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裏・boss守り人アドラーと茨棘竜グラン・ニュート②

「陣とはなんじゃ?」


「聞いてもいいけど回復には集中しろよ」


 うむっと頷くキッカに若干疑いの目を向けつつ口を開く。


「VRMMOのメインが対人戦で、ボス戦はそのチュートリアルを兼ねてるって話はもうしただろ?」


「しっかり覚えておるのじゃ」


「現代VRMMOの戦闘は見世物だ。模索し続けた結果、開発者が選びとったのはMMOとスポーツとの融合だった」


「スポーツというのはお主が見せてくれたサッカーとかバスケとかそういうもののことかの?」


 とても重要なことだから。俺はキッカに現実の情報誌を渡している。というかそれ関係なく現実関連のものをキッカは欲しがるのだが。まあ、それは余談か。


「そう、そもそもどうしてボスに弱点設定があるのかっていうとだ。要するにゴールなんだ」


「ゴール?」


「見る者を盛り上げるにはわかりやすい目標が必要だ、目を潰したら大ダメージが入った。つまりゴール。プレイヤーがいかにスキルを駆使して叩き込めるかって造りになってる。んで、こうやって全体攻撃を連発してくる敵には防御陣を引いてジワジワ戦線を上げるのがセオリー。言っちまえばラグビーのスクラムだ」


「おおおラグビーわしも好きなのじゃ」


「……ラグビーの選手が数値で殴り合ってるのを見ててもつまらないだろ?」


 勿論、対人戦でも弱点設定がある。さて話過ぎこれ以上は高峰に怒られると俺は立ち上がった。


「職玉は使えねえけど前線に入れるくれえには回復した。いってくるよ」


「サポートは任せろなのじゃ」


 ドンっと胸を叩くキッカに──


「キッカ。今回の俺はサポート役だ。決めるのは高峰かお前だ」


 俺はそう笑みを浮かべ主役はお前だと言い切ったのだ。


 ◇◇◇


 戦線に入ってもう10分経過した。拮抗ともいえるが互いの長所を潰し、双方に決め手がないというのが実情である。棘を飛ばすマナーバストもあれだがこの一体と一匹のコンビネーションが神がかっていた。


「マナよ分裂し立ちはだかる敵を撃滅せよ 賢術三式『マルティプル・フォース』」


 俺達の知らないジョブスキルをアドラーが使う。賢魔なので賢者のものだろうか。あの技は次に唱える呪文を同時6つに分身させるようだ。


「精霊よ。わが手に宿り その業火をもって滅却せよ 爆熱中級ガナ・フレイム」


 そしてアドラーに選ばれたのは炎の呪文。彼の頭上に6つの大火球が浮かび上がる。レベルが低いため直撃すれば蒸発して即死する。


 そして警戒しなければならないのはあの魔法使いだけではない。目の前に迫った茨の蔦を俺は滑り込むようにして掻い潜った。


「っち」


 そしてそこに──ドンドンドンっと当然の如く打ち込まれる炎弾の連打。


「騎術八式 騎士の庇護『ナイトハウンズ』」


 高峰に庇われ間一髪を救われた。高峰は前衛の動きができず苛立っているようだ。


「桂木ジリ貧だぞこりゃ」


「言っただろ、あともう少し内側に入るまで耐え……れば……」


 ゾクンとした。何か来ると分かる。恐らくは敵側の必殺。


「土竜術十式」


「やばい高峰」


「っチ向こうも使えんのかよ」


 アドラーからの威圧に身が震える。トンっと杖が地を穿つと地面に亀裂が走り、そこから光が起こった。


「『地閃マグナ』」


「飛べっ!!」


 それは厄災グレゴアも使った黒結晶に近い技だった。大地から無数の棘が飛び出し、ジャンプすることで回避できる。空中で棘が消えてゆく様を見て思った。


 いくら何でも簡単すぎないかと。


(おかしい)


 そしてやっと俺は茨竜の形が変わっていることに気づく。手遅れだった。大口を開け何かを放射する態勢。狙いは──


「ルフさんっ!」


「うぬらが企んでいるのは火を見るよりも明らか。防壁を突破しようと画策するなら肝となりえるのはそこのエルフ」


 やはりこのゲームは普通じゃない。AIに思考を読まれ、言い当てられた。


「奴らの希望を穿て我が同胞グラム・ニュート」


【滅殺のイグニスブレッド】


 棘の付いたラグビーボールのような巨弾がルフへ目掛けて放たれた。回避不能。腹を食い契られた。でもそれはルフさんじゃなかった。そいつは騎士のスキルでルフさんを庇った──高峰。


「騎術五式『転地極走』っぐっ」


「マスター!?」


「高峰っ」


 どてっはらに風穴を空いた高峰のライフがゼロとなり、光に包まれ彼の姿が薄れてゆく。


「あー死んじまったか。まーしゃあねえな」


「マスター何故っ!どうして私を」


「ん?お前が肝だって言ってんだろ?必要なんだよ勝つためにな」


「しかし」


「グダグダ言うな。俺の横に立ちたいつうなら決めてこい。いいなルフ。まーあれだ。後は任せたぜ俺の相棒」


 バシュっと消滅し、光の粒子になって高峰が消えた。一乙。流石の大技で向こうにもクールタイムが生じているらしい。それでも俺は油断なくアドラーを見張り、ルフさんに聞いた。


「今、俺達が速攻で死に戻ったら高峰がちょっと恥ずかしい感じになるけど、どうする?ルフさん」


 ルフさんは目元を拭ってキっとアドラーを睨みつけた。


「キッカのマスター、あれを倒す指示を私にください。マスターの仇は私が必ず取るっ」


 ん?


「あの……ルフさん?高峰マジで死んでないからな?ゲームだからな?これ」


 口を引き攣らせて俺は言うが。駄目だこれもう聞こえちゃいない。グルルルっと唸った狼のようだ。自分のサポなら諫めるところだが人のだしまあいいかと俺は肩を竦めた。


「まっあれをぶっ倒すってのは同意だ。お前らにサポに言っておくとPTの一枚が落ちた場合ローテーションを回すのが困難になる。時間を掛かるほど不利になるって寸法だ。つまり、作戦は自ずと特攻に決まる」


「のうお主の作戦、結局いつも特攻しとらんか?」


「次からフルパ組むしこれが最後だって。作戦はお前らに送った。サポーターであるお前らが表舞台に特攻する。ラグビーでいう所のブリッツみてえなもんだな」


 そして俺は取り出した職玉を握りつぶし──


「お前らは絶対に職玉を使うな。俺がお前らを上げてやる。このジョブでな」


 ドガティスで得たジョブ─アルカナ使い占星術師となったのだ。


 占星術師。それはアルカナカードを用いてバフとデバフを使い分けるジョブ。現実でも存在するカードに能力が設定され、正位置ならいい効果、逆位置なら悪い効果を指定したスポット(空間)に設置する。


 言うは簡単だがこれは相当扱いが難しい。直接人に掛けるわけじゃないため下手をうてば死に技となる。位置取りの見極めが重要だ。そして勿論、占星術師特有のスキルも存在した。


「占術一式『タクティカルドロー』」


 唱え、横に腕を振るだけで三枚のタロットが俺の手に入る。軽く開き三枚のカードをチェックする。皇帝、愚者、戦車のタロット。その中の状況に相応しい皇帝のアルカナを指で挟み、場所指定を行う。


「占術二式『コード・アルカナ』皇帝の正位置」


 青白いサークルが生まれ、その光り輝く輪の中にガーディナーであるキッカが滑り込んだ。


「堅術二式『ガウル・カウル』。堅術三式『ジオファラン』」


 ヘイトを買い防御を高めたキッカが相手の攻撃を受けきる。本来であれば代償デバフがあるがアルカナの力によって打ち消す。よしと俺はキッカから視線を切ってアドラーを見据えた。


「占術三式『タロットリング』」


 タロットリングは6枚を消費することで空中に輪を作り、潜り抜けた飛び道具に効果を与えるスキル。そこに乗せるアルカナはこれっと俺はタロットをくるりと回転させた。


「占術二式『コード・アルカナ』戦車の正位置 指定 タロットリング」


 戦車の正位置は速度を加速させる。その中心を穿ったルフさんの矢がアルカナを効果を得て凄まじい勢いでアドラーに迫る。蔦による障壁も間に合わない。が、アドラーからやや逸れている。俺はスキルを行使した。


「占術四式『ロングタロット』 コードアルカナ 運命の正位置」


 俺はロングタロットによって離れた位置から場所指定を行い、運命の正位置の力で矢の軌道を変化させ地面に突き刺した。それを見たアドラーが嘲笑う。


「はっどうやらしくじったようだな稀人」


(いや、内側にそいつを刺すのが目的だアドラー)


 相手がAIとはいえ一応ポーカーフェイスで悔しがるフリはするけども。完全に狙い通りである。


「稀人よ貴様らが何度蘇ろうと立ちはだかってみせよう。そなた等の心が折れるまでな。グラン・ニュート留めだ!奴らをハチの巣にしろ」


【植檄のマナバースト】


 茨棘竜グランの体が輝き、大量の赤レーザーが俺達に照射される。その中で俺は二枚のタロットをドローし、最後のスキルを使用した。


「星術七式 ウロボロスサークル セットアルカナ 正位置の節制と太陽」 


 ウロボロスサークルは二つの効果を陣に乗せる技。このスポットをあれに耐える拠点とする。二人が入ったのを見て俺は一歩前にでた。


「流星?」


「そいつは二人しか入れねえ。更にその上で堅術スキルを使っても防ぎきれるか怪しい以上、俺の体を盾として使う」


「なっ」


「何驚いてんだよ。言ったろ?お前らが主役だって」


 そして俺はコンっと拳でドーム型となったウロボロスサークルを小突き、笑いかけてやった。


「キッカ、もっと肩の力を抜けって。こいつはゲーム。全力で楽しめ。そうすりゃお前の足は普段より一歩早く前に出る」


「お主のようにじゃな」


 目に決意を漲らせたキッカにそういうことじゃねえんだがまあいいかと前を向く。


「ただこんだけイキって負けたら高峰級にカッコ悪いからできれば勝ってくれると嬉しいな俺は」


「任されたのじゃ」


「おう、任せた」


 俺が手を広げれば棘が突き刺さった。意識が薄れ最後に見たのはアドラーの邪悪な笑み。


(おいおい、減って楽になったとか考えてんじゃねえぜ爺さん。布石は打った。プレイヤーはただじゃ死なねえ……)


 ブツンっと意識が途切れ。俺の体が消滅した。こうして俺は裏ボスとの闘いから脱落したのだ。二人のサポーターを残して。

 ──────────────────────────────────

 流星ノート〇 ブリッツ 

 ドイツ語 守備位置のプレイヤーがパサーにタックルを仕掛けること。若干例えとして正しいかは怪しいが流星は馬鹿なのでセーフ。他にも同じことを考えた者が多くいたようで、まだ先の話になるがサポーターがアタックすることをブリッツと呼ぶようになり後に定着する。

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