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1.契約士、久しぶりに学院に行く

久しぶりに創作意欲と時間が生まれたので書いてみました。

書き溜めなど一切なく、思い付きのままにそのまま投稿してます。


お手柔らかにお願いします……。

 昔、契約士(けいやくし)なる者あり。

 他の者の力を引き出し、開花さす。

 

 力なき者たちはこれに報い、契約士のため、花開いた才を存分に発揮す。

 

 剣持つ者は千の敵を物ともせず打ち払う。

 杖使う者は万物を操り敵を殲滅(せんめつ)し、またあらゆる傷病(しょうびょう)を治癒す。

 盾握る者は敵の攻めを一つも後ろに通さず、仲間を常に守り抜く。

 

 そして彼らの歩く道のりは勇ある者をも魅了し、魔を統べる者も惹かれ力を貸す。 

 

 彼らが築いた世界の繁栄、永遠(とわ)に保たれんことを……。


― ― ― ― ― ―


□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「おっ、珍しい奴が来やがった」 



 ヴァーリリス契約士学院。

 その高等科2年の教室に入ると、嘲笑うような声が俺を出迎えた。



「ははっ、本当だ」


「“従者なし”のお出ましか」


「おーい、“契約士”は実技ができてこそだろう? 座学だけでできても意味ないぞー」



 クラスの中心たる男子学生たちが数人集まり、こちらを指さして笑う。

 ……無視だ無視。


 気にしたら負け。

 今に始まったことじゃなし、言われ慣れてることだ。



「……えっ、誰? あんな奴、ウチのクラスにいたっけ?」


「んーっと……あれ、どうだっけ?」


「あっ! いつも一人の人じゃない? 名前は……あんまり授業に来ないから忘れちゃった」



 一方で女子の何人かからは、より現実的な反応が返ってくる。 

 ……まだこの方が気は楽だ。

   

 楽なだけで、グサッと胸に突き刺さるものがあるのは事実だけどね!



 2年に進級して初めの時、自己紹介でミナト・イスミと名乗った記憶はある。

 だが彼女らのようなイケイケの青春学生にとっては、覚えておくに足らない情報ってことだろう。


 根暗ボッチ、それも下級生にすら劣る底辺契約士の名前や存在なんて、俺でもどうでもいいと思うし。



「あの、えっと、イスミさん――」


 

 ――女子生徒が一人、自分のことを呼んでくれた気がした。

 

  

 肩まで届くミディアムほどの、キレイな髪色をした少女。 

 優しい雰囲気を常にまとっている女の子だが、今は躊躇(ためら)いを含んだ表情をしていた。

 


「…………」


 

 誰からも呼ばれてなどいないと決めつけ、振り向くことなく足を進めた。



「フィアスさん、どうかした?」


「う、ううん、何でもない!」



 背後ではその少女が、もう他のクラスメイトに囲まれ始めたのがわかる。

 クラスどころか、学園中でも有名・人気な少女は、朝から大忙しらしい。

  

  

「はぁぁ……」



 無言で自分の席につきながらも、既に登校したことを後悔し始めていた。

 こんなことなら、今日も仕事に行ってればよかった。

 

 始業の時間まで一人、黙考することで時間を潰す。



「おっ、今日は珍しく全員出席か。うむ、何よりだ。先生は嬉しいぞ」

 

 

 一回り年上の長身・長髪の女性が入室してきた。

 俺へ登校するよう呼び掛けてきた張本人だ。


 教壇から意地悪い顔で、チラッとこちらを見てくる。



 ……くそっ、出席日数を持ち出されなければ、絶対来なかったのに。



「リィーナ先生、質問いいですか?」



 女子生徒が一人、元気に手を上げる。

 美人教師は無言の笑顔でそれを許可した。



「いつもの教科書とか授業のための資料、全然持ってきてないですけど、どうしたんですか?」


 

 手ぶらでやってきたことを指摘された先生はそれに動揺する……ことはなく。

 むしろよくぞ気づいたと言いたげに、更に笑みを深めた。


 ……あぁぁ、なんか嫌な予感するなぁ。



「ああ、今日は予定が変わってな! 演習場が丸1日借りられた。これから演習に変更だ!」



 おうふ……。

  


「1時間後に全員、演習場2の方に集合。模擬戦をやる! “従者”は4人までな」


 

 模擬戦……はぁぁ。

 やはり今日は来ない方がよかったらしい。

 


□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「おっ、見ない従者(やつ)だな? もしかして新しいのか?」


「ああ! 先週ようやく勧誘できたんだ、待望の剣士! これで前衛不足を解消できる」


 

 全校生徒が入っても、なお十分な広さを有する演習場。

 今ここには2年B組の30人以外にも、その3~4倍はする人数が集まっていた。


 人族はもちろん、犬や猫の獣人、エルフにドワーフ。

 見た目ではわからないが魔族もいるらしい。


 男女の別、年齢も様々。


   

 ヴァーリリス学院の制服を着ているのがクラスメイト。

 それ以外は全部その従者たちだ。



「――よし。全員集まったな。……あぁ、従者の確認点呼はやらなくていい。試合の時にやる」



 先生がやってきて、早速演習が始まることに。



「おーい、ボッチ。お前、従者はどうした?」


「演習は従者ありじゃないと戦えないぞ? 大会もそうだろう。ルール忘れたか?」


「ふっ、ふふふっ……おいおい、やめてやれって。あいつ、従者は一人もいないんだからさ」



 移動の際、お調子者の男子生徒どもにからかわれる。

 朝、俺のことをいじってきた奴と同じ奴らだ。


 ……ほらっ、だから嫌だったんだよ。


 演習なんて、俺が一番受けて意味ない授業なんだから。



「おい、そこっ、しゃべってないで準備しろ。呼ばれなかった奴は見学。ほらっ、さっさと行動」



 先生の呼びかけで、男子どもは退散。

 ……流石に元“四大大会”の優勝者には従順だな。


 

 指示に従い、模擬戦の準備がテキパキと進む。

 呼ばれた生徒2人が対戦相手となる。



「フィアスさんだ! これは注目の一戦だな」


「相手はケイスか。いくら学年最強のアレスティーとはいえ相性は良くない。果たしてどうなるか」

 


 学年トップの成績・実力を持つとはとても思えない、どこかの国のお姫様みたいな外見をしている、フィアス・アレスティー。

 そして四大大会の一つで去年ベスト8入りした強さを持つ、お貴族様のケイス。



「ルールは大会と基本的に一緒だ。……よし。全員、魔力(まりょく)結晶(けっしょう)はつけたな」



 審判役のリィーナ先生が作り出した、魔力の小さな塊。

 それが生徒・従者全員にいきわたる。


 それぞれ手足、それか胸元の好きな場所に付着。

 

 破壊されるとその者は敗北で、それ以降の戦闘には参加できない。

 先に相手契約士の魔力結晶を破壊したら勝ちとなる。



「では次、“契約(コントラクト)(ボード)”――」

        


 先生の声に合わせ、2人の契約士は片手を突き出し、掌を上に向ける。

 掲げた手と水平に、平らな正方形の盤面が出現した。


 縦9マス×横9マス。


 だがその大半は真っ黒。 

 今現在、その契約士の実力的に使用可能なマス目だけが、明るく光る。


 

「…………」



 口内に淡い苦みが広がった。

 俺も契約士だから、もちろん契約盤は扱える。

 ……だが、光っているのはたったの2マスのみ。



 アレスティーのは、パッと見で15を超えているというのに……。



 ボード上の光っている、使用可能マス。

 さらに何も乗っていない更地と、ガラス玉のようなものが乗っているマスに分けられる。



【ミナト・イスミ】


■■■■■■■■■ 

■■■■■■■■■

■■■■■■■■■

■■■■■■■■■

■■■■■■■■■

■■■■■■■■■

■■■■■■■■■

■■■■■■■■■

■■■〇□■■■■

 


 俺のボードは一番下列、白の左が自分のマテリアルで埋まっており。

 一方で右は使用可能なものの、単なる空きマスとなっている。

 ……寂しい限りだ。



「各自、“照合”!」



 続けて、号令がかかる。


 

「はい! っ――」

 


 アレスティーのボード上、一つだけある水色の水晶が光る。

 それに呼応するようにしてアレスティーの体にも、水色のオーラのようなものが薄っすらと纏う。



「“契約(コントラクト)水晶(マテリアル)”は……よし。全員、それぞれの契約士の従者だと確認」



 水色の契約士用の水晶以外は、すべて赤色だ。

 その赤色の水晶が光ると、従者の体に同じような赤色の光が現れる。



契約(コントラクト)(ボード)”と“契約(コントラクト)水晶(マテリアル)”。

 契約士にしか生成できない、契約士を契約士たらしめているものだ。

 

 

「うん。各自、準備はいいな? ――では、始めっ!」



 自分からは遠くかけ離れた実力者同士の模擬戦が始まった。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「はぁぁ……」



 思わず漏れたため息。

 この後に仕事が控えているというのに、体は心に引っ張られるように重かった。


 ……模擬戦は不戦敗で全く疲れていないはずなのに、である。



「やっぱり、今日は特に登校するんじゃなかった」



 従者を連れての、契約士同士の集団戦。

 アレスティーが快勝した一戦は、特に他のクラスメイト達を沸かせた。

 

 ……だが俺には、その良し悪しが判断できない。

 実戦経験がないため自分との対比ができず、論評などもってのほか。

 

 だから何の肥やしにもならないのだ。

 


「ねえ君、もしかして学院の生徒さん?」



 中央街区の付近で、女性から唐突に話しかけられる。

 胴当てやヘルムを装備している所を見ると、冒険者だろうか。



「えっと、そう、ですけど」


 

 いきなりのことで驚き、口ごもりながら応答する。

 ……いや、人との会話に慣れてないとか、街で女性と話すの超久しぶりとか、そういうことじゃないから。


 単に突然のことでビックリしただけだから!



「あっ、じゃあさ! もしかして従者募集してたり、しない?」  



 一瞬ドキッとした。

 これはもしや、と期待する気持ちが生まれる。


 

 だが、それは直ぐに(しぼ)んでいった。

 今までの経験を思い出したからだ。



「……確かに“マス目”と“契約(コントラクト)水晶(マテリアル)”に空きはあります」


「おっ! じゃあさ、私と主従契約――」


 

 食いつきがよく前のめり。

 年も近いし、綺麗な女性だった。


 そんな相手に“契約”の提案をしてもらえる、それはもちろん嬉しいことには違いない。

 自分の状況を考えれば、逆にこちらから頭を下げてでもお願いしたいことだ。



 だが、自分の心は諦めに似た気持ちも交じり、完全に冷めきっている。

 


「――俺、“従者なし”ですよ? それに“ジョブなし”でもあります」



 そう口にした途端、相手の表情が一気に変わる。



「えっ!? あっ、あぁ~……そっか」



 今までの積極的な態度からは一転。

 どうやってこの話をなかったことにしようかと考えている顔だ。


 とても分かりやすい。

 今までも同じことが何度もあったからな……。



「そういうことです……。じゃ、俺、この後用事があるんで失礼します」



 自分から打ち切り、そそくさとその場を後にする。

 もちろん女性冒険者から引き留める言葉などはない。


 相手から断ってくれて良かったとホッとしているだろう。



「はぁぁ……」   



 契約するということは、何も契約士だけにメリットがあるわけではない。

 契約士の従者として力を貸す代わり、相手は潜在能力を引き出してもらえる。


 契約士によって、契約の恩恵は様々。

 アレスティーは魔法の才があるため、従者も魔法の能力をより引き出してもらえると聞く。

 

 そういうことだから、少しでもいい契約士と契約を結びたいと思うのは自然なことだ。


 

「従者なし、ジョブなしじゃあ、俺が相手の立場でも契約したいなんて思わないからなぁ……」 



 従者がいないので、それだけ不人気・マイナス要素のある契約士だとみられる。


 また冒険者にも剣士がいたり魔術師がいたり、あるいは弓手や僧侶がいるように。

 契約士にも、様々なジョブを持った者がいる。


 ……そのジョブも持ってない奴じゃ、どんな恩恵が得られるかの予想・推測することすらできない。

 これもマイナス評価なんだろうなぁ。   



「そして今からまた仕事だ……」



 契約士として自分を磨き、変えようとする暇すらない。

 他の奴と差がつく一方だ。

 

 この先の自分の未来について、全く明るい展望を抱けない。


 


 ――だがその10年以上も続けている仕事が大転換のきっかけとなるとは、この時は思いもしなかった……。




純粋なハイファンは初めてなんですが、こんな感じでいいんですかね……?


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