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第零話 逆行


「なぁ爺さん、本当にこれでいいんだよな?」

「あ、あぁ……」


目の前で魔法陣を描く青年を見つつ、少し後ずさる。

別に魔法陣を書いている事自体が特異と言うわけでは無い。

魔法に詠唱や陣は不要とされるようになった現代でも、未だに使う人間は少なくないからだ。

青年は基本詠唱等は不要とするタイプの人間だが、そう言った人間が気分の問題で使用するのもまた、多々ある事であるし。


しかし、この光景は異常と言う他なかった。

辺り一面に、大量の魔物の死骸。

どれも様々な国で危険種認定されている、数十人単位で挑むような魔物ばかりだ。


その血を使って、青年は魔法陣を描いていた。

別段魔法陣を描く際に生贄を使用するのは一般的だが、量と質が異常だった。

この死体の山の中から無造作に一つ選び、それだけを贄としても十二分の成果が得られるだろうに、青年は態々五百二十の危険種を贄としているのだ。


「…これで発動しなかったら、今日の晩飯奢れよな」

「老人を何だと思っとるんじゃ……じゃが、術そのものに問題はないじゃろう。『輪廻逆行』の秘術を発動させるのに、その贄は充分じゃろうしな」

「でも…そんな大魔法、この程度の数で足りるのか?」

「数分でこの数殺しておいて何を言っとるんじゃお主は」


そう。

数十人でようやく相手が出来るとされる危険種を、この青年はたった一人で殺したのだ。

それも僅か十分。

大陸同士を渡らねばならないような敵も数体居るというのに、だ。


……全盛期の儂でも、十分じゃ十一体殺せるかどうか…


「…これが本当に成功したら―――俺は、こんな奴等よりもずっと強い奴と戦えるんだろ?」

「こんなて……まぁ、そうじゃな」


透き通るような目をしてこちらを見てくる青年に、呆れながらも返答する。

この状況…『輪廻逆行』の発動目前という状況を作り出したのは、元をただせば自分のせいだ。


もっと強い奴と戦いたい…そんな事を言ってきた青年相手に、『儂が生まれるずっと前の時代は、それはもう魑魅魍魎が跋扈していたらしい』なんて教えた挙句、『輪廻逆行を使用すれば、もしかしたらその時代に行けるかもしれんのぉ』なんて事まで言ってしまったのは自分の失態だ。


…その時はまさか本当にやるなんて思っても居なかったし、話を鵜呑みにされるとも思っていなかったから仕方ない、という事にしておこう。


「じゃが、失敗すれば過去の自分も現在の自分も消滅することになるんじゃぞ?」

「その時はアレだ、魔法の方が俺より強かったって事だ」

「……何故そこまで強さにこだわる?」

「…なんで、だろうな」


少し悩む素振りを見せた青年だったが、どうでもいいか、と言って頭を振り、魔力を魔法陣に流し始めた。


「…じゃ、行ってくるわ。そこの死体、好きにしていいから」

「そんな軽いノリで言われてものぉ……達者でな」

「おう、付き合わせて悪かったな。じゃ!」


言い終わると同時に、魔法陣が強く輝いた。

視界が光に塗りつぶされ、風が吹き荒れ、地面は激しく揺れた。


数分後、突然何も起きていなかったかのように全てが収まり、後には自分と、山のように積まれた死体だけが残った。


「…成功か、はたまた失敗か……何れにせよ、面白い男じゃったな」


様々な感情が混ざったような笑みを浮かべつつ、小さく呟くのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


……あー…生き、てる?


全身で感じる『冷たい』という感覚に、遠のいていた意識が戻ってくる。

それと同時、今までの記憶…『輪廻逆行』を発動するまでの記憶や、自分の物ではない謎の記憶が脳裏を掠る。


「成功か!?」


若干高くなった自分の声に驚きながらも、その場から起き上がる。

どうやら自分は床に落ちていたらしく、すぐ隣には柔らかそうな布団があった。


「記憶でわかっていたとはいえ、こんな高級そうな布団……恵まれてんなぁ昔の俺」


部屋の中の豪華さからすぐにわかるが、どうやら過去の俺は貴族だったらしい。

俺の物ではない記憶…いや、今となっては俺の記憶か。

その記憶にも、貴族の三男坊としてそれなりにいい生活を送っていたとある。


「魔法の説明が爺さんの言ってた通りなら、筋力とか魔力とかは俺のままなんだが…」


一番の懸念事項をどうやって確認しようか思案しつつ、布団をベッドの上に置く。

ついでに家や部屋の間取りを記憶を遡って確認し、鏡のある部屋を見つける。


能力云々は直ぐに試せないが、見た目の方は直ぐに確認できるだろう。

もし逆行前の俺のままなら、侵入者扱いされて追い出される可能性だってある。

能力も大事だが、こっちも大事だ。至急確認しよう。


「…っと、まずは着替えるんだっけか」


寝巻きのまま外に出てはいけない、という事を思い出し、クローゼットを開ける。

中には豪華な服や、動きやすさを意識した服等様々な物があり、逆行前の自分では考えられない光景になっていた。


「…えーっと、コレはパーティー用?そんで、コイツが訓練用で…薬学研究用の服、社交用の服、儀式の時の服……いや多いな!?」


一々手に取って記憶と照合しているが、如何せん数が多いせいではかどらない。

余りに遅すぎると使用人が確認しに来るらしいのだが、逆行前のままの顔かそうではないのか分かっていない今、誰かに会うのは非常に危険だ。


だからさっさと探さないといけないのだが…


「………あった!」

「アレン様?起きてますか?」

「ヒュッ」


お目当ての服を見つけた次の瞬間、扉がノックされ、老人の声が聞こえてきた。

余りに驚きすぎて喉から変な音が出たが、すぐに返事をしないと扉を開けられると分かっているので急いで返事をする。


「お、起きてる!起きてるよ!」

「左様ですか……もう朝食はできてますよ」

「あ、あぁ……すぐ行く」


部屋の前を立ち去って行っている音を聞いた後、ほっと胸を撫で下ろす。

まだベッドで眠るという夢を達成していないのだ、そう易々と追い出されるわけにはいかない。

…まぁ、これで逆行前の顔なら、ベッドで数分寝転がってから逃げ出すが。


急いで服を着て、部屋を出る。

…というか、貴族の部屋には姿見がある物だと思っていたのだが…何故無かったのだろうか。


「ここか」


鏡のある部屋…浴室に入り、意を決して自分の顔を見る。

そこには、黒髪に碧の目をした、見知らぬ自分が居た。


「…よ、よかったぁ…」


どうやら、顔は変わっているらしい。

…体格が余り変わっていなかった時点で気づくべきだったのだろうか。


一応少しは記憶の物と変わっているから、筋肉量等は変化していると判断していいだろうが…

それはまぁ、朝食後にでも確認しよう。

そう思い、浴室を出て食卓のある部屋に向かう。


記憶を見た時から思っていたが、広すぎじゃないだろうか、この家は。

まぁ逆行前の家は風呂無しトイレ無し台所無しの『部屋』だったからな。

そのせいで無駄に広く感じるのか。


「っと、ここか…さっさと入るか」


記憶と照らし合わせ、食卓のある部屋だと判断してから入る。

中では数人がもう座っており、一人分の席だけが空いていた。


「おはようアレン、遅かったじゃないか」

「あっ、あぁ…寝坊しちゃって…」


…先程から言い忘れていたが、ここでの俺の名前はアレンだそうだ。

アレン・ヴィンダーグ。ヴィンダーグ家の三男坊で、容姿と人脈だけが取り柄だと言われているらしい。

…貶されてんなぁ…


長男がドラン・ヴィンダーグ。魔法の才能はてんで無いらしいが、その分近接格闘や弓術等が秀でているらしく、社交力もそれなりに在り、薬学等も平均以上は出来るとのこと。


次男はケリン・ヴィンダーグ。剣術や弓術…そして人間性以外はすべてが優秀のようで、そこさえ目を瞑れば、ヴィンダーグ家において一番の実力を持つと言われているらしい。

今はまだ未熟だが、磨けば必ず光る…だとか。


長女はルン・ヴィンダーグ。戦闘以外の全てに秀でているらしく、殆どがトップクラスらしい。

その分攻撃魔術や護身術以外の武術は圧倒的に不得手のようだ。


父親はジェイ・ヴィンダーグで、母親はスー・ヴィンダーグ。

母親が元冒険者(冒険者とは、依頼を達成し報酬を受け取る職業で、逆行前の俺もその職に就いていた。ギルドと呼ばれる所で手続きを済ませれば、誰だってなれる)らしく、ある依頼の報酬を受け取る際に出会い、ジェイが一目惚れ。

スーは当時彼氏募集中だったという事もあり、両親の反対を押し切って交際を開始したのだとか。


「…豪華だなぁ…」

「何言ってるんだい?いつもこんな感じだろう?」

「あっ、いやっ……何と言うか、こうして恵まれてるって事を再確認するのも大事じゃないかなーって」


ドラン兄に不思議そうに首を傾げられ、一瞬戸惑うが、何とか取り繕う。

…そうだった。貴族からすれば、こんな豪華な食事も普通だった。


かつて参加するように強制された貴族の会食の風景を思い出しつつ、柔らかいパンをかじる。

…ずっと、パンは堅い物だと思っていたな…


「はっ、顔貴族サマは中身を綺麗にしようと躍起になってるってかぁ?」

「ケリン!」

「あ、あはは…」


顔貴族とは俺の蔑称のようで、ヴィンダーグ家を疎ましく思っている他の貴族や、貴族なんて皆クズしかいないぜー!っと尖っている連中が挙って俺の事をこう呼んでいるらしい。


可哀そうな奴だな、アレンって。

…いや、今は俺の事じゃん。


「いやいや、逆に羨ましーわ。こんな恵まれた家系に生まれて、その癖秀でた所が顔だけなんてさ」

「ケリン、言い過ぎじゃないか」

「黙ってろよドラン兄さん、コイツの存在意義って、こうして馬鹿にされる事だけだろ?」


……あー、なるほど。

記憶の中に、何故か隠されていたものがあったのだが…こういう事か。


父さんや母さんの顔を見て確信したのだが、どうやらケリン兄によるアレン(俺)弄りは日常茶飯事らしい。

余りに過激になりだしたら止めに来るが、父さんも母さんもどうしたら完全にやめるのかわかっていないらしく、こうして静観しか出来ていないようだ。


うーん、男らしく反撃してやりたい所だが、能力も顔貴族のままだったら大変だ。

調子に乗って戦いを挑んで負けて、さらに恥を上塗りするだけになってしまうのは愚劣極まりない。


ここは耐えるんだ、男らしく。


「貴族間だけじゃなくて、平民とか、奴隷とかからも馬鹿にされてんだろ?顔とヴィンダーグ家とのつながり目当ての尻軽女共にしか相手されてないって、どんな気分なんだ?」

「…あのさ、飯が不味くなるから少し静かにしてくれない?」

「……は?何言ってんの?」


…やっべ。

つい冒険者同士で会話するとき見たいなノリで返事しちまった。

耐えるとか言ってすぐこれじゃ、先が思いやられるなぁ…


ケリン兄はもちろん、父さんや母さん…果てはドラン兄とルン姉の表情も愕然としたものになっている。

…いや、ケリン兄は愕然というか、半ギレか。


「ごめん兄さん、今の無しで」

「―――舐めてるのか、お前」

「生憎男舐めまわす趣味は無いね……あっ」


不安、的中。

どうやら会話のパターン等も俺の方が色濃くなってしまっているようだ。

気を少し抜いただけで煽ってしまう。


冒険者同士だと普通なんだけどなぁ…強くて且つ気のいい人なら、『面白い奴だな!』ってなって酒奢ってくれたりするんだけど…

ケリン兄は、物凄く不機嫌そうだ。


「…いい度胸じゃん、お前。食い終わったら庭に出ろよ」

「いや、いいよ」

「お前に選択権とか無いから。――後悔させてやるよ」


俺を睨み、ゆっくりと部屋を出ていったケリン兄。

その後、部屋は数秒間静寂が支配した。


「……あの、アレン?」

「姉様…どうかしました?」

「その、どうしてあんな……ケリンに…」

「あぁ。僕も同意見だよ、ルン……なぁアレン、一体どうしたんだ?雰囲気もいつもと違うし、まるで…」

「あ、アレだよ!本に影響されるってやつ!全ッ然大丈夫だから!ただの痛い時期だから!」


別人のようだ、と言おうとしたドラン兄の言葉を遮る。

遮ったはいいが、言ってしまった内容がそれほどよろしくないのが大問題か。


アレンはそこまで本を読まないタイプだという事はわかっていたのに、何故本に影響されるなどと言ってしまったのだろう。

俺が読んでいた本も、魔物の生息地がまとめられた本とかだけだし…


「本?アレンは本を読まないだろう?」

「……いや、話を合わせたり、小粋な冗句を言ったりするのには本を読むのが一番かなぁって」


人脈だけが取り柄だし、もっといろんな人と話を合わせられる様にしないとねー…とかそんな事を言いながら、急いで食事を終える。

余り長い間この場に居たら、早速ボロが出そうだ。


「じゃ、じゃあ俺準備してくるから!」

「なっ、待つんだアレン!」

「まぁまぁ、いいじゃん別に」

「…母さん…でも、アレンは」

「ケリンが本当に致命傷を負わせるような真似をしたら私が止めるわ。アレンがやる気なんだし、やらせてあげなきゃ家族失格よ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


本日二度目の着替えを済ませ、外に出た。


気配からケリン兄が外に居る事はわかっているのだが、すぐに会ってしまうのはまずいだろう。

……という事で、少し試そう。


「来い」


手を突き出し、ただ一言告げる。

すると、手の中に一振りの剣が収まった。


「…少なくともこれは出来る、か」


『空間収納』…その名の通り、別の空間に自分専用の収納スペースを作る魔法だ。

魔法を使える冒険者は、まずこの魔法を覚える。

覚えていないと、パーティに入れてもらう事すら不可能と言われている。

俗にいう、人権魔法と言うやつだ。


因みに「来い」と言ってきた剣はただの剣では無く、知り合いの鍛冶師に打ってもらった特殊な剣で、俺の声や意思に反応して手に収まり、果ては姿を変えたりする。


「剣技はまぁ…体に染みついてるわけでは無いけど、ある程度覚えてるし、大丈夫か」


軽く振ってみて、負担がどれくらいかを確かめる。

今までと同じ重量、サイズのはずだが、特に違和感を感じなかった。

…取り敢えず、魔力と顔以外は俺のままという事で良いか。


最悪魔法が使えなくても剣が使えるなら問題ないと判断し、ケリン兄が待っているだろう場所へ向かう。

そこにはケリン兄だけでなく、父さんや母さん、ドラン兄にルン姉、果ては数人の使用人もいた。

恐らく、俺が敗北して怪我をすることになった場合の保険だろう。


「……魑魅魍魎が跋扈するとか言う世界を生き抜いてる人間に、どれだけ戦えるかね…」

「何ブツブツ言ってんだよ」

「…いや、なんでもないよ。始めようぜ」

「では、私が開始の合図を―――始めッ!!」


俺達の間に入ってきた使用人が、咳払いをした後、声を張り上げた。


それと同時に、俺は剣を持って駆け出し、ケリン兄は杖を構えた。


―――さて、どれだけ戦えるかね。

しばらくの間次話投稿していない作品があるのにも関わらず新作を作ってしまいました。

本当に申し訳ないと思っています。


でも、このままだとなろうを触らずに一年過ぎてしまうなぁと思ったので、これしかなかったのです。



さて、本編に関する話ですが、まぁこれといって話す事は無いでしょう。

タイトル通り、過去…いや、前世(前前世、もしくはそれよりも前かもしれませんが)に転生(なり替わる)と言った内容です。

元々逆行系をやってみたかったのですが、ここ最近自分の強さに限界を感じた賢者とかそこら辺の人が未来に転生する話にハマったので、ついうっかり過去に転生させてしまいました。


どうせすぐに更新が止まると思いますが、構想が練れるうちは好き勝手やろうと思っているので、気になるという人は是非これからも読んでみてください。

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