普通元カノと同じ奴あげる?!
「で?その神社で超美形とデートの約束をした、と?」
ヒナは、登校中に出会ったほのかに、一連の事を詳しく報告した。
「違うよー。デートじゃないよー」
ほのかは、昨日の凹んだ姿とは裏腹に、えへへーと上機嫌なヒナを見て少し安心する。とんだ怪しい人と出会い、何故かザックでお茶する約束を取り付けた事だけが、ほのかの不安要素だ。
「じゃあそれ、私も一緒に行っていい?」
試しにそう言うと、ヒナの目がキラリとひかった
「もちろんだよ!イケメンと可愛い双子っぽい男の子でねー。ホント、切実に会ってほしい」
あぁ、そうそう、と嬉々として続ける。
「これもらったの」
ヒナは左手を目線の高さにあげた。組紐がキラリと光る。
「へぇー、すっごい綺麗じゃん。なんていうの?ミサンガ?」
「なにそれ?」
「よく知らないけど、従姉のお姉ちゃんが昔作ってたんだよねー。願いが叶うとかって言ってたなぁ」
「じゃあそれかな?お守りって言ってたし」
ほのかは、よかったじゃん、と言いつつ肩にかけた鞄を持ち直す。落ち着きなく、鞄を持つ手を握ったり開いたりし、遠慮がちに口を開いた。
「ケータのこと、吹っ切れそう……?」
「……どうかなー?わかんないけど……。でも未練っぽいのはなくなりつつあるって感じ?」
「そっかー。よかったー」
はぁーと盛大に息を吐くほのかに、ヒナは戸惑った。
「え、なになに?なんで?」
「いや、うん。安心したってことよ。あーよかった」
よかった、よかった、と独り言を続け、足取り軽く校門をくぐる。
「親友として心配してたてきなやつ?ねぇ、ほのか、ちょっと。一人で納得しないでよー」
ヒナは慌ててその後を追った。
───────
ほのかと話しながら教室へ向かうと、すでにケータが入り口で待っていた。
二人は顔を見合わせ立ち止まると、ケータがこちらに気づき、近寄ってくる。
「まだ終わってないのに、ブロックはなくない?」
ほのかが怒ったように言う。
「こっちにも色々あんだよ。部外者は引っ込んでろ」
ケータも苛立ちを隠せないようだった。そんな二人をみて、ヒナは慌てて間に入る。
「まぁまぁまぁ、二人とも。ケータ、これ。返すね」
小さな紙袋ごとケータに差し出すと、彼は乱雑に奪い取った。
「用はこれだけだから。もう話しかけんなよ」
そう言うとケータは足早に自分の教室へと帰っていった。
「アイツ……。あんな感じだったっけ?」
呆気に取られてほのかが呟く。隣でヒナは首を横に振った。
「もう少し、思いやりとかあった気がする……」
「おっはよ~お二人さん!」
二人で首を傾げ戸惑っていると、グイっと肩を組まれた。ベリーショートで背が高い少女。
「チカ!昨日はごめんね、変なこと頼んでさー」
「いいよいいよー。大したことじゃないしー。あ。でもケータとはもう話したくないから、伝言とか勘弁してね!」
「チカに話したくないって言われるとか、アイツなにしたの?」
「てかね、ケータって言うより……」
ほのかの問いに、気まずそうに目をそらし、ヒナを一瞥する。腕を組み、考え込むようにうーん、と唸ると、まぁいっか!と考え直した。
「男バスのマネージャーがね、1年の、その子が彼女気取りなわけよ。先輩に話しかけないで、とか言っちゃってさー!彼女の前でこんな話どうかなーって思ったんだけど。知らないよりいいかなーって思って。ホントごめん」
チカは一息でそう言うと、深々と謝った。
「言ってなかったっけ?アタシら別れたんだよー」
あっけらかんとヒナは答える。
「えー!聞いてない!いつのまに?!」
「二日くらい前だったかな。でも、もういいよ。うん。もういい」
まるで自分に言い聞かせるようなその姿に、チカとほのかは困惑した。
「えー、だって、あんなにラブラブだったじゃん。バスケのルールとか頑張って覚えてたのに。ヒナはそのうちマネージャーになるんだとばっかり……」
「いいのいいの!ほら!教室もどろ!!もう気にしなーい、気にしない!」
底抜けの明るさで、チカの困惑は遠くに押しやられた。
─────
「先輩、ヒナさんと喋ったでしょ。私、もう喋らないでって言ったよね?」
昼休み。特別教室棟のカーテンを締め切った空き教室に、甘ったるい声音が響いた。口調は怒っているのだが、それを差し引いても甘く、優しい音。
「ごめんな、でももうないから。これが最後。朱里の言う通りにブロックもしたし。ほら、これ。プレゼント」
ケータは取り付く様に小さな紙袋を恭しく差し出す。ピンクを基調とし、店名が中央にデザインされている。朱里はそれを受け取ると、中身を確認した。ネックレスをまじまじと見ると、ケータに投げつける。
「これ、ヒナさんが持ってたやつじゃん!普通元カノと同じ奴あげる?!しかもこれ、千円くらいの一番安い奴じゃん!私、そんな安い女なわけ?」
アーモンド形のクリっとした大きい目を吊り上げ、形のいい唇がゆがむ。肩までの緩やかなウェーブがかった髪が揺れた。
「ちがっ……!そんなわけないだろ!それは、ヒナから返してもらったやつで、完ぺきに別れたって証明?みたいな……。朱里にそんな安いやつ、あげるわけないじゃん」
ケータは慌てて弁解するが、朱里は依然、怒った顔のままだ。
「信じられない」
そういうと、教室を出ていった。
「おい、朱里!」
「ついてこないで!」
朱里が乱暴に扉を閉めると、暗闇に残された。ダンッと手短なところにあった机を力強く叩く。
「……ヒナのせいだ。あいつのせいで、朱里に嫌われたんだ……。許せねぇ」