎と化す。
「……」
「ちなみに、レア度SSが銀色。Sが金となりますスロ」
「ランクで強さって変わるのか?」
「とんでもこざいません。容姿のみ。高いランクほど人気のキャラデザイナーの手掛けたものとお考え下さい。育成要素は極力平等。まあ、人型、動物型などで多少の差はありますし、ゲームを進めればどうなるかまではお教えできませんスロが」
「じゃあ、まあ引かせてもらうな?」
動物が好きなので俺は犬タイプがいいなっと思いつつガラガラと回す。中々出てこないので何度も回転させれば銀色の玉が出てきておっと声を出してしまった。ぱっと過剰なエフェクトが掛った。ただただ五月蠅い。
「おめでとうございます!やはりお客様はついているようです。Sランクスロね。今、人気急上昇中の3D神絵師、黒牡丹様が描いた個体、キッカ・MARKツーという個体スロ」
キッカ・マークツー。それが俺の相棒となる補助AI。ワクワクが止まらない。プシューっと白煙が噴出し、ファンファーレが鳴った。もくもくとした中に影が映る。そのシルエットが幼女っぽくて。俺は顔を覆った。
「くふ。くひゃっはっは。シャバの空気激うま―。わし見参っ!!!なのじゃー」
波打つ長い黒髪にエルフような白い肌と尖り耳。勝気そうな少しだけ吊り上がった灼眼に小さい牙が覗いている。そんなやはり整ったロリフェイスが俺に向けられた。彼女はフーンっという顔をした。
「ほう、お主がわしの主であると。わしの美しさに惚けておるのか?まあそれも無理なきことクックっク。さあ、主よ。共に歩もうではないか。このヴァラエティーパラシスの世界をの」
「チェンジで」
「なんでじゃあああああああ」
すがりつこうとするロリ、もといキッカの頭を俺はガっと手で抑えた。
「悪い。ロリコーンだけは駄目なんだ」
「何を主は訳の分からんことを。くっ本気でキックするつもりなのか。このわしを」
「悪い」
「くっ後悔するといいのじゃ!Sキャラじゃぞ。そう簡単に出やんのじゃぞ」
そう言い残してサポロリは消えていった。
「すまねえ。キッカ何とか」
「キッカ・マークツーでスロよ。お客様。しかし、勿体ない。Sキャラ以上は総勢3000ほどしか存在せず同じものは一つとないと言いまスロに」
「いいんだ」
見た目だけでそこまで性能変わらないらしいし。
「それではもう一度。これが最後となります」
「ああ」
俺はガラガラと再び手に力を込める。そして──やはり出てきたのは銀色の玉であり、煙の中から出てきたのはふくれっ面となったキッカ・マークツーだった。フラグって怖い。俺の高校生でのあだ名が決まった瞬間である。第二のロリコーンと。
◇◇◇
スロスロに別れを告げて白の塔にあった扉を開けば、中世ファンタジーの街並みが広がっていて俺は感動してしまった。
「すっげえ……」
細分まで作り込まれているからだろうか。本当に現実であるかのようなリアルさを感じる。ただやはりあのメイドAIカップワンと見た町ではなさそうである。あれは本当にどこだったのだろうか。ただの背景には見えなかったが。
「ごめんよ」
「っとすいません」
誰かとドンっとぶつかってしまい。俺がどけば町人らしき人影が走り去ってゆく。彼だけではない。周囲には数多くの住人たちがそれぞれの生活を送っている。それでもカップワンの言うようにフラグメントほどの高性能というわけではなさそうだ。彼女はその登場が一年後と言っていたし。ってかばら撒かれてるのに一年後って一体どういうことだ?
「流星!こっちだ。こっち」
太一の声に顔を向ければ広場のような場所があって、そこで太一が手を振っていた。ぱっと見た感じクラスの連中も揃っているようで、どうやら俺が最後のようだった。俺も右手でそれに答えて、重い左手を引きづるようにして彼らの元へ向かった。




