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第八話 対策と、困惑


街に戻り、一息つく。

見たところ被害は無さそうだし、安心して良さそうだ。


…結局、シェイドの死体は持っていかれたが…一応【弱体付与:毒】(攻撃に弱体化を付与する技能。毒以外には凍結や麻痺等がある)を使った矢が刺さった(シェイドの方に刺さっていれば無意味だが)事だし、当面は良いだろう。

一週間ほど行動に制限がかかるはずだ。


「取りあえず、一週間で出来る限りの準備をしておくか…って言ってもそんなにやれることはないんだがな」


自力で魔法が使えない以上、魔法に頼らない戦闘方法を模索する必要がある。

それ以外にできることなんて、殆ど無いに等しい。


母さんたちに説明して、冒険者や騎士団を呼んでもいいが…ヴィンダーグ領は、実力者たちが来るのには時間がかかる場所なのだ。

騎士団を誰かが呼んでいた気がするが、直ぐに駆けつけてこれる騎士なんて実力が知れている。

いや、仮にも魑魅魍魎の跋扈する世界なのだから、地方に送られるような騎士だって、俺の時代でのトップクラス騎士くらいの実力だったりするのか…?

それに賭けてもいいが、それは楽観ししすぎだろう。

あの魔人曰く、奴らは『選ばれた種族』なのだとか。

魑魅魍魎跋扈する世界で、自ら選ばれたと名乗るくらいなのだから、きっと俺の想像を遥かに上回るような力を持っているに違い無い。

だとしたら、騎士の中の一人や二人がいた所で、太刀打ちできないのでは?と思ってしまう。


この事は、他の人に知らせるべきではなさそうだ。

俺一人で解決できるだなんて毛頭思ってはいないが、母さんたちに話してどうにかなるような内容でもないだろうし。


「…まずは帰って、所持品の確認だな。【剣】だけじゃどうにもならなそうだし」


ダークリムーバーを使ってもいいが、あまり有効打にはならないだろう。

道中アレンの記憶から魔人という種についての知識を探ってみたのだが、どうやら奴らは高い再生能力を有しているらしいのだ。

ほぼ確実に攻撃を当てることができる反面、基本的な攻撃力が低いダークリムーバーでは、奴らに対して相性が悪いと言って良いだろう。


「……ん?なんでここに人だかりが…?」


空間収納に入っているだろう自分の武器の中から、魔人との戦いで活用できそうな物を脳内でピックアップしていると、突然視界に人が密集しているのが映った。


……家に向かって歩いていたつもりが、いつの間にか反対方向にある広場に来てしまっていたらしい。


「――あの、この人だかりは一体…?」

「ん?あぁ、竜の群れが攻め込んできているからという話を聞いたもんで、皆してここに集まって震え―――って、アレン様!?」


すぐ目の前に居た、恰幅のいい男に話を聞く。

大仰な身振り手振りで俺に説明してくれていたその男は、俺の顔を見るなり叫びだした。


……あぁ、そうか。アレンって確か貴族だったな。

全っ然貴族らしくない生活ばかり送っていて忘れていた……まぁ、風呂とか食事とか寝床とかは冒険者じゃ普通あり得ないほど高級感のある物だったが。


男の声のせいで、他の人達も俺の方を見てざわめきだした。

【地獄耳】のおかげで、どうしてざわめきだしたかもわかった。

彼らの発言をまとめると、『本来緊急事態の時は街に出ず一人家に隠れているはずのアレン・ヴィンダーグが、何故こんな場所に』という事だった。


なるほど。これまた忘れていたが、アレン・ヴィンダーグは『顔貴族』と揶揄されるくらいに見た目以外に能が無い男だった。

逆行前の俺の実力の一部くらいしか使えていないせいで『アレンって元々こんな感じだったんだなぁ』と思っていたが、俺が入る前はもっと酷かったという話を、すっかり忘れていた。

――仮にも自分の事だし、これ以上はやめておこう。


困惑する住民たちをかき分け、広場の高台まで移動する。

アレンの記憶によると、本来この場所は父さん達が演説や説明(住民が不安がるような誤解や噂話に対して、ある事無い事話す事だ)する時に使う台らしく、アレンは上ってはいけない(ケリン兄が上った時、父さんが説教していたのを陰でこっそり見ていた記憶がある)らしいが……関係ない。


「――どうも、こんばんは。アレン・ヴィンダーグです」


背筋を伸ばし、当たり障りのない挨拶をする。

突然俺が話始めた事にしばらくどよめきが収まらなかったが、全員静かにこちらを見てくるようになった。


それを確認して、恥ずかしさやら緊張やらを表情に出さないようにしつつ(アレンはともかく、俺は人前で話す経験が殆どない)話を続ける。


「今、皆さんはとても混乱していると思います。竜の大群が攻め込んでくるだなんて、こんな夜遅くに言われたら…それはもう、冷静では居られないでしょう―――しかし、もうご安心ください。竜の群れは、我が母や兄達…そして、優秀な兵士達の手によって追い払われました」

「なんだって…?」

「そ、それは本当なんですか!?」

「兵士はともかく…スー様やケリン様、ドラン様の力があれば…?」

「む、群れの中には古竜(エンシェントドラゴン)も居たって聞きましたが!?」


俺の言葉に、皆再びざわめきだす。

それもそうか。ヴィンダーグ家の人間は信頼されているが、兵士は国から派遣されたやる気のない連中が殆どだし、竜の群れ相手に戦えるのかって思うのが普通か。

事実、兵士は住民の避難以外には何もやってないからな。


だが、『俺が全員倒した。その上そいつらのボスらしき奴も倒した』と言ったところで、『顔貴族が何とか出来る訳ないだろいい加減にしろ』と住民たちの怒りを買って信頼を失うだけになるだろう。

それなら、並みの大人より強い(アレンの記憶調べ)母さんや兄達がやった事にすればいいだろう。

ついでに兵士も頑張ったよ的な事を言って、俺については触れさせないようにすればいい。

母さんが『本当にアレンが』的な確信を得ない限り、俺の名前は出ないだろうし。


「落ち着いてください。――確かに、疑問はあるでしょう。抱いて当然です……ですが、竜の群れの脅威が去った事は事実……ならば、自然とわかるはずです。我々を救ったのは、救うほどの力を持ったのは誰かと」

「…そう、か…流石はスー様方だ!!」

「ドラン様の活躍、見たかったなぁー…」

「ケリン様も、最近はいい人なのよ。私達を守るために戦ってくれたみたいだし!」

「やる気のないただ飯食らいかと思ってたけど、見直したぞ兵士達!」

「ヴィンダーグ、万歳!!」

「「「「「ヴィンダーグ万歳!!ヴィンダーグ万歳!!」」」」」


この場に居ない功労者たちを褒め称え、万歳万歳と叫ぶ人々を見て、ほっと一息。

どうやら成功したらしい。


…【魅惑の声】の、『発言に疑問を抱かせない』能力と、『異常に興奮させる』能力が無ければ、ここまでうまく行かなかったかも知れない。

今まで使った事等一、二回しかなかった技能(スキル)だが、アレンなら使えるな。

…というのも、【魅惑の声】の効果の強さは使用する人間の魅力に比例する為、見た目に気を遣っていなかったかつての自分では、効果が殆ど無かったのだ。


そりゃ無精髭とか隈とかボサボサな髪とかのいい年した男を見て魅力を感じる輩なんて、そうそう居ないだろうしな。

水浴びくらいしかできなかった事や、魔物が多く生息する地帯に籠って殺し続けたせいで血の匂いがしみ込んでいたのも魅力を少なくした原因になっているだろう。


「――ちょっと待って!!」

「……あっ、スー様だ!」

「ドラン様も、ケリン様も居るぞ!」

「ありがとうございます!あなた方は英雄です!」

「おかげで、僕達は生きてる!」

「…違う!」


突然現れた母さん達に感謝の言葉を伝えていた住民達だったが、母さんの強い否定の言葉に、一気に静まり返る。

…違うってなんの話だよ母さん。そこは素直に『私達の手柄です。ドランとケリンと私…後兵士の力で竜を追い払いました』って言おうよ。


無言が続く中、母さんが大声を出す。

その内容は、俺からすれば予想していた、民衆からすればあり得ないものだった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!私達は、何もしてない!」

「――はい?」

「…な、何をおっしゃるんです?」

「まさか…スー様は冗句が達者なようで」

「……事実だ」

「…ドラン様?」

「死体を確認して、()()を確認してわかった。――やったのはアレンだ。俺達でも…勿論、他の誰かでもない」

「まじか」


ケリン兄の発言に、素で驚く。

…そうだ。殆ど【足場生成】で作った足場に乗っていたせいで、足跡を気にしてなかった。

盲点だったなぁ…と結構ショックを受けている俺に、住民達も「もしかして…?いやまさか…」とざわめきだす。


うーん、ポーカーフェイスが苦手な自分が憎い。

ついさっきまでは緊張だのなんだのを押し込めていたのに、少し動揺するような事があったらこれだ。

何なら【真顔】とか【無表情】とかいう技能(スキル)があれば良かったんだが…


「あ、あの!」

「あっ、はい」

「…本当に、アレン様が…?」

「……信じてもらえないでしょうけども」


町娘の典型、というような少女の質問に、項垂れながら答える。

今この場で嘘を突き通せば、恐らく母さんやら兄達やらに説教されるだろう。

どうやら彼らは普遍的な冒険者と違い、ただで手柄を手に入れる事を嫌うようだ。

……なんというか、周囲の環境的には前の方が良かった気がする。


()()アレン様が…?」

「嘘だろ?だって俺達が避難するくらいの…」

「竜って、冒険者でも四人で挑むもんなんだよな?」

「実はアレン様って…」


見事に混乱している。

そりゃあそうだろう。強者揃いのヴィンダーグ家で、唯一見た目以外の取り柄の無かった俺が、自分たちが恐怖していた竜の群れを追い払ったと言っているのだ。

信じられなくて当然…だが、彼らが最も信じるだろう母さんや兄達が「アレンの手柄」だと話しているのだ。

信じるべきか、信じないべきか…そもそも、竜が本当に居たのかという事すら疑念に持ち始めている人すらいる。


――居心地も悪いし、もう帰ろう。

ここで困惑しているよりも、一人で魔人の事について考えた方がいい。

滅多に人前に出るわけじゃないし、今皆にどう思われているのかとかこれからどう説明すべきかとかを考えるのは無駄なのではとも思うし。


「…取り敢えず、帰りますね。皆さんも、今日はゆっくり休んでください」

「あ、ちょっと」


呼び止める声を無視して、その場を急いで離れる。

去り際に、母さんから「言いたいことがある」と言いたげな目を向けられるが、気にせず走る。


……魔人魔人って言ってたが、まずは目の前の問題を片付ける方が先だな。

なんて考えたのは、内緒だ。

しばらく新しく投稿した話に掛かり切りになるので、更新はお待ちください。

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