1.契約士、久しぶりに学院に行く
久しぶりに創作意欲と時間が生まれたので書いてみました。
書き溜めなど一切なく、思い付きのままにそのまま投稿してます。
お手柔らかにお願いします……。
昔、契約士なる者あり。
他の者の力を引き出し、開花さす。
力なき者たちはこれに報い、契約士のため、花開いた才を存分に発揮す。
剣持つ者は千の敵を物ともせず打ち払う。
杖使う者は万物を操り敵を殲滅し、またあらゆる傷病を治癒す。
盾握る者は敵の攻めを一つも後ろに通さず、仲間を常に守り抜く。
そして彼らの歩く道のりは勇ある者をも魅了し、魔を統べる者も惹かれ力を貸す。
彼らが築いた世界の繁栄、永遠に保たれんことを……。
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「おっ、珍しい奴が来やがった」
ヴァーリリス契約士学院。
その高等科2年の教室に入ると、嘲笑うような声が俺を出迎えた。
「ははっ、本当だ」
「“従者なし”のお出ましか」
「おーい、“契約士”は実技ができてこそだろう? 座学だけでできても意味ないぞー」
クラスの中心たる男子学生たちが数人集まり、こちらを指さして笑う。
……無視だ無視。
気にしたら負け。
今に始まったことじゃなし、言われ慣れてることだ。
「……えっ、誰? あんな奴、ウチのクラスにいたっけ?」
「んーっと……あれ、どうだっけ?」
「あっ! いつも一人の人じゃない? 名前は……あんまり授業に来ないから忘れちゃった」
一方で女子の何人かからは、より現実的な反応が返ってくる。
……まだこの方が気は楽だ。
楽なだけで、グサッと胸に突き刺さるものがあるのは事実だけどね!
2年に進級して初めの時、自己紹介でミナト・イスミと名乗った記憶はある。
だが彼女らのようなイケイケの青春学生にとっては、覚えておくに足らない情報ってことだろう。
根暗ボッチ、それも下級生にすら劣る底辺契約士の名前や存在なんて、俺でもどうでもいいと思うし。
「あの、えっと、イスミさん――」
――女子生徒が一人、自分のことを呼んでくれた気がした。
肩まで届くミディアムほどの、キレイな髪色をした少女。
優しい雰囲気を常にまとっている女の子だが、今は躊躇いを含んだ表情をしていた。
「…………」
誰からも呼ばれてなどいないと決めつけ、振り向くことなく足を進めた。
「フィアスさん、どうかした?」
「う、ううん、何でもない!」
背後ではその少女が、もう他のクラスメイトに囲まれ始めたのがわかる。
クラスどころか、学園中でも有名・人気な少女は、朝から大忙しらしい。
「はぁぁ……」
無言で自分の席につきながらも、既に登校したことを後悔し始めていた。
こんなことなら、今日も仕事に行ってればよかった。
始業の時間まで一人、黙考することで時間を潰す。
「おっ、今日は珍しく全員出席か。うむ、何よりだ。先生は嬉しいぞ」
一回り年上の長身・長髪の女性が入室してきた。
俺へ登校するよう呼び掛けてきた張本人だ。
教壇から意地悪い顔で、チラッとこちらを見てくる。
……くそっ、出席日数を持ち出されなければ、絶対来なかったのに。
「リィーナ先生、質問いいですか?」
女子生徒が一人、元気に手を上げる。
美人教師は無言の笑顔でそれを許可した。
「いつもの教科書とか授業のための資料、全然持ってきてないですけど、どうしたんですか?」
手ぶらでやってきたことを指摘された先生はそれに動揺する……ことはなく。
むしろよくぞ気づいたと言いたげに、更に笑みを深めた。
……あぁぁ、なんか嫌な予感するなぁ。
「ああ、今日は予定が変わってな! 演習場が丸1日借りられた。これから演習に変更だ!」
おうふ……。
「1時間後に全員、演習場2の方に集合。模擬戦をやる! “従者”は4人までな」
模擬戦……はぁぁ。
やはり今日は来ない方がよかったらしい。
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「おっ、見ない従者だな? もしかして新しいのか?」
「ああ! 先週ようやく勧誘できたんだ、待望の剣士! これで前衛不足を解消できる」
全校生徒が入っても、なお十分な広さを有する演習場。
今ここには2年B組の30人以外にも、その3~4倍はする人数が集まっていた。
人族はもちろん、犬や猫の獣人、エルフにドワーフ。
見た目ではわからないが魔族もいるらしい。
男女の別、年齢も様々。
ヴァーリリス学院の制服を着ているのがクラスメイト。
それ以外は全部その従者たちだ。
「――よし。全員集まったな。……あぁ、従者の確認点呼はやらなくていい。試合の時にやる」
先生がやってきて、早速演習が始まることに。
「おーい、ボッチ。お前、従者はどうした?」
「演習は従者ありじゃないと戦えないぞ? 大会もそうだろう。ルール忘れたか?」
「ふっ、ふふふっ……おいおい、やめてやれって。あいつ、従者は一人もいないんだからさ」
移動の際、お調子者の男子生徒どもにからかわれる。
朝、俺のことをいじってきた奴と同じ奴らだ。
……ほらっ、だから嫌だったんだよ。
演習なんて、俺が一番受けて意味ない授業なんだから。
「おい、そこっ、しゃべってないで準備しろ。呼ばれなかった奴は見学。ほらっ、さっさと行動」
先生の呼びかけで、男子どもは退散。
……流石に元“四大大会”の優勝者には従順だな。
指示に従い、模擬戦の準備がテキパキと進む。
呼ばれた生徒2人が対戦相手となる。
「フィアスさんだ! これは注目の一戦だな」
「相手はケイスか。いくら学年最強のアレスティーとはいえ相性は良くない。果たしてどうなるか」
学年トップの成績・実力を持つとはとても思えない、どこかの国のお姫様みたいな外見をしている、フィアス・アレスティー。
そして四大大会の一つで去年ベスト8入りした強さを持つ、お貴族様のケイス。
「ルールは大会と基本的に一緒だ。……よし。全員、魔力結晶はつけたな」
審判役のリィーナ先生が作り出した、魔力の小さな塊。
それが生徒・従者全員にいきわたる。
それぞれ手足、それか胸元の好きな場所に付着。
破壊されるとその者は敗北で、それ以降の戦闘には参加できない。
先に相手契約士の魔力結晶を破壊したら勝ちとなる。
「では次、“契約盤”――」
先生の声に合わせ、2人の契約士は片手を突き出し、掌を上に向ける。
掲げた手と水平に、平らな正方形の盤面が出現した。
縦9マス×横9マス。
だがその大半は真っ黒。
今現在、その契約士の実力的に使用可能なマス目だけが、明るく光る。
「…………」
口内に淡い苦みが広がった。
俺も契約士だから、もちろん契約盤は扱える。
……だが、光っているのはたったの2マスのみ。
アレスティーのは、パッと見で15を超えているというのに……。
ボード上の光っている、使用可能マス。
さらに何も乗っていない更地と、ガラス玉のようなものが乗っているマスに分けられる。
【ミナト・イスミ】
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俺のボードは一番下列、白の左が自分のマテリアルで埋まっており。
一方で右は使用可能なものの、単なる空きマスとなっている。
……寂しい限りだ。
「各自、“照合”!」
続けて、号令がかかる。
「はい! っ――」
アレスティーのボード上、一つだけある水色の水晶が光る。
それに呼応するようにしてアレスティーの体にも、水色のオーラのようなものが薄っすらと纏う。
「“契約水晶”は……よし。全員、それぞれの契約士の従者だと確認」
水色の契約士用の水晶以外は、すべて赤色だ。
その赤色の水晶が光ると、従者の体に同じような赤色の光が現れる。
“契約盤”と“契約水晶”。
契約士にしか生成できない、契約士を契約士たらしめているものだ。
「うん。各自、準備はいいな? ――では、始めっ!」
自分からは遠くかけ離れた実力者同士の模擬戦が始まった。
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「はぁぁ……」
思わず漏れたため息。
この後に仕事が控えているというのに、体は心に引っ張られるように重かった。
……模擬戦は不戦敗で全く疲れていないはずなのに、である。
「やっぱり、今日は特に登校するんじゃなかった」
従者を連れての、契約士同士の集団戦。
アレスティーが快勝した一戦は、特に他のクラスメイト達を沸かせた。
……だが俺には、その良し悪しが判断できない。
実戦経験がないため自分との対比ができず、論評などもってのほか。
だから何の肥やしにもならないのだ。
「ねえ君、もしかして学院の生徒さん?」
中央街区の付近で、女性から唐突に話しかけられる。
胴当てやヘルムを装備している所を見ると、冒険者だろうか。
「えっと、そう、ですけど」
いきなりのことで驚き、口ごもりながら応答する。
……いや、人との会話に慣れてないとか、街で女性と話すの超久しぶりとか、そういうことじゃないから。
単に突然のことでビックリしただけだから!
「あっ、じゃあさ! もしかして従者募集してたり、しない?」
一瞬ドキッとした。
これはもしや、と期待する気持ちが生まれる。
だが、それは直ぐに萎んでいった。
今までの経験を思い出したからだ。
「……確かに“マス目”と“契約水晶”に空きはあります」
「おっ! じゃあさ、私と主従契約――」
食いつきがよく前のめり。
年も近いし、綺麗な女性だった。
そんな相手に“契約”の提案をしてもらえる、それはもちろん嬉しいことには違いない。
自分の状況を考えれば、逆にこちらから頭を下げてでもお願いしたいことだ。
だが、自分の心は諦めに似た気持ちも交じり、完全に冷めきっている。
「――俺、“従者なし”ですよ? それに“ジョブなし”でもあります」
そう口にした途端、相手の表情が一気に変わる。
「えっ!? あっ、あぁ~……そっか」
今までの積極的な態度からは一転。
どうやってこの話をなかったことにしようかと考えている顔だ。
とても分かりやすい。
今までも同じことが何度もあったからな……。
「そういうことです……。じゃ、俺、この後用事があるんで失礼します」
自分から打ち切り、そそくさとその場を後にする。
もちろん女性冒険者から引き留める言葉などはない。
相手から断ってくれて良かったとホッとしているだろう。
「はぁぁ……」
契約するということは、何も契約士だけにメリットがあるわけではない。
契約士の従者として力を貸す代わり、相手は潜在能力を引き出してもらえる。
契約士によって、契約の恩恵は様々。
アレスティーは魔法の才があるため、従者も魔法の能力をより引き出してもらえると聞く。
そういうことだから、少しでもいい契約士と契約を結びたいと思うのは自然なことだ。
「従者なし、ジョブなしじゃあ、俺が相手の立場でも契約したいなんて思わないからなぁ……」
従者がいないので、それだけ不人気・マイナス要素のある契約士だとみられる。
また冒険者にも剣士がいたり魔術師がいたり、あるいは弓手や僧侶がいるように。
契約士にも、様々なジョブを持った者がいる。
……そのジョブも持ってない奴じゃ、どんな恩恵が得られるかの予想・推測することすらできない。
これもマイナス評価なんだろうなぁ。
「そして今からまた仕事だ……」
契約士として自分を磨き、変えようとする暇すらない。
他の奴と差がつく一方だ。
この先の自分の未来について、全く明るい展望を抱けない。
――だがその10年以上も続けている仕事が大転換のきっかけとなるとは、この時は思いもしなかった……。
純粋なハイファンは初めてなんですが、こんな感じでいいんですかね……?