裏・boss守り人アドラーと茨棘竜グラン・ニュート①
アドラーは胸元からまた黒のアルカナハートを取り出し俺達に見せつけた。
「新王の言う通りこのアルカナハートの黒は私の不安で染まったもの。しかし、残しておいたのは使い道を思いついたからにすぎぬ。神に対抗しうる力、それすなわち神の力」
アドラーが握りつぶし、厄災グレゴア戦の時のように黒い波動が俺達を抜けた。
【稀人に抗う力 黒滅の波動】
「ぐっ」
≪職玉使用リキャストタイム増加≫ ≪スキル使用リキャストタイム増加≫ ≪全耐性ダウン≫ ≪移動速度低下≫ ≪魔法詠唱延長≫ ≪思考能力ダウン≫
グレゴアとは名称も違い効果も違うようだ。大量のデバフダウンがシステムログによって告げられる。そして相手は待ってはくれない。アドラーは無言で手に持った杖を輝かせた。
「悪霊よ邪なる力をもって世界を変幻させよ魔地術三式 フィールド地幻魔法 ダークモール」
アドラーの魔法によって闇に覆われ、一寸先すら見通せなくなった。まるで八蛇炭鉱にいるかのよう。
「全員炭鉱ランプを取りっ」
即座に判断した指示の最中、急速に俺へ迫る気配を察知。剣を横凪に振えば鉄同士のぶつかり合う音と共にオレンジの火花が散った。持ったランプによって茨竜の頭が一瞬だけ見えた。
「四方囲むように設置っ!急げ大技がくる!」
「ほう流石は稀人か。だが躱せるか?これを。グラムっ」
「頃頃頃頃 凝ロ凝ロ凝ロ凝ロ」
漢字で表現されるという奇怪な魔物の叫びの中でルフさんの声が響く。
「弓術七式『ライトニングアロー』」
初めて見る技だったが彼の狙いはわかりやすい。光の矢のお陰で相手の姿が浮かび上がった。が──
【植檄のマナーバースト】
「!?」
四方八方から伸びた夥しい数の赤い攻撃予測線に度肝を抜かれた。
(職玉っいや間に合わない)
膨らんだ触手に無理と判断。俺がキッカを庇い立って剣を構えれば、ド破ァンっとあらゆる方向から棘が打ち出され俺達へ殺到する。
「剣術五式『剣舞クリカラ』」
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剣術五式『剣舞クリカラ』
身体能力向上のバフを掛け一本の足を軸として高速で動く、軸から足を離せば技は解けるため術者がその場で踊るように見え剣舞という名がつけられた。
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一時的に体が軽くなるがそれでも全てを躱すのは不可能。致命傷となるラインを見極め俺は剣を振るって削り取ってゆく。
「ぐっ」
首、腹に喰らい、軸足ではない方の足には何本もの棘が刺さった。俺は予め首に掛けておいた麻痺止め薬を振りかけた。ヴァラパラでは状態異常回復もリジェネタイプ。段階的に痺れが抜けてゆき、等級によってその速度が変わる。
また相手の技性能によっても深刻化に至るスピードが変化。同級同士なら拮抗状態となり、効果時間が終わるまでそのままの状態が続く。
徐々に薄れてゆく痺れに俺は低級でも回復できたとホッとする。
(そこまで強い毒じゃない。そりゃそうだよな)
こんな回避不能技で行動不能にされたらまごうことなき糞ゲーである。裏といえどあくまでストーリー。ただ、強敵コンテンツでは麻痺を防ぐ装備を整えなければ確実に行動不能になるだろう。
そう俺は思ったが、どうやら裏はそれなりの強者コンテンツのようだ。
「ほう二人も残ったか」
ドサッと倒れたキッカと高峰にそれを思い知らされた。
(なんで?)
二人の口元から麻痺解毒薬が零れ、痙攣する手から小瓶が転がっている。すぐに自分との違いに理解した。刺された数で痺れが増すタイプだと。
「さあ稀人よ。その者達を抱えてもう一度捌ききれるか」
まさかの連発。再び俺達の元に攻撃予測線という名の赤いレーザーが放射された。
(まずいっ)
俺は中級を取り出して倒れ込む二人の元へ転がした。使ってやる間もなかった。
「ルフっ」
一切説明はしなかったがルフさんが俺に応えてくれた。やはりこのゲームのAIはとんでもない。ふらつきながらもルフさんが射っ!! と矢を発射した。高峰を傷つけられたからか普段温厚な彼の青眼が怒りに満ちている。
アドラー達から外れズドっと壁に突き刺さったのを見て彼は笑った。
「ふっどこを狙っている。エルフの稀人とはいえ痺れで手元が狂ったか?」
(馬鹿だな)
完璧だというのにと俺は居合の構えをとってスキルを唱えた。
「剣術十式っ」
やはりスキルの節目は特別。ぞくんっと鼓動し、俺から生じた圧がアドラーとグラム・ニュートを怯ませる。
そうだ。回避不能な大技を放たれるというのなら──その前にぶっ潰してしまえばいい。自分の持ちうる最大火力を以ってして。
「弓術五式『極射転空』」
ルフさんのスキルによって俺が後方──壁に転移し、目を見開くアドラー目掛けてスキルを発動させる。
「『空閃──
壁を蹴ると同時に横凪に振るえば斬撃が飛び、俺は光となってその中に潜む。巨大斬撃波は茨竜の触手を切り飛ばしたがグラム決死の守りによってアドラースレスレを通過した。でもこの技は連撃。
斬撃から変幻し、着地を決めた俺はスキル最後の輝きを放つため咆哮した。
──マギアっ!!!」
凝縮した剣気を裏拳で突き刺し放つ、剣術スキルの極意。一点集中となった波動がアドラーの顔面を狙うがその寸前で茨竜によって逸らされてしまった。
けれど、アドラーの杖が砕け、それによって彼がフィールドに掛けていた魔法が解けて明かりが戻った。
「ぬうう」
アドラーが忌々しげに俺を睨んで呻く。流石はボス。一撃で決まるかと思ったがかなり固いボスのようだ。
(厄介だな)
≪【茨の盾】茨で覆うことで主人を守る 無数にある茨だが限界はある≫
本来なら茨棘竜グラン・ニュートから狙うのがセオリーなのだろう。が、人数が少ない俺達はローテイション的に時間を掛けるだけ不利となる。フルパでないPTは短期決戦で弱点を抜くのが基本戦術となるはずだ。
よって俺達が狙うのはアドラー。大体、こういうのは守っているものがWeekpointであると相場が決まっている。まあ、違ったらドンマイだ。
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剣術十式スキル使用により術者に代償デバフが掛かります
職玉使用不可3分 スキルリキャスト10分 全ステータスダウン 被ダメージUP
硬直状態10秒
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スキルテンの使用によって重い代償を俺は背負う。固まった俺を見てアドラーが不適に笑った。
「実に驚かされた。だが、終わりだ。稀人っ潰せグラン」
グラン・ニュートが鞭のように茨の触手を振るってきた。俺にはどうすることもできないと見つめる。けれど俺には──
「騎術五式『転地極走』」
仲間がいる。高峰のスキルによって視界が切り替わり俺はキッカの横に倒れ込んだ。
「助かったっデバフが抜けるまで寝てていいぜ。ルフ」
「はい!マスター」
二人が相手取ってくれてホッと息をつく。治療師となったキッカが俺と高峰そしてルフに回復を飛ばしながら言った。
「中級の麻痺解毒薬なんてよく持っておったの流星」
「ピンクさんに貰ったんだよ。マジで助かったわ」
彼らに渡したのはピンクさんこと夜桜咲夜からお詫びとして送られてきたアイテムだ。まさかこんなに早く役に立つとは思わなかったが流石あれだけ準廃っぽい態度だけある。
「まだあるのかの?」
「いや、あと一本だけ。まあ次あれ喰らったら終わりだな」
「それでどうするんじゃ」
「お主の事じゃ思いついたんじゃろ?」
そうニヤっとするキッカに段々可愛げが消えてきたなーっと思いつつ俺も笑みを深めた。
「とりあえず、このまま耐えて貰ってボス手前に陣を引く。あの茨の盾をぶち抜くぞキッカ」
作戦は決まった。後は実行し、突破するのみだと俺はじっとデバフを消すために休み観察するのだった。




