フラれるなんて聞いてない!
「いま、なんて言った?」
震えた声で問う。聞こえなかったわけではない。理解できなかった。頭が追いつかなかったのだ。
夏休み目前の7月、目の前にいる隣のクラスの男子生徒に付き合ってくれと告白された。
高校2年になって、やっと出来た彼氏。そりゃもう舞い上がった。なんてったって、密かに憧れていたバスケ部レギュラーの爽やかイケメン。毎日一緒に昼ご飯を食べ、一緒に帰宅し、放課後デートに勤しんだ。夏休みだって、彼の部活中に差し入れしたり、夏祭りや海に行ったり満喫した。
「……だから、別れよう、って」
タイプだって言うから、長かった髪をショートボブまで切ったのはつい一週間前。
そこまでしたのに……!
頭に血が登っていくのを感じた。
「なんでよ……。まだ付き合って、二ヵ月しか経ってないじゃん」
大きくなりそうな声を必死に堪える。じっとりと嫌な汗が滲むのがわかった。
男はわざとらしくため息をつき、顔を背けた。
「なんつーかさ、重いんだよね」
「は?」
思ってもいなかったのであろう答えに、間抜けな声が漏れた。
「そう、重いんだよ、お前。毎日一緒にメシとか、休み時間ごとに来たり、マネージャーと話してるだけで割って入るじゃん?俺にも友達とかいるのにさ。挙句の果てには試合だけじゃなくて、練習試合にまで付いて来ようとするし」
一つ言葉にしただけで、不満があふれたのだろう。堰を切ったようにつらつらと出てくる。
女は呆然と聞くしかなかった。
「おはようからおやすみまでメッセ入れなきゃいけねぇし。……俺はライオンかよってんだ」
そういうわけだから、じゃあな。と去っていく。廊下の角を曲がり、完全に姿が見えなくなったところで、女は我に返った。
「だっ!誰がうまいこと言えって言ったよ!!ケータのばかぁあああああ!!!!」
悲痛な叫びは、放課後の校舎に悲しく響き渡った。
──────
あれから五分。やっと現実が現実として自分の中に入ってきた。鞄も友人も自分の教室に置いてきたことを思い出し、トボトボと戻る。
呼び出されてから三十分経っていたというのに、友人は教室で待っていた。長い髪が、窓から入ってくる風になびく。夕陽を受けてキラキラと光って見えた。
その姿をみて、無性に泣きたくなった。
「ほのかぁ」
不覚にも、涙声で友人に声を掛けた。
「えっ、ヒナ?!ちょ、どうしたの?」
ほのか、と呼ばれた友人は女、ヒナが立ち止まっている教室の扉まで走り寄る。
「フラれた」
一瞬の沈黙の後、あぁ、と納得するかのような声。
「やっぱりか。どんまい」
と、ヒナの頭を優しく撫でた。
「重いって言われた」
「だろうねぇ」
「おはようからおやすみまでラインって、って。俺はライオンじゃねぇぞって」
涙でグシャグシャになりながら、ほのかに愚痴る。と、突然ほのかがふふっと笑いを堪えだした。
「LION…!ふふっ!ヒナの暮らしを見守ってたんだね……ふっ。ふふっやば。アイツ笑いのセンスあるんじゃない?ふっ」
ふははははははと、ついに堪えられなくなった。
「ちょっと!全然笑いごとじゃないんだけど!」
「ごめんごめん」
なおも笑いは止まらない。目に涙をためながら形だけの謝罪をする。
「てかさ!やっぱりってなによ!だろうねってなによ!」
「ごめんってば、ほら、ね?帰ろ?ザックでカフェラテおごるからさ、ね?」
ザックとは、学校から程近いところにあるカフェのことだ。シックな佇まいで、可愛らしいラテアートと美味しいケーキが話題を呼び、女子高生から近所の奥様方まで幅広い年齢層に人気のお店である。
「……カフェオレがいい。トッピングに生クリームつけて」
「いいよ~もうとことん付き合うよ~」
ほのかは二人分の鞄を持つと、ヒナの腕を取り昇降口へと向かった。
やっと新作です……。果たして完結するのでしょうか…完全見切り発車です。タイトル負けしそうで怖い。
最後まで頑張って書き上げたいと思いますので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。