閑話 流れる星の周囲で輝く小さな星々②
「稀人一つ頼みがある。私を上に運んでくれないか?あと、少しだけ一人にさせて欲しいんだ」
ドガディス表ストーリーのフィナーレ。空飛ぶ船の上でこの物語の主人公ともいえるロシューの声に紺色の髪を三つ編みにした世迷迷子が振り返ればピンク色、このPTのリーダー咲中夜桜、咲の姿が目に入った。
「はぁーもうしょうがないわね。ほんとアンタって私がいないと何もできないんだから。それで?まさかおぶれとか言わないでしょうね」
「い……いや肩を貸してくれるだけで十分」
「咲ちゃん私手伝おうか?というか私がやっちゃってもいいけど」
迷子がそう声を掛けると咲は大丈夫と手を振ってこたえた。
「平気よ平気。迷子は先に皆のところに言っておいて。ほら、土竜いくわよ。言っとくけどね女の子に肩貸して貰えるだけで十分有難いと思いなさいよね。あっHなことしたら絶対許さないんだから」
「しっしないしないよ僕はそんなこと」
「あっまた僕に戻ってるわ。貴方の境遇はゲームキャラとはいえ同情するし、私もうるっときたけどね。男だったらしっかりしないとアンタモテないわよ」
「もっモテ……別に僕はそんな」
「何言ってんのよ。貴方王様になるんでしょ。お妃さま娶るんでしょ?あのドガティスに上がった時の口上は良かったじゃない。ああいうのよああいうの。男を見せるのよ。お母さんも言ってたでしょ。そして紳士になるの。女の子を足蹴にしようなんて奴はもうダメ。絶対ダメ」
「もう分かったってばーホント!何なのこの稀人ー」
はははっとNPCとはいえモグラに同情しつつ、いつも通りだなー咲ちゃんと迷子はそっとその場を離れた。
そして彼女がやってきたのは外で待つメンバーの元。一名を除き、彼女達は一緒になって空の上だというのに船の端から足を投げ出していた。満開の星空にうわーっと感嘆の声を漏らしつつ、迷子も僧侶姿の横に座る。
「うぅぅぅうー!わっ!」
「きゃっ!?」
ドンっと緑髪の女の子に押され、迷子は目を白黒させた。落ちることは無かったが下を見てしまって真っ青になる。
「へへー怖かった?大丈夫だよメイメイ落ちないー落ちないー」
「もう!雫ちゃん!」
迷子に怒られペロっと舌を出すお茶目で明るい女子は天野雫。彼女は天上の戦乙女の回復役でチームのムードメーカ的存在である。が、時々悪戯癖があった。
「後、ごめんね。私のせいで大変なことになっちゃって」
「それはもう気にするなっていったろ?天野。そんなことで責める奴はこのPTにいない。リーダーである咲もいいって言ってるんだ」
これに応じたのは横にいる銀髪の女騎士。男性的で女子人気が高い彼女は色んなPTから引っ張りだこと聞いている。前衛とタンク役を得意とし、普段はこうして落ち着いているが戦闘になると血気盛んな一面がある。名前は騎森 昌。
「いやだとしても謝るべきかなって」
「何度目だ。あの場で頭を下げたんだからもういいだろう。そもそもあんな事までする話じゃない」
「家から大事な電話があったんでしょ?」
迷子が聞けば雫はそうなんだよねと申しわけなさそうに頷いた。
「じゃあ仕方ないよ」
「そう、リアルを大事に」
そして最後に入ってきたのはPTの魔法使い──黒沢百舌。ロシューと違った黒の魔女帽子を被り、着た同色のローブでただでさえ白い肌を際立たせている。眼は瞼が落ちた半眼状態で、大好きな魔法の事を考えているのかぼんやりした女の子。
「うん、そうだね。ありがとモズモズ」
「それに私たちに謝るくらいなら彼らにした方が良かったかも……っふふ」
「あーそっか……そうだよね。組んだ人たちってなんてPTだっけ?」
「ないわよ。彼らのPT名。即席だったらしいから」
そこでそういえば本当の最期の一人とバっと全員で振り返ればどこから取り出したのか優雅に椅子に座ってディーセットで紅茶を呑む柊テトラの姿。彼女は急遽この物語攻略のために集められた仮のメンバーだった。
「即席か。そういえば咲がむこうはサポ2肉入り2って言ってたか」
実際に見ていないがリーダーから聞いた話だとそういう話だったという昌に雫がぎょっとする。
「え?欠け落ちPTだったの?だったら悪いこと……っていうか勝ったの凄くない!?私たちが戦ったのが向こうにいっちゃって強化されちゃったんだよね?」
「表のストーリーだと場合によっては楽になったりもするらしいが……どちらにせよ二人で相手取ったということだから強いのだろうな。高峰が実力者なのは知ってるがもう一人の生徒は確か」
チラっと昌が柊を見て彼女はカップを置いた。
「桂木君なら私と一緒のFクラス。というかPT組んでる子ね」
「F!?じゃあ、その高峰って子がとんでもなく凄くて……ってあれ?ランク関係ないんだっけ」
混乱した雫にそうそうと迷子は苦笑する。
「桂木君なら変態よ」
シーンとした場に柊は過ちに気づき一瞬慌てるが──
「あっそういう意味じゃなくて……でもどうかしら?別にそっち方面の話知らないってだけだし」
と考え込んでしまった。迷子は武器屋で出会った少年の事を思い返しながら否定してあげて欲しいと少年の評判の無事を願う。
「まっ兎に角SやAでもおかしくないわ、あれは。キッカちゃんも凄いしね」
「キッカちゃん?」
つい迷子が聞いてしまえば柊が視線を寄越した。
「彼のサポAIよ。このゲームのサポAIってかなり凄いわよ。私も育てることにしたもの」
「サポか」
淡々とした昌に、雫も同じテンションで返す。
「私たち基本フルパだしね。私のサポカッコいいから偶に愛でてるけど、今は使わないかな。」
迷子も百舌も右に同じと頷き、再び昌が柊に聞いた。
「そもそももうすぐクラス対抗だろう?そんな暇あるのか?」
「まあ私のサポは職人特化型だから。対人でそこまで好成績収める気はないし。まあ、彼はそういうちょっと変わってるってことを言いたかったってわけ」
「なあ柊さん」
「何かしら大森さん」
「そこまで買っていて一緒にやらないのは何でだ?君たちはPT組んでいるんだろ?」
「そうね。組んでるけど色々話し合ってマアトの天秤はエンジョイ勢だろって話に落ち着いたの」
「エンジョイ勢ですか?」
迷子の問いに柊がそうと顎をひく。
「ガチガチに鍛えてトップに食いつくPTじゃないって。好きな時に好きなタイミングで集まって一緒にコンテンツを楽しむ。そういう面子だろってね。ほら、私たちって遊んでるわけだけど、遊びに来たわけじゃないじゃない」
「うん、高い学費払ってるしね」
雫がいい彼女の目と柊の目が合わさった。
「将来、私たちの進路は大きく二つ。一つは生涯を共にできるメンバーをここで揃えること、もう一つは大手クランに就職すること。この話が出たのが桂木君と太一君からってのがちょっと衝撃でね。上を見てる子はもう見て」
「はいはいエライーエライー」
パンパンと手を叩いて遮ったのはどうやら運び終わったらしい咲。
「そうよ、そうよね。テトラ、アンタあれの知り合いなのよね。あの私の乙女バリアーを見事に足蹴にしてくれちゃったあの朴念仁野郎と。いやーまさか高峰と同じくらいヤバい男子がいるとは思わなかったわよねー私は。見てこれ、私も悪いと思ったからお詫びとして中級の麻痺解毒あげたのよ。そしたら何てかえってきたと思う。どもっ。いや、そこは有り難うございます咲様でしょ。お前一世紀前のゆるキャラかよ。幾らしたと思ってんですかー」
「あっ見てエンディング始まったみたい」
「ほんとだな」
「すごっ綺麗ー」
「そこで私は考えたわけよ。これは仕返しすべきだってね。今度は解毒薬と偽って本物の麻痺薬を混ぜてやるのよ。えーえーそれくらい許されるわよ……」
ドガティスのエンディングが始まり、皆後ろでしゃべり続けるピンクを無視して雲に映る映像に夢中になる。柊もこっそり避難した。その横に座った柊に雫が話しかける。
「テトテト」
「え?てとてと?」
自分のあだ名に目をパチクリした柊だったが、それを気にせず雫は話しかけた。
「私たちって色々考えることあるけどさ。折角、凄いゲームなんだから絶対楽しまなきゃ損だよ」
「そうね、雨宮さんそれは私もそう思う」
二人で見上げ、互いに天ノ川に気づきその美しさに雨宮が興奮した。
「見て、皆上上!!すっごいよ」
彼女たちは見惚れる。これまでに無かった自然描写に心を奪われポカンとする。
「うわー綺麗ー」
「ここに住みたいかも」
「わかるー」
「このメンバーで一緒に見れて良かった。そうだ!写真撮ろ」
雫の一声に大賛成と頷く女たち。そこに丁度、ロシューがやってきた。
「稀人、あれは龍みゃっ「あっ丁度良かった。ね、ね、モグモグ写真とって」」
「え?」
有無を言わさずポーンっと使い捨てカメラを渡されるロシュー。眼が点になる。
「ほら、サクサクもいつまで独りごと言ってるのよ。並んで並んで」
「え?何よ」
「写真撮るの!リーダーいないと締まらないでしょ」
流石ムードメーカー雨宮雫。さささっと皆を並ばせ満面の笑みでピースする。
「あっモグモグ。ハイチーズでお願いね」
「ってか今時使い捨て!?」
「何かこれじゃないとNPCが理解できなくて取ってくれないらしいよ。そういうアイテム」
「へー」
稀人達が何か言ってるが、それどころじゃないとロシューは眉間に皺を寄せた。そもそも自分のこの爪でしっかり撮れるのかどうかと……。後、足も悪いのでフラついてしまう。
「あの、これ私の手で取れるか怪しいといいますか。誰か変わって……う”」
真顔になった女性陣に圧力に屈し、ロシューは男を見せるため己が胸を叩いた。
「まっ任せて下さい。このロシュー・ドガティス・ドラゴニアが必ず写真とやらを撮ってみせます」
おーっとパチパチとした拍手を受けて、ロシューは天を仰いだ。
(母上、稀人ってホントなんなのでしょう?私は本格的に訳が分からなくなってきました)
構え、後ろに先祖たちが爆散した煙が立ち上っている。これ罰当たりじゃね?っとロシューは思ったが彼はもう思考を停止させた。
「ではいきます。あっ笑ってください。はいチーズ」
パシャっと。彼女達の写真が出来上がる。大筋のシナリオは変わらない。けれど、人の数だけ雰囲気は変わり、同じイベントでも何だか違って見えるもの。それがヴァラエティーパラシス。人の数だけ可能性がある。いや、そうなるように作られているのだ。他ならぬ製作者の手によって。




