3.契約士、ステータスを実際に上げてみる
3話目です。
ではどうぞ。
「やっと終わった!」
夜。
交代の引継ぎを終えて宿屋へと帰ってきた。
いつもならこの時点でヘトヘトなのだが、今は興奮で少しも眠気を感じない。
「よいしょっと――」
光源となる魔力結晶に魔力を込める。
模擬戦で使用されるものとは違い、拳よりも少し大きめのサイズ。
安物だが、狭い室内の視界を確保するには十分の光が灯った。
冒険者や、俺のような訳ありの家無しが借りているだけあって、決して立派な建物・部屋ではない。
しかし住めば都という言葉があるように長い時間ここを拠点としていると、特に不満はなくなる。
……隣室の宿泊者とのいざこざだけは注意がいるけどね!
「うしっ! 早速ジョブの確認だ」
仕事をちゃんとしてから確かめることにするとか、俺マジ優等生。
<……ボーンソードに殺されそうになった反省で、仕事中はビクビクして控えていただけでは?>
頭の中に直接語りかけてくるような可愛らしい少女の声。
命がけの経験をしたせいで、俺がどこかおかしくなったわけではない。
……う、うるさいな“サポートちゃん”。
別に、ビビッてなんかなかったし?
ただちょっと真面目な一面が、ひょっこり顔をのぞかせっちゃったっていうか、うん。
ジョブ【プレイヤー】を得た際、その専用スキルとして習得した【プレイヤーサポート】。
それが、今こうして脳内会話の相手となっている“サポートちゃん”だった。
ちなみに“ちゃん付け”は本人の希望である。
<……まあそういうことにしておきましょう。――で、話を元に戻しまして。早速ステータスと能力UPの説明をしていきたいと思います>
ジョブを身に着けることができたことは本当に嬉しいが、【プレイヤー】なんて見たことも聞いたこともないジョブだ。
【プレイヤーサポート】というスキル名だけあってプレイヤー、即ち俺を全面的に補助・サポートしてくれるらしい。
こうして説明やチュートリアル的なことを行ってくれるのはとても助かる。
<まずはステータスをご覧ください。目の前に表示するよう念じれば出るはずです>
いわれた通りにやってみると、ステータスが表示された画面を難なく出現させることができた。
[ステータス]
●基礎ステータス
名前:ミナト・イスミ
年齢:16
性別:男
ジョブ:プレイヤーLv.1
HP:22/28
MP:16/31
筋力:20
耐久:11
魔力:23
魔法耐久:18
器用:16
敏捷:12
●スキル
契約魔法Lv.1 プレイヤーサポート ステータス操作Lv.1 才能○
●契約ステータス
従者:0
契約盤:2マス/81マス
契約水晶:2種類 1個/2個
↓
内訳:①契約士マテリアル②ノーマルマテリアル
「おぉぉ……」
思わず感嘆の声が漏れる。
感覚としてジョブを身につけたことはわかってはいた。
だが、こうして視覚的に確認できるとまた違った感動が湧いてくる。
またこれほどまでに詳細なステータスを、何の対価やリスクなく閲覧できることも驚きだった。
普通ステータスを見たいとなると、教会に行って神官やシスターに頼んだり。
あるいは学院や冒険者ギルドの各支部など、主要な施設に派遣されている魔術師にお金を払って見せてもらう必要がある。
平均・相場が今どのくらいかは知らないが、俺がやってもらったのって1回100ルグドくらいだったか?
今正に借りている宿の1泊分が30ルグドで、食事は1食を大体3~5ルグドで済ませてる。
全く手に届かない額じゃないが、継続的に確認したい場合は決して安くない額といえるだろう。
<まあ“●契約ステータス 従者:0”の項目にも真剣に向き合っていただければ嬉しいですけどね。さて次です――>
グサッ!
サポートちゃん、辛辣!
……滅茶苦茶に可愛い声してるくせに、言うことは刃物みたいな凄い切れ味してるよこの子。
<【能力UP】画面に移りましょう。スキル【ステータス操作】によって、ミナト様は自ら能力を上昇・獲得することができるようになりました。ご覧ください>
ステータス画面右下の端っこに小さな正方形がある。
“【能力UP】”と書かれているそれをタッチ。
すると、ステータス画面とは別の、新たな画面が出現した。
[能力UP]
“HP 28→29”
保有経験点 力:782 技:1122 魔:1387 センス:841
必要経験点 力:8(才能○→力:7)
●能力値
【HP】 MP 筋力 耐久 魔力 魔法耐久 器用 敏捷
〔決定〕〔戻る〕〔終了〕
「“必要経験点”が能力を上昇させるのに必要なポイントで、“保有経験点”は今俺が持っているそのポイントってことで、合ってる?」
<はい。保有経験点を消費して能力値を上げたり、スキル・ジョブを獲得したりします>
なるほど……。
それはある意味凄いことだ。
普通、能力値は修行したり鍛錬を積んで、そのうえで上がっていく。
言い方を変えれば、誰かの意思を介さず、勝手に上昇していくものなのだ。
スキルもそうで、自分の意思でゲットしようと思って、狙って、確実に得られるものではない。
今まではいうなれば“ステータス自動”だったのだ。
<それがジョブ【プレイヤー】を、そして【ステータス操作】を得て。ミナト様は、自分で狙って上昇・獲得できるというわけですね>
話を聞いていくうちに、高揚感を覚える。
こんなにもワクワクしたことなんて随分となかったように思う。
[能力UP]
“MP 31→32”
保有経験点 力:782 技:1122 魔:1387 センス:841
必要経験点 魔:9(才能○→魔:8)
●能力値
HP 【MP】 筋力 耐久 魔力 魔法耐久 器用 敏捷
〔決定〕〔戻る〕〔終了〕
「上げたい能力値にカーソルを合わせればいいわけね、フムフム……」
“MP”の項目をタッチすると、“【】”が動いて焦点が合わさる。
<はい。上昇や獲得を確定したい場合は“〔決定〕”を。やり直したい場合は“〔戻る〕”を押してください。で、“能力UP”自体を終わりたい場合は“〔終了〕”です>
試しにMPを10回タッチ。
今現在“31”なのを“41”にまで上昇させる。
すると“必要経験点”が“魔:90(才能○→魔)81”と出た。
「これは……元々必要なのは90だけど、結局は“魔:81”でいいってことか?」
<その通りです。【才能○】で獲得に必要な経験点が少なく済むってことですね>
おぉぉ……それは凄い。
極端な話、MPを100上げるとすると、“魔”の経験点を80くらい節約できるってことだろ?
その浮いた経験点でまた10くらい上げられる。
魔法1~2発分くらいは違ってくるってことだ。
本当にゲームみたいだな……。
プレイしたことはもちろん一度もない。
しかし自分が“ゲーム”というワードを使うことも、既に違和感が全くなくなっていた。
そしてこの能力UPが現実に反映されれば凄いことになるんじゃないか――漠然とではあるが、そんな予感があった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「さてっ、試してみるか――」
MPと試しに筋力を10ずつ上げて〔決定〕。
○MP:31→41
↓
消費経験点 魔:81
○筋力:20→30
↓
消費経験点 力:10×10=100 ※【才能○】により力:90
保有経験点 力:692 技:1122 魔:1306 センス:841
「おっ!?」
直後、自分の体の内側が陽の光に当たったように、じんわりと温かくなる。
能力UPする前よりも、エネルギーがさらに活発に巡るようになったみたいな感覚だ。
[ステータス]
●基礎ステータス
名前:ミナト・イスミ
HP:22/28
MP:16/31→26/41(new!)
筋力:20→30(new!)
耐久:11
魔力:23
魔法耐久:18
器用:16
敏捷:12
ステータス画面を見ても、ちゃんと操作した分だけ“MP”と“筋力”の項目が更新されていた。
「“筋力”の上昇についても何かで実感できないかな……そうだ、装備装備っと――」
部屋に戻って来て早々に脱いだ防具と、壁に立てかけたままの中途半端な質の剣。
少し面倒には感じたがもう一度体にまとい、構えてみることにした。
すると直ぐにも効果を肌で感じることに。
「えっ、軽っ! こんなに重量感無かったっけ!?」
試しに剣も振ってみる。
横・下の部屋の迷惑にならないようできるだけ控えめにして。
「うわっ、ヤバッ、これ、凄いわ……」
軽く振ってみただけで分かる。
というか、“軽く振れる”ということだけで、“筋力”の上昇が現実に反映されているのだと実感した。
<元が20で、今は30ですよね。数値上では1.5倍ですからね。そりゃ力強くなりますよ>
なるほど、そう言わればそうか。
プレイヤーのジョブ、そして【ステータス操作】の効果を現実に体感し、気持ちは今までになかったくらい高まった。
未だ契約士として何かの成長を遂げたわけではない。
しかし、暗く希望を抱けない未来の道筋に、確かな光が差したような気がした。
次話か、遅くとも2話後までには一人目のヒロインを登場させられる予定です。
早速感想もいただけて嬉しいです!
ちゃんと目を通してはおります、ただ返信は少々お待ちいただけますと幸いです。