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相手が人間だったら、どうとでもなるんだけどねぇ


ハートのネックレスは、透明な袋に入れ、さらに貰った時に入ってた紙袋に入れた。

購入した時に貰ったのであろう、ピンクを基調にデザインされ、店のロゴが中央に配置されていた。おそらくティーン向けのお店。そんなに高級な物じゃない。2000円前後だろうと推測した。

 だが、ヒナにとっては値段などどうでも良かった。部活ばかりで、バイトなんてする暇もないケータが、お小遣いをやりくりして、自分の事を考えて選んでくれたであろうそれに、嬉しい気持ちでいっぱいだった。


「て思うとさ、みみっちくない?!」


教室に入るなり、ヒナはほのかに嘆いた。


「みみっちいとか久々に聞いたわ」


「もー!そこじゃなーいー!」


不満気に顔を歪めるヒナを笑顔で眺めるほのか。ごめんごめん、と適当な謝罪の言葉をかける。


「ヒナがあげたスポーツタオルも返せよねー」


返されても困るわ!と笑いながらほのかの前の席に座る。


「で、返してきたの?」


「それがさー、まだ来てないみたいなんだよね。もうすぐホームルームなのに。……まぁ、次の休み時間に行くわ」


ペンケースを取り出そうとカバンを開くと、中に紙袋が見える。


「初めてのプレゼントだからって、ショッパーまで残しとくとか、アタシって馬鹿だよね……」


と、カバンから取り出してみせる。


「ヒナのそういうかわいーとこ、私は好きだよ。てか懐かしいショッパーだね」


見せてーとほのかが手に取り、中身も確認する。


「懐かしいってなによー」


「ここさ、小中学生がメインターゲットのお店なのよ。私もよく行ってたなぁ……。金額も安くてさ、1000円くらいで可愛いのがたくさん置いてあるわけ。あら可愛い」


ネックレスを袋越しに撫でた。ほのかの目がスッと細くなる。


「ヒナ、アンタ別れて正解!もうさっさと返して次行こ!次!」


ネックレスを紙袋に戻し、ヒナに渡す。


「言われなくてもそうするわ!」


とヒナは笑顔で受け取った。


ただ、ヒナにとって問題だったのは、その日、ケータが放課後になっても捕まらなかった事だった。

授業には出てるらしいが、休み時間になるとフラッと消えるようで、ケータの友人に伝言を頼んでも、メッセージを入れても無駄だった。


「これは避けられてるわ」


「言わずもがなでしょ」


はぁ、とほのかがため息をつく。


「てかさ、まだネックレス返してないのにブロックするか?!」


「え?ブロックされてんの?!」


「……もういい。もう帰る。とりま、チカに伝言頼んどく。今日は男バスも女バスも練習一緒の日だし。」


チカとはヒナと同じクラスで女子バスケット部のベリーショートの髪型が似合う少女だ。捌けた性格でこういう面倒な頼み事もサクッと手伝ってくれる。

スマホを取り出し、画面をタプタプと触る。

その姿が、あからさまにガッカリしているのを見て、ほのかは腹の底が冷えるような怒りが湧いた。


「……ザック寄ってく?」


ほのかがそう聞くと、ヒナは首を小さく横に振った。


「うん、わかった。じゃあまた明日ね」


ほのかは、ヒナがへにょ…と片手を上げるのを見るとその場から立ち去った。




──────


パンパンッと力強く手を叩く音が森に木霊した。木々に止まっていた小鳥が数羽飛び立つ。


「ケータとの縁がちゃんと切れますように!!!よすがさま!ひとつ!よろしくお願いします!!!」


目をカッと見開いて、今から仇討ちかというかのような気迫でヒナは叫んだ。

その時、目を瞑るほどの強い風がふいた。


「うわっ」


風に煽られ、体がふらつくのを抱きとめられた。


「縁切りは専門外だけど、キミのためだ。がんばるよ」


顔を上げると、着流しに身を包んだ見知らぬ男がいた。金とも銀とも言い難い髪が、風になびく。前髪の隙間からのぞく涼しげな目元が、優しくヒナを見つめている。

そのあまりにも美しい、人間離れした美貌にヒナは魅入ってしまった。


「わー!ごめんなさい!」


ふと我に返り、慌てて体を離した。


「もう少しそのままでも良かったのに」


美しい人は、少し残念そうに言った。


「いかん(よすが)様!セクハラじゃ!!」


「ちょっと、ひく……」


「えっ……じゃあ、この人がよすがさま?」


「ねぇちゃんはいろいろと信用しすぎじゃ……」


はぁ、とシュウとハジメは小さくため息をついた。


「よすがさま、ごめんなさい。せっかく繋いでくれた縁だったけど、ダメにしちゃった」


「あぁ、いや、それは、僕が謝らねばいけないことだよ。僕が繋がなければ、嫌な思いしなくてすんだのに」


(美人がしおらし気にしとると、それだけで許しそうになる。なんちゅう狡い(ひと)じゃ……)


仮にもハジメにとっては主、言わぬが花、沈黙は金である。


「ハジメは、かおにでるね……」


シュウのいう通り、残念なことに、表情が全て物語っていた。

ハジメは両手で顔を覆った。


「そういう事は、もちっと小さい声でいうてくれ!」


と小声でシュウに抗議する。幸いにも、縁はヒナとのおしゃべりに夢中らしく、二人のやり取りは聞こえていない。ホッと胸を撫でおろす。


「立ち話もなんじゃし、お茶でも淹れてくるかの」


やれやれ、とハジメが社に入っていくのをシュウは慌てて追いかけた。


──────


「そうか、そんな事が……」


「ネックレスも、返そうと持ってきたのに避けられちゃって……」


ヒナが元気なくそう言うと、縁はにっこりと笑った。


「わかった。早く縁が切れるようにがんばるね」


ヒナは、その言葉にブンブンと首を横に振った。


「やっぱそれじゃダメだと思う。よすがさまが手伝ってくれたとはいえ、自分で付き合うって決めたわけだし。ちゃんと自分で頑張ってみる」


グッと拳を握り、そう宣言するヒナを、うっとりとした表情で縁は見つめていた。


「ふたりとも、おちゃ、いかがですか?」


4つの湯飲みをお盆に乗せ、シュウが出てきた。


「あぁ、わざわざすまないね」


そのお盆から湯飲みを2つ取ると、一つをヒナに渡す。


「頂きもんじゃけど、まんじゅうもあるぞ!」


ハジメは、出雲まんじゅうと書いてある、いかにもご当地お土産の箱を掲げていた。開けてもええかの?と縁にお伺いを立てる。


「弁財天からの土産だろう?みんなで食べよう」


社の縁側に腰かけると、ヒナを自分の隣に誘導した。ハジメとシュウはバリバリと包装を破いている。


「しかし、なんで返せ言うたのに、ねぇちゃんに会おうとしないんじゃろうな?」


ほい、と蓋を開けると箱ごと差し出す。そこから縁とヒナは一つずつ受け取る。


「それがわかったら苦労しないよ。義理?は果たすタイプっていうか?苦手な子でも普通にしゃべる感じだから、余計にわかんない。お手上げ」


と、その時、ピコン、とメッセージの受信を知らせる音がした。

画面を確認すると、下校前にケータへの伝言を頼んでいた女バスの子だった。


チカ『明日、ヒナの教室まで取りに行くって!』


「あーよかった!ネックレス、取りに来てくれるって!」


ほら!と画面を3人に見せた。


「よかったね」


「第三者を交えると冷静になるんかの?」


「これで一安心!ほのかにも連絡入れとこ。心配してたもんなぁ」


上機嫌でタプタプとスマホ画面を操作するヒナ。縁だけ、表情が曇っている。少し考え込むような顔をすると、おもむろに立ち上がった。


「ちょっと待ってて」


そういうと社へ入っていき5分。手に御守りと、何かを持って出てきた。


「これ、御守り。そうだな、鞄につけといてね。それからこれ。好きな方を腕につけといて」


そう言って差し出したのは、白地にピンクの花柄のシュシュと、薄い紫と濃い紫、金糸が合わさった組紐だった。


「迷うことなくこっちのヒモかなー。シュシュはダサいかも」


「弁財天に流行ってるって聞いたんだけど……。そっか……。ダサい……」


「はやりすたりも、はやいって、いってた」


「しかも弁財天様が言うてたの、ずいぶん昔じゃぞ」


ダサい、と言われショックを受けている縁をよそに、ヒナは鼻歌交じりで組紐を左腕に括る。陽の光を受け金糸が光った。


「わぁ~これ可愛い!キラキラしてる!」


「御守りだよ。この二つが君を守るから。できれば肌身離さず持っていてね」


「わかった。ありがとう、よすがさま」


そう言って御守りの方を鞄につける。


「よすがさまのお守りなら安心度高まる~!」


「そりゃ良かったのう」


「三人にはお礼しなきゃ。今度ザックでおごるね。お茶しよ!」


お茶、という言葉に縁の目がキラリと光ったのを、ハジメとシュウは見逃さなかった。


「ぼくらはなにもしてないから、よすがさまとふたりで、どうぞ」


気を利かせてシュウが言う。ハジメには、縁の背後に花が舞っているいように見えた。


「おぉ、そうじゃな。おれらは何もしとらんしな」


ハジメもシュウに同調すると、ヒナは少し不機嫌顔であった。


「何もしてない事ないんだけどなー。話聞いてくれたしさ。アタシ、結構ラクになったんだよ?」


「そうだね、ヒナがそういうなら、三人で御呼ばれしようか。もう暗くなってくるし、また後日、ね」


ヒナに三人で、と言われ、一瞬顔が陰ったように見えたが、そこは年の功。何食わぬ顔でヒナの誘いを受ける。


「じゃあ明日の放課後とかどうかな?アタシがここに迎えに来るね」


「いや、いいよ。現地集合にしよう。ここまで来てたら遅くなるだろう?」


縁の提案にハジメは驚きを隠せなかった。


(弁財天様が教えてくれた恋愛の極意、忘れたんか?!縁様もウンウン言うてメモってたじゃろうが!)


「まぁ、そうだけど……。場所わかる?」


「問題ないよ」


そうニッコリ笑う縁を、ハジメは信じられないものでも見るように見つめている。


「五時くらいにはザックに行けると思うから、それくらいに集合でいい?」


「もちろん」


ハジメは、なおも優しい笑みを浮かべる縁の着物の袖をクイクイと引っ張る。それを優しく払う縁。


「ほら、暗くなる前にお帰り。いや、家まで送っていこう」


「わざわざ良いよ、大丈夫。お茶とおかし、ごちそう様でした」


ヒナは湯飲みをお盆に置くと立ち上がった。


「じゃ、また明日!楽しみにしてるね!!」


そう言うと去って行った。姿が見えなくなると、ハジメは縁の袖を強く引っ張った。


「ここまで来てもらわんでも、ねぇちゃんの学校前で待つとか!あったやろう!縁様!!弁財天様の恋愛指南忘れたんか!!現地集合がいいのは嫌いな上司と行く社員旅行くらいじゃって!!」


「そうなんだけどねぇ……。ちょっと確認したいことがあってさ」


縁はハジメの勢いに押され、困ったように笑う。


「どうぶつの、におい……?」


「流石。よくわかったねぇ」


感心している縁とは裏腹に、ハジメは首をかしげていた。


「微かだけどね、獣臭がしたんだ。狐あたりかなぁ」


「なるほどの。つまり早めに行って釘さしておきたいわけじゃ」


「やだなぁ、人聞きが悪い。調査だよ、調査」


心外だなぁ、と縁は首を竦める。


「相手が人間だったら、どうとでもなるんだけどねぇ」


誰に言うでもなく縁が呟いた。


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