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ここのかみさま。せんもんは、えんむすびだよ

「は~満足満足」


 ヒナはザックで満足いくまでほのかと喋り倒した。おかげで少し気分がいい。ご機嫌と言っても過言ではないだろう。しかも、二人の話を聞いたザックの主人が、ケーキをおまけしてくれたのだ。


ブーッブブッ。


 マナーモードにしていたスマホから、バイブ音がなった。画面を確認するとメッセージが表れている。


ケータ『前にやったネックレス、明日返せよ』


 1ヶ月記念日だから、とケータが自らくれたハートのネックレス。その時までは、ケータもまめに連絡を寄越してきたし、デートの計画も積極的だった。

 涙が滲む。顔を上にあげ、目に力をいれて零れるのを我慢する。自宅まであと10分。そこまで我慢できそうにないのを冷静な頭で考える。家へと続く道と違う道へ折れた。

 あそこなら、ここから5分と掛からない。必死で走った。声を出して泣きたかった。

 閑静な住宅街の中に、鬱蒼とした森が現れる。その森の一角に鳥居があることから、神社だということがわかる。下は石畳の隙間から草が伸び放題だ。参道も木々が覆うように生えて狭く感じ、人の手が入っていないことを暗に示している。

 ヒナはその参道を迷いなく走り抜ける。100メートルほど進むと、急に開けた場所に出た。左右には、苔は生えているが立派な狛犬が鎮座し、正面には小さいお社が建っている。周りと違い綺麗に維持されているようだ。

 ヒナは、そのお社の扉へつながる階段にドカッと座った。握りしめていたスマホのロックを外し、ケータとのトーク画面を開く。

 『明日返す』と短く返信すると、無造作に鞄に突っ込んだ。ボロボロと涙が零れる。堰を切ったように声を上げて泣いた。


 陽が沈みかけた頃、ひとしきり泣いて涙が止まり始めた。

 目の前に小さな少年が二人いることに気づく。紺色の着物を丈短く着ているくりくり坊主と、深緑色の着物を着た5歳くらいの男の子。大きな目をぱちくりと瞬きふたつ。


「ねぇちゃん、どうしたん?」


紺色の着物を着た、元気よさそうな子が話しかけてきた。


「ちょっと、悲しいことが、あったの」


ズズッと鼻をすすると、深緑色の着物を着た大人しそうな少年がポケットティッシュを差し出してきた。

ヒナは、ありがとう、とそれを受け取ると、思いっきり鼻をかむ。


「だいじょうぶ?」


深緑の着物の少年の眉毛が下がっている。見ず知らずの人間にここまで優しいとは、と感激し、涙も悲しみも引っ込んだ。


「ふたりともありがとう。もう大丈夫だし、暗くなってきたから帰るね。途中まで送るよ、おうちはどこ?」


少年たちは顔を見合わせ、不思議そうな顔でヒナを見た。


「おれたちの家はここじゃよ」


ヒナは驚いた。幼いころから、嫌なことがあると決まってここに来ていた。だからこの神社の境内の事はよく知っている。


「ここ、社務所?とかないっていうか、お社しかないじゃん。今どき築50年以上風呂トイレなしの1kアパートに親子で住めなくない?」


冗談はやめなーと明るく笑うと、困ったような顔をした。


「どうする、シュウ?」


紺色の少年が聞く。


「どうしよう、ハジメ」


深緑の少年が不安げになる。


「ホントのこと言うても、ねぇちゃん信じらん気がする」


「ぼくもそうおもう……」


二人がはぁーと同時にため息をついた。


「まぁええや。ねぇちゃんはよ帰りなよ。縁様の加護があるけ大丈夫だろうけど」


「よすが、さま……?」


「なにも知らんで来とったのか……」


ハジメが呆れ顔でシュウを見た。シュウは困った顔でヒナに向き直る。


「ここのかみさま。せんもんは、えんむすびだよ」


「神さまにも専門とかあんの?!てか、えっ?!アタシに彼氏できたのって、そういうこと?!」


 クラスの女子が、彼氏ができたとそれはそれは惚気まくって、それに巻き込まれたのが数か月前。その日、同じようにこの神社にきて「彼氏がほしーーー!」と嘆いた。


「ねぇちゃんは昔っから来てくれるけ、縁様が張りきったんじゃな……」


はぁ、納得、とヒナは頷く。


「どおりで、アタシには勿体ないと思ったんだよねぇ……」


「それでも縁がないやつとはくっつかんから、相手もねぇちゃんの事、気に入ってはいたんじゃよ」


 それを聞いて、付き合っていたたった2か月の事に思いを馳せた。最悪な別れ方だったけど、確かに楽しい思い出はあるし、好きだと最初に言ったのはケータの方だった。

 うっすらと涙が滲んでるのをシュウが見て慌てた。


「もしかして、ケンカした?」


「いや……。うん、そう、かな。ケンカっていうか、別れたんだよね」


「縁様のチカラも完ぺきじゃないけん、やっぱり張り切りすぎたんじゃな……」


すまんのぅ、とハジメが小さくお辞儀した。


「えー!気にしないでよ!二人のせいじゃないし!!まぁ、結局のところ、アタシの愛が重かったんだよ。ただそれだけ」


だから、気にしないで、と力なく笑う。


「あっ、そうだ!帰らなきゃだったんだ」


スマホを探し、画面を確認すると、母親からメッセージが届いていた。


お母さん『夕飯どうする?ちな今夜はハンバーグ』


「うわっやば!じゃあ二人とも、話聞いてくれてありがとう。また会おうね!」


バイバーイと手を振り、急いで参道をかけていく。

残された二人も手を振りヒナを見送った。


「行ったかい?」


お社の扉が少し開き、声がした。


「はい。よすがさま」


「一目会ってやれば良かったんじゃ」


「うーん……。でもいきなり神さまでーすって現れても、ねぇ?不審者だよ」


「失恋中じゃぞ、落とすなら今しかない!」


「よすがさま、じぶんのことはおくびょうだから」


「それにしても、君たち二人の話を丸っと信じてたね。彼女、大丈夫かな?」


あからさまに話題を反らした縁に対し、ジトッとした目で見つめる二人。


「君たちを見ていると、僕が主だと言う事を忘れそうだよ」


ふぅ、と息をつき、社の奥に引っ込んでいった。



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