8.契約士、問題の根本原因を知り、それを取り除く
お、お待たせしました……。
今ようやく書き終わりました。
眠い……。
ではどうぞ。
[能力UP]
“ジョブ 女神”
幾多の試練に耐えた先、全てを慈しむ至高の心へとたどり着いた存在。その手がもたらす祝福は、人知を超えた奇跡を起こす。
勇者や聖女、賢者などと並ぶ最高クラスのジョブです。
保有経験点 力:0 技:0 魔:0 センス:0
必要経験点 0
●ジョブ
【女神】
※条件
①【ステータス操作】のスキルがLv.2以上
②【ステータス操作】の使用者と対象者が“支配・被支配”の関係にある
③寄付として総経験点3000を支払う 現在:403/3000(才能○→総経験点2342)
保有経験点が全部0!?
そりゃ能力値も上げられないし、スキルだってゲットできない。
だがこの状況がずっと続いているということなんだから、話は一気に変わってもっと深刻なものになる。
「――ミュゼア。急だが、今からダンジョンに行こう。至急、確認しないといけないことができた」
「へっ? あの、えっと……」
文脈など関係なくいきなり言い出した俺に、ミュゼアは流石に困惑を隠せない様子だった。
しかし、一秒でも早く確かめたかった。
確かめなければいけないと思ったのだ。
「ミュゼアには絶対にケガさせない。ただ攻撃だけすればいい。――モンスターの攻撃は全部俺が受け持つ」
普段使っている中途半端な値段の剣と盾をミュゼアに渡し、俺は予備用のもっと安くで購入した装備を持つ。
見たことも聞いたこともない“女神”などというジョブが、能力UP画面に真っ先に映ったこととか。
あるいはそれが“勇者”や“聖女”と並ぶ、最高クラスのジョブだとか。
いろいろ気になることがありすぎるが、最優先で確認すべきはそこじゃないと判断した。
「あっ、その、……はい、わかりました」
もう少し理由を聞いたり戸惑ったりが続くと思ったが、意外にミュゼアはあっさり納得。
手早く準備を済ませて俺についてきてくれる。
だがその際、俺とは視線を合わせてくれなかった。
……真剣味が出てたのか、目とか顔が怖かったのかもしれない。
しかしそれは申し訳ないが、後で謝ることにしよう。
「――ミュゼアっ、俺のことは気にせず、こいつを倒すことだけに集中っ!」
「はっ、はい!」
東区、元の職場であるヴァーリリスのダンジョン。
その1階層にいきなり連れてこられたというのに、ミュゼアは健気に俺の言葉に従ってくれていた。
主人と奴隷、契約士とその従者という関係的に、不満のある指示でも断りづらいのかもしれない。
だが今だけは我慢してほしい。
それが複数考えられる原因を絞り込む作業になるのだ。
「Boon……」
骨。
1階層の住人で、スライムよりは少しだけ強敵という骨のモンスター。
俺が殺されかけたボーンソードの剣無しバージョン、つまり下位互換だ。
「らぁっ! ――今っ!」
ゆっくりと伸びてきた骨の腕を、安い木製の円盾で弾き返す。
約束した通りミュゼアには指一本触れさせない気持ちで、タンクの役割を全うする。
「はっ、はい! ――やぁっ、やっ!」
相手モンスターが俺だけに向いている状況で、ミュゼアに攻撃を任せる。
俺が普段使っている、今ある中で一番上等な武器。
その剣を必死に振り上げ、心配になるほどのよろめきで切りつける。
「Booooon!」
ガツッと鈍い音。
だが殆どダメージが通った様子はない。
今考えられる最上の装備、パーティーの配置。
そして1階層、つまりこれ以上は下げられないというくらい低レベルのモンスター相手でもこれだ。
「あの、ご主人様っ、全然、やっぱり、ダメです!」
ミュゼアから悲鳴にも似た声が上がる。
しかし俺は首を振り、ボーンからの攻撃を弾き続けた。
「ミュゼア、続けて! 俺が全部防ぐから!」
「っ! ――分かり、ましたっ!」
俺の覚悟が通じたからか、ミュゼアは不格好でも構わず、再び剣を掲げる。
戦闘を再開した。
そして俺が敵からの攻撃を盾で守り、ミュゼアが安全圏から攻撃し続けることおよそ10分。
「Booooo――」
モンスターの体を構成する骨が、バラバラと崩れ落ちる。
[ボーンを討伐しました。経験点を獲得しました。内訳 力:+1 技:+1]
ようやく、本当にようやく倒すことができたようだ。
[ボーンを討伐しました。従者“ミュゼア”が経験点を獲得しました。内訳 力:+1 技:+1]
「っし! ふぅぅ……ミュゼア、お疲れさん。モンスター、ミュゼアの力で倒せたぞ」
「はぁっ、はぁっ、はぃっ。ふぅぅ、ありがとう、ございます……」
呼吸が荒く肩が上下し続けているが、今まで経験したことない満足感を得たみたいにその表情は幾らか明るかった。
ミュゼアの自信に少しでも繋がったのは良かったが、それは副次的な効果で。
今回の主目的は別にある。
俺も防御だけに徹するという今までやったことのない立ち回りをしたために、少なくない疲労感があった。
だがそのおかげで経験点を、俺だけじゃなくてミュゼアもゲットできたんだ。
だから、これで原因が絞れてくるはず――
[能力UP]
“ジョブ 女神”
幾多の試練に耐えた先、全てを慈しむ至高の心へとたどり着いた存在。その手がもたらす祝福は、人知を超えた奇跡を起こす。
勇者や聖女、賢者などと並ぶ最高クラスのジョブです。
保有経験点 力:0 技:0 魔:0 センス:0
必要経験点 0
●ジョブ
【女神】
※条件
①【ステータス操作】のスキルがLv.2以上
②【ステータス操作】の使用者と対象者が“支配・被支配”の関係にある
③寄付として総経験点3000を支払う 現在:405/3000(才能○→総経験点2335)
「なっ!?――」
今日、何度衝撃を受ければ済むのか。
――ミュゼアの保有経験点が、すべて0のままだった。
混乱する頭で必死に考え、そして視線を走らせる。
――見つけた!
さっきと違う項目があった。
宿の部屋で見た時は
『③寄付として総経験点3000を支払う 現在:403/3000(才能○→総経験点2337)』
こうだった。
だが今は
『③寄付として総経験点3000を支払う 現在:405/3000(才能○→総経験点2335)』
と、数字が2だけ上下している。
この“2”はつまり、今獲得した経験点の総数と対応している。
それが何を意味するか――
「…………」
それに気づき、俺は痛いほど胸が強く締め付けられる思いだった。
――ミュゼアはどれだけ経験点を獲得しても、“女神”のジョブ獲得のための条件である“寄付”にそれが流れてしまうのだ。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
原因は特定した。
この能力UP画面に、不自然なほど一番最初に配列されていた、ジョブ“女神”だ。
もっと掘り下げて言うと条件③の“寄付”が、ミュゼアの成長を阻害している原因である。
「あの、えっと、ご主人様?」
戦闘が終わった後の余韻から戻ったのか、ミュゼアが不思議そうな顔をして俺を見ていた。
――原因がわかったんだから、ミュゼアに教えてやればいいんじゃないか?
俺の“プレイヤー”としての能力、そしてそこからくる従者の恩恵。
それを説明して、ミュゼアは成長するためのエネルギーが全部、一つのジョブ獲得に行ってしまっているようだと。
「あのな、ミュゼア。実は――」
「? はい。何でしょう……」
――言えるわけがない。
「……いや、何でもない」
それを言ってどうするというんだ。
じゃあそのジョブをゲットできれば、詰まっていた栓が抜けたように能力値も上昇し、スキルもゲットできるようになると?
――だから、残り約2600ポイント分の経験値、諦めずに頑張って貯めていこうと?
今の戦闘で、嫌というほどよくわかったじゃないか。
戦闘は不向きだというミュゼアが主体で、経験値を獲得するのが本人にとってどれほど大変だったか。
「……ありがとう。おかげで疑問が一つ潰せたよ。もう戦闘はない。あとは戻るだけだから、ひとまず休んでくれ」
「そうですか。ありがとうございます、ではお言葉に甘えて――」
もう腕も足も限界だといわんばかりに、ミュゼアはその場に座り込む。
できないことを無理して、必死になってやった後という感じだ。
なのに、それを今後、何回も何回も繰り返せと要求するのか。
それがどれだけ酷か。
しかもステータスの成長を得られないというとてつもなく重い枷付きで、だ。
「…………」
そしてそれが理解できると、ミュゼアが抱える心の傷の一端に触れた気がした。
ミュゼアはつまり今は、蝶へと至る過程の最中なのだ。
『“ジョブ 女神”
幾多の試練に耐えた先、全てを慈しむ至高の心へとたどり着いた存在。その手がもたらす祝福は、人知を超えた奇跡を起こす。
勇者や聖女、賢者などと並ぶ最高クラスのジョブです』
俺は“ステータス操作”でこれを見ることができているからこそ、それがわかる。
長く厳しい蛹の過程を経れば、その後には大きく飛翔できる無限の可能性が待っているんだと。
しかし、この到達点がわからない、ミュゼアの周囲にいた人たちにとってはどうだった?
ミュゼアのことがどう見えていた?
どれだけ手を尽くしても、どれだけ戦闘に付き添っても。
一切の成長を見せてくれない。
『ですから、私、魔法が使えない、とか。弓が、狩りが全くできないとか。エルフとして、全然、ダメで。その上、何度、鑑定してもらっても、能力値、ずっと成長、しなくて』
さっきのミュゼアの言葉。
“鑑定”を何度もしてもらったと言っていた。
だがそれはむしろミュゼアの成長の無さを、数字面やスキル項目から客観づけてしまう、全くの裏目でしかなかった。
そんなミュゼアに投げかけられる言葉が、どうして温かい心あるものだと想像できようか。
<なら……どうするんですか? このままミュゼア様の状態は、見て見ぬふりを? 私はミナト様がそれを選択なさっても、責めることは致しません>
状況を完全に共有したサポートちゃんが、俺に逃げ道を用意してくれる。
ミュゼアにはまだ言ってないんだ、だから今俺が知ったことを黙っていれば、何も起きていないことになる。
見て見ぬふりして、ミュゼアは戦闘がダメなまま。
だから俺はミュゼアと一緒に大会へと参加することは難しく、諦めることになるだろう。
でも従者を得ることができたのは事実なんだから、それでいいじゃないか。
今までとは違う新たな学生生活を送り、無難に卒業までを過ごして――
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「――いや。それは違うだろ」
気づかぬうちに、勝手に口から否定の言葉が出ていた。
「えっ? あの、いかがなさいましたか?」
ビクッと動いて反応したミュゼアに、手を横に一振りして何でもないと答える。
※条件
①【ステータス操作】のスキルがLv.2以上
②【ステータス操作】の使用者と対象者が“支配・被支配”の関係にある
③寄付として総経験点3000を支払う 現在:405/3000(才能○→総経験点2335)
そしてもう一度“条件”を見直し、今度は自分の【能力UP】画面を出現させる。
[能力UP]
“スキル ステータス操作Lv.2”
ステータス操作のスキルレベルが1上昇します
保有経験点 力:558 技:874 魔:1150 センス:684
必要経験点
力:50(才能○→力:45)
技:100(才能○→技:90)
魔:50(才能○→魔45)
センス:100(才能○→センス:90)
※条件:【ステータス操作】のスキルを取得済み
●スキル
……【ステータス操作】……
経験点を素早く頭の中で計算しながら、大丈夫だとレベル上昇を確定させる。
「これで“条件①”はクリアだ」
“条件②”は要するに、俺とミュゼアの関係が主人と奴隷であればいいということだから、クリア済みのはず。
それを示すように――
<あっ、光りましたよ! ジョブ“女神”の項目が!>
さっきあんな言い方で退路を用意してくれたくせに、俺の行動の結果を見てとても嬉しそうな声だった。
やはりサポートちゃん的にもミュゼアを何とかしたい想いは一緒だったようだ。
「ああ――」
ミュゼアの能力UP画面に再び視線を移すと、一点、つまりジョブ“女神”だけが獲得可能を示す光を帯びていた。
他の能力値やスキル、そして“女神”以外のジョブは灰色で影が差したように暗いのに、だ。
もちろんミュゼアの保有経験点は力・技・魔・センス、すべて0のまま。
じゃあ条件③の寄付のポイント総額が変わったのかといえばそうでもない。
でもこの光はつまり“女神”を獲得できる条件が揃ったことを意味する。
とすると残り2000以上のポイントを、ではどうするのか――
――払える誰かが、代わりに払えばいい。
[ジョブ【女神】の獲得には、“総経験点3000”中、既払い分を除いた“2595”を寄付として支払う必要があります。支払う経験点を入力し、配分を決めてください]
[条件]
力→□□□
技→□□□
魔→□□□□
センス→□□□
残り:2335
“ステータス操作”のレベルを上げる前には反応しなかったのに、条件③の文章に二度タッチするとこの通りだ。
先日“冒険者”のジョブをゲットする際、条件として登録料のポイントを要求された。
それと類似性があると、文章内容から思っていたのだ。
そして“寄付”という言葉の意味。
教会とか孤児院とかが主に想定されるが、通常“寄付”を行う際、その主体がどういった属性を有するかとか何者なのかといったことは基本的には問われない。
つまり条件を条件として認識でき、それを達成できる者であれば、本人じゃなくてもいいのでは、と。
「俺の今の保有経験点は“力:513 技:784 魔:1105 センス:594”だな……」
[条件]
力→500
技→500
魔→1000
センス→335
残り:0
[以上の条件でジョブ【女神】の取得を確定しますが、よろしいですか?]
そこで一瞬だけ、指が止まった。
この経験点は、俺の10年以上の努力の結晶だ。
プレイヤーを得るまで、つまりジョブがなかった10年があったからこそ貯まったものである。
ステータス自動の時、俺はジョブがなかった。
だから、成長の指針がないというか方向性が定まらず。
それで何にも経験点が消費されなくて、貯まってくれていたのだ。
――ミュゼアの状況は、あり得たかもしれない俺の可能性の一つだと思う。
何か一つ違っていたら、俺も似たような状況になっていたかもしれない。
だからこそ、この経験点は惜しむべきものじゃないと思った。
「ミュゼアは、俺の従者になってくれた最初の相手だ――」
そのミュゼアの問題を解決するために使われるのなら、悔いはない。
[――従者“ミュゼア”がジョブ【女神】を獲得しました。それに伴いスキル【女神の祝福】【女神のヴェール】を獲得しました]
「えっ!? なっ、何っ、何が――」
ジョブの獲得を知らせる音声が無事に聞こえたとともに、突如ミュゼアの体が発光を始めた。
これで、シリアス回は終了のはず。
次話で、ジョブ女神の実力の一端とか、問題解決された後のミュゼアと主人公の日常とか書ければいいな……と思ってます。
それか、もしかしたら第三者視点で、ミュゼアの過去から今に至るまでを具体的に書くかもしれません。
まだ未定ですが……もしかしたら1日お休みするかもしれません。
流石に疲れました。
このお話を投稿する時点で200ポイントを到達していました。
PVもそうですし、本当に少しずつでも着実に伸びていると実感できて、やる気にしっかり結びついております!
ブックマーク・評価もありがとうございます!
執筆の励みになりますので、本当にありがたいです……。