裏・エピローグ 楔を断ち切り出した者達
倒れ伏したアドラーに目を細めロシューは一歩一歩自らの足で進み、彼の前に立った。
「アドラー……」
「ほう、王の試練を突破なされたか」
「爺さんよお。無理な注文かも知れねえがこうもっと黒幕らしくしてくれよ。どうにも気分が落ちちまう」
「ふっ流石稀人だな。無茶苦茶なことをいう」
アドラーのおっしゃる通りだと思うが、俺も正直高峰に賛成だ。ゲームの悪役は倒すべき敵として悪役に徹していて欲しい。
「なあ、苦しそうだがそれ痛むのか?」
俺がそう聞けば彼はふるふると首を振った
「いや、一切の痛みがない。それに清々しい気分だ。課せられた役目を果たしたのだと分かる。私はこのために生まれてきたのだと」
「そんなことはないっ」
ロシューが食いつくように言い、アドラーはふっと笑った。
「確かにそうだ。この晴れやかなる心も、薄れゆく記憶も神が定めた偽り。だが、一つだけ確かなものがあった。稀人よ、お前たちとの闘い実に楽しいひと時であった。特にそこの小娘」
「キッカじゃ。稀人じゃがお主らと同じ側の者じゃ」
「もはや我々には訳がわからんが……そうかあの輝き我々ヴァラティエの民でも出せうるものなのだな」
彼は思い馳せるかのように目を瞑って再び口を開いた。
「稀人よ最後に一つ聞きたい」
「何だよ?」
「お前たちは別世界にゆくな」
「他ゲーって意味ならいく」
「そこで敵はどう描かれる」
「巨悪。絶対に倒さなくてはならない敵かな」
俺がそう答えれば彼は目を細めた。
「やはりか。であれば稀人よ。お前たちは悪として描かれたものを打ち倒すことに喜びを覚える種族である」
(悪として描かれたものを打ち倒すことに喜びを覚える)
言われたことも考えたことも無かったため思わず頭の中で反芻してしまえば、したり顔でアドラーは鼻を鳴らした。
「ふっその点私は巨悪とは言い難い。どうだ心苦しかろう。これが私なりに思いついたお前らへの復讐だ」
「勘弁してくれマジで」
微妙な顔となった俺達の姿に稀人への溜飲を下げたのか、これで話は終わりとロシューに顔を向けた。
「さて、ロシュー王。一つ謝らねばならない。私はどうも嫉妬していたらしい」
「嫉妬?」
「未来ある貴方の姿にそしてその横に立ってドガティスの未来を見れぬという現実。確かに恨みはあったがそういった年寄りの愚かな気持ちも私にはあったようだ。許して欲しい」
「許すも何も僕は気にしない。あっ私は気にしない。私はお前と共に歩みたかったアドラー」
「ロシュー王。何事も完璧というのは脆いものだ。優しさにしろ、強さにせよ、仲間を作ることだ。わしのようにならぬ……ために……」
ゆっくりとじっくりとアドラーの瞼が閉じられ彼は死んだ。光の粒子となって立ち上りやがて泡となって消えてしまった。
正直、他にやりようはあったんじゃないかって俺は思ったけれど、残念ながらこのゲームにはこのルートしか用意されておらずエンディングを迎えることになった。
晩餐会があって、ロシュー王即位式があってモグラ達の華やかなイベントが行われてゆく。スチームゴーレムの事は民に露見というかロシューが全容を発表したが、アドラーを悪人とすることをロシューが決して許さず、彼はモグラ達の英雄として語り継がれることになった。
◇◇◇
「もう行くのか?」
「ってか活動限界で落ちなきゃなんねえし、いい加減次にいかねえとな」
俺達にとっては一瞬だったがロシュー達からすると数日経っているはずだ。それでも彼は実に残念だと悲しそうな顔をした。
「そうか、稀人には本当に色々あるのだな」
「ロシューも王様だろ?何するとかよくわかんねえけど頑張れよ」
「ホント数年ぶりに大人しかった妹に会ったら鬼のようになってて大変さ」
ロシューが頭で指を立てるものだから互いに笑い合って、ぐっと伸びをした。
「また暇が出来たら遊びに来るわ」
「なら、いい報酬を用意しておこう」
へいへいっと俺は手を振って王城を出る。さてキッカ達に合流かなと思ったがプレイヤーの姿が見えずまだストーリー続いていることに気づく。城の階段を降り始めると向こうから誰かがやってきた。その姿に俺は呆気にとられてしまった。
「は?」
「数日ぶりか。いや稀人なら一瞬で過ぎ去るのだったか?」
「いやいやいや」
死んだはずのアドラーが俺の前に現れた。ただ死んではいるのだろうロシューの母親のように薄くぼやけ輝いている。
「見ていたからな。やり方がわかれば私一人でも再現できる」
「ホント化け物だなアンタ」
「ずっとこの国を支え浮かせてきたのだ。それくらい可能だ。まあ、これすらも神の
掌の上、物語の中だとは思いもしなかったがな」
確かにと俺は頷く。
「それで要件は?」
「聞けばクエスト報酬がなかったらしいじゃないか」
「ロシューにはいいもの見せて貰ったけど?」
「足りぬ。ドガディスの沽券に関わることだな。元大臣として私から褒美をやろうというわけだ。くれてやるのは二つの情報だ」
「情報?」
そういえば自分の体が痺れたように動かないことに俺は今更気づいた。
「稀人、最後の時私がお前達に話した事は覚えているな?」
「えっと悪として描かれたものを打ち倒すことに俺達が喜びを覚えるだっけか」
「であれば問おう。もし打ち倒さなければならない者が純真な一点の曇りなき善なる
者であった時お前達はどうする?」
思わず考え込んでしまえば彼はトンと俺の肩を叩いた。
「その答え出しておいた方がいいかと思うぞ。私はエルフの血を引き星を見続けた悠久のアドラー。つまりお前達が辿り着くであろう数多の定められし過去を見てきた者なのだからな」
俺がぎょっとして称号の付いた彼を見ればアドラーはふっと口角を上げて、何故か俺の視界の届かない後ろに回った。
「そしてこれgA ざいごの じょUほう」
「ん?おい大丈夫かお前?」
明らかに様子が変だが固まったように痺れ振り向くことができない。アドラーはかなり苦しんでいるようだ。
「くっく……わ”たじは ずっと か”みへのふく”し”ゅうを ねがって”いDA。ぞじで おも”いづいだ。 がみが えがいだ しなRIお” を まれびどに も”らじでじまえ”ば いいど」
「何言って……」
「聞け” まれびど こ”の ヴァラ■エの ぜGAい には がみ”は に”柱いる” dpfajpjfiojbpiojapwfpmfppiejpp」
バシュっと音が鳴り、光の粒子が目の端でチラついた。体が動くようになり振り向くがそこにアドラーの姿は無かった。
あまりにも迫真であったため、俺にしか届かなかった謎の声なんじゃないかと思い込んでしまったが、この後すぐに裏クリアーを果たしたプレイヤーの全員が聞いていたものと知りこれもストーリーの描かれたものであったことを知る。
このこれまでに無かった奇抜で奇妙なシナリオは多くのゲーマーの心を捉え、噂が噂を呼びヴァラパラの爆発的な人気を生む火種となった。そしてその声は廃人達の耳に届き始めるのだが……それはもう少しだけ先の話である。
◇◇◇
アドラーによる衝撃的なイベントのせいでやや放心気味で俺が外に出れば、この国で過ごしたPTメンバーと再会する。勿論、キッカ、高峰、ルフさんだ。この組み合わせでやるのももしかすればこれが最後かも知れない。
何故なら現代MMOとは一期一会、色んな人とPTを組むものだから。
「しっかし最後に爆弾放り込んできやがったよな、あの爺モグラ」
「あーやっはりお前らも見たのかあれ」
「幼女の耳元で囁くとか事案なのじゃ」
「マスターの仇の言葉など聞くことはない」
「いや、俺死んでねえっつうに。いや死んだけどいい加減わかれよルフ」
言いたい放題で笑う。ストーリーが終わりプレイヤー達の姿が見える。そのドガティスの町並を堪能しながら歩いているとプレイヤーの会話が聞こえ俺は思わず立ち止まった。どうやら彼らはガチャを引いているようだ。
「あー糞またEランクだよ。しけすぎだろこのゲーム。おかしいだろ絶対」
「別に強さ変わらねえらしいしサポとかどうでもいいじゃん。どうせ肉入りでやるんだし」
※肉入り(AIではないプレイヤーのこと)
「あ?何言ってんだよ。Sなら神絵師のキャラと旅できんだぞ!それだけでうん十万円クラスだぞ」
「だったら、なおさらんな簡単に当たるわけないだろ。このゲームレジェンドチャージっつう上限あるんだからそれまで引きまくればいいだろ?」
「ぐぞー搾り取られる。この低ランクで大当たりとか言ってくるこのスロスロって奴マジでムカつく」
「はは……おっ!所持上限一杯じゃね。空き枠ないぞ」
「あーじゃあこのFランク捨てるか。見た目酷えし」
「ひっで」
「だって俺でも書けるだろこの絵。どこの絵師だよってな。ってかどうやって捨てるんだこれ」
「いや、それはそこのゴミ箱のマークだろ普通。お前ホントば」
そこで聞くのを止め、キッカを見れば何かに耐えるかのように彼女は拳をぎゅっと握り込んでいた。俺は彼女の前に屈み視線を合わせた。いい機会だと思ったから。
「キッカ」
「ぬ?」
「こういうのは正直にハッキリ伝えた方がいいって俺はMMOで学んだ。だから、お前に伝えておく。……俺はハイヒューマンを目指してる。絶対になりたい。だから、もしお前が俺についてこれなくなったらお前をPTから外す」
ぐっと彼女の瞳が揺れたが、俺も耐えて自分の思いを伝える。過去、俺はそうしなかったことで大きな失敗をしたから。
「繰り返しになるが俺がなりたいのはハイヒューマンだ。それは一人でなれるもんじゃない。仲間がいる。ハイヒューマンってのは巨大なトップクランを率いる長だ。例えお前が横に立てなくてもお前が満足できる場所を俺は必ず作る。だから、改めて俺の相棒になってくれないか?キッカ」
そう言って俺が手を差し出せばキッカの肩の力が抜け、恐る恐る彼女の手が伸びてくる。
「ま、しょうがないのー。主はドンくさいところがあるのじゃからわしがおらんと駄目なんじゃ。じゃから、付き合ってやるのじゃ」
久しぶりに手が繋がれた。彼女は架空の存在でその間には現実という隔絶した壁があるけれど、ほんの少し繋がれた気がする。満足げに俺が立ち上がると高峰が話しかけてきた。
「お前、人前でよくそんなこっ恥ずかしいこと言えるよな」
「ゲームは世界に浸ってなんぼ。人の目気にしてたら楽しめない。それに、こういうのやっとかねえと後々面倒だって知っちゃったんだよなー俺。昔大失敗してさ」
そう笑ってキッカと共に歩みだせば今度は高峰達の話し声が聞こえてきた。
「あールフ」
「なんでしょう?マスター」
「今回よくやったな」
「ですが、私はマスターを死なせてしまいました」
「だからその話しはもういいって言ってんだろ。ほら褒美とか考えとけ」
「は?私は特に」
「俺に悪いと思ってるなら考えとけ。って何だよ」
俺達はじいーっとつぶらな瞳で高峰を見つめる。
「おい桂木とチビ助なんだよその目は文句あんのかお前ら」
「別にー何もないよなーなあーキッカ」
「のうー流星」
「おい、マジでお前ら揶揄える立場じゃねえからな特に桂木」
「褒美考えとけよキッカ」
「お主も悪いと思っておるならな」
「てめえら!性格まで似だしてるじゃねえか!二人纏めてぶっ飛ばす」
逃げろっと叫び二人で逃げ出す。俺達はプレイヤーだからシナリオは変えられない。でも、こういう馬鹿な雰囲気で結末を迎えたい。どんな時でも。
さあ、これで浮遊国家ドガティスは本当に一区切り。俺達は新しい町を目指し、そこでちょっと変わったクラス対抗戦を迎えるのだ。
ver2.0 スチームゴーレムと星読みモグラ FIN
≪update≫
ver3.0 欲望の世界樹と糸付きエルフ探索隊
でもちょっと最後に一言。
キッカには言わなかったが俺はこの物語を作った者ならサポーターの話もきっと描くんじゃないかって予想している。ただ……。仮にもしそうならばそれがハッピーエンドであることを切に願う。俺はこのゲームを最高だと思っている。
でも、一つだけ恐怖があった。キッカ・マークⅡを失うんじゃないか。ライフストリームを捨てたあの喪失感をまた味わうんじゃないかって。
この時の俺は薄っすらと恐怖を感じていたのだ。




