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閑話 流れる星の周囲で輝く小さな星々①

【蒼龍ナズナ】


 さあああっと風が流れ、白いカーテンを揺らす。ベッドに腰掛けるナズナはぼんやり外を眺めていた。それがなんだか小動物っぽくてラヴェルの保険医、手島久美子はクスッとしてしまった。


「落ち着いたかしらナズナさん」


「あ……」


 いたことを忘れていたと言わんばかりに目を見開いたナズナはペコっと頭を下げた。


「ありがとうございました……えっと……」


「手島久美子。テクミっとか生徒から呼ばれてるわ。まあ、あんまり私はそのあだ名好きじゃないけど」


 ニコっとした優しげのある笑顔を見せた手島にナズナは照れつつ今度はしっかりとした礼を彼女に行う。


「ありがとうございました。手島先生」


「いいのいいのそれが仕事なんだから」


 ゲーム学校なのに保険医必要なの?っと思う人もいるかもしれないが、現代VRMMOはスポリティーが高いためカラクミを行うし、部活動も武道系が多いため結構怪我人が続出する。なので女の子一人だけというのは珍しい。


 それにそもそもナズナは怪我ではなく精神的なもので運ばれてきたのだと心配げな顔でナズナを見る。


「大丈夫?平気かしら」


「平気。復活した」


 両手を胸の前で構えふんすと鼻息を立てるナズナにちょっと変な子なのよねと苦笑する手島。まあこのラヴェルにはもっとヘンテコな生徒が山ほどいるから別に彼女が特別ということじゃないのだけれど、妙なひっかかりなようなものを手島は覚えていた。


「選ばれた教材、ホントに危険じゃないのかしら。どんどんリアルになるって聞くし、高いところから落下ムービー差し込むなんてちょっとやり過ぎよね」


「歌が……」


「歌?」


 つい零れたナズナの独り言を手島が拾い上げればナズナが苦笑して口を開いた。


「ちょっと怖かった」


「そう、まあ気を付けなさい。貴方たちにとってすればゲームが大切だろうけど、現実の体も大事なんだから。ね」


 そう言って頭をナデナデすると頬を赤らめてコクっとするナズナ。可愛い。何故か庇護欲を駆り立てられてしまうと手島の撫でる手にもつい熱が籠る。


「先生あの」


「あっごめんなさいっつい」


 ばッと離れるとナズナはちょっと寂しそうな顔をした。


「手島先生。お母さん……みたい」


「え”!?」


 ぼそっというナズナの言葉に手島は固まる。手島久美子、25歳。独身。黒髪を束ね、肌もまだまだ彼らに負けていないと自負している。昨今、架空キャラと結婚する人が増えているが手島は現実恋愛主義。

故に彼女にとってショックであったが、駄目怒っちゃダメと心を落ち着かせた。


「えっと、流石にナズナさんの子供がいる年じゃないかな私ーなんて。それともお母さんは美人さんなのかな?」


「優しかったと思う。私にもお母さんいた」


う”過去形。これは逆に地雷踏んだかと思った手島はナズナの顔を見て一瞬、固まった。自然と手が伸びてゆき、保護欲とは違う意味でその紫髪の小さな頭の上に乗せられたのだった。


◇◇◇


手島から戻っていいと了解を得て、てってってってっと校内を歩くナズナ。


「いっぱい撫でられた」


 へへっと嬉しそうに笑って、軽く頭に触れたナズナにポンとポップ音が鳴って彼女は首に巻いたサイフォンを操作し、メニューを開いた。マアトの天秤メンバーからの手紙にナズナの目がキラキラと輝いてゆく。


「流星、太一、テトラ、結」


 一枚一枚足を止めて読んでゆく。放課後、学校特有の生徒達の喧騒が薄っすらと窓が聞こえていた。


「流星は……馬鹿。太一も……馬鹿。キッカは腹立つ」


 男二人は馬鹿な写真で、キッカは自慢げなボスを討伐したのか夕陽をバックに刀を背負ったドヤ写真。そうはいいつつも、彼女の口元は緩んでいた。


「テトラ優しい」


 彼女は作った装備を送ってくれ、マアトの用の拠点を買ったらしく、ナズナ用の部屋を見せてくれている。当然、皆心配の言葉をくれている。そして最後に


「結」


 リーダーを務めているからもあるのかいつも一番気遣ってくれてるのが彼女だ。電話で夜遅くまで話し元気づけてくれた。彼女が既に多くの友人を抱えているのはコミュ力だけじゃなく気遣いなんだろうとナズナは思っている。でも──


”ナズナズはドガディスのストーリーどうする?”


「ドガディス……」


 当然の如く書かれたその言葉に一瞬だけ彼女の思考が止まるが、首を軽く振ってナズナはもう大丈夫。行くっと打ち込んだ。


 廊下。前を向けば外の光が溢れている。行かなきゃ。また彼らとの旅にと進もうとしたナズナに声が掛かった。


「ナズ」


 振り返れば闇。そこから一歩踏み出したのは始業式の後、ナズナと二人羽織していた女の子だった。不思議なほど黒を纏ったその少女の容姿は見えない。その手がすっと差し出された。


「あの人が呼んでる」

 

 コクっと頷いたナズナは振り返り、その眩さに目を細め少女の手をとって奥へと消えてゆくのだった。

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