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どうやら私は人違いにあったようだ。

「────ッ」


  ヒュッと喉が鳴り、勢いよく目が開かれ、手が伸びる。

 

  あれ?私………。


  ゆっくりと起き上がる。

  深呼吸を繰り返し、呼吸を整える。

  自分が大きなベッドに寝ているのがわかった。

  部屋も自分の部屋ではなく、かなり広い。

  天井の高さに益々眉根が寄る。

  窓も普通の窓ではなく、かなり大きく、まさに洋館の様だ。


  どこ?ここ……。


  ベッドの側に荷物と上着が綺麗に置かれており、ゆっくりとベッドから足を出した。


  ゲ。靴履いたままじゃん……。


  スニーカーのまま布団に入っていた事に顔をしかめる。


「お目覚めでしょうか?」


  声のした方へ顔を向ける。

  1人は出口へ向かい、1人はこちらに寄って来た。


「お加減は如何でしょうか?」


  深い緑色のワンピースに白いエプロンドレスを着た女が聞いてくる。


「大丈夫です。あの、ここは?」


  外国の人の家かな?

  メイドさんみたいな人いるし、こんな凄い部屋なんてきっとお金持ちだよね。

  あの辺に洋館の豪邸あったっけ?あぁ、もしかして見つけて車で自宅に運んでくれたのかな?


  自分がいた場所と豪邸が立ち並ぶ辺りを思い返してみる。

  しかし、全ての家を知っているわけでないので意味は無い。


「姫君のお部屋でございます。どうぞ何なりとお申し付けください」


  恭しくカーテシーをする女に目が点になる。

 

  初めて見た。リアルカーテシー。


  明後日の事を思い、ボーっとする。

  しばらく沈黙が続き、こめかみに手を当て、混乱する頭を整理しながら口を開く。


「………えっと、大使館?違う。……どこかの国の姫様のお屋敷なのね?あの辺にそんなのあったかな?

  あ、あの、今何時ですか?」


  あ、模試。

  もう始まってるんじゃない⁈


  勢いよく立ち上がり、テーブルに置かれたコートを羽織るとリュックを背負う。

  片手に参考書を握りしめる。

  返事を聞くのももどかしく、腕時計を見る。

  時計は15時を過ぎていた。


  終わった……。サイアク。


  急にキビキビと動き出したと思ったら時計を見て呆然と佇んだ。

 

「あの、しばらくお待ちくださいませ。今王子に報せに行っております」

「おうじ?」


  聞き返した所で、ドアがノックされた。


「レンドール様でしょうかね。お開けしてもよろしいでしょうか?」


  メイドに聞かれ、静かに頷く。

  それを確認してからメイドはドアを開けた。


「お目覚めになられたと聞きましたが、もう入っても?動けるようでしたらこちらでお食事でも……」


  綺麗な長い銀髪を背中で一つに束ねたレンドールがドアから話しかける。


「うわぁー。王子様だー」


  中世ヨーロッパ辺りで着ていそうな貴族の服を身に纏った綺麗な顔立ちの青年がそこに居た。

  まさにリアル王子様だ。

  今時、海外の王族でも普段はラフな格好をし、正装はしていない。

  映画やアニメ、絵本に出て来る貴族や王族の様な衣装に普段から身に付けているという事はこれからパーティか何かあるのだろうか?と、トンチンカンな考えを巡らせた。


「王子?いえ、私は王子ではございません。王子は今呼びに行っておりますので宜しければこちらでお待ちいただけますか?」


  王子かと見間違えた青年はドアの向こうを指し示す。


「そうですね。助けていただいたお礼も言っていませんし」


  さっき、そこの人は姫の部屋だと言っていたと思うけど、聞き間違いだったのかな?とにかく、どう急いでも模試は間に合わないからお礼は言わないと……。


  案内されるままに進み、これまた広い豪勢なリビングのソファーに腰掛けた。


「背中の荷物を下ろされてはいかがですか?」

「あ。はぁ…有難うございます」


  背中のリュックを下ろそうとすると側に控えていたメイドがいつのまにかいて「失礼します」と、手伝った。


「上着も脱がれますか?」


  言われ、上着も脱ぐ。


「お預り致します」


  そのまま荷物と共に持って行こうとするのでさすがにそれは丁重にお断りした。

  リュックに参考書をしまい、荷物を傍らに纏めると改めて前を向く。


「あのー……」


  話し始めたその時、タイミング良くドアが鳴り、2人はそちらを見やる。


「ちょうど殿下も来られたようですので良かったです。丸一日以上眠っておられましたのでお腹は空きませんか?軽食を用意させています。少しお待ち下さいね」


  銀髪の美形のセリフに眼を見張る。


  そんなに気を失っていたんだ。

 

「おまたせ。無事目を覚まされた様で本当に良かった。お加減は如何ですか?」


  席を立とうとする銀髪の人と私に、その人は手で制し、直ぐに彼の隣に腰掛け、付き従う様に後ろを来た青年も腰掛ける。


「助けていただいたようで有難うございます!

  ベッドに寝かせいただきすみません。有難うございました。

  ……えっと、あの、ベッドなのですが、靴のまま布団に入っていました。綺麗なベッドにすみません」


  ソファーがかなり良い物で体が沈む。なのでバランスを取りやすく浅めに腰掛け直し、深々と頭を下げた。


「いや、それは気にしなくて良い」

「悪い。靴を履いていたんだな。見慣れない物だから勝手が分からず…」


  軍服みたいな服を身に纏った男が頭を下げた。


  スニーカーを知らないなんて……。どこの国かなぁ……。


  衣装から欧州だと検討を付けたが、スニーカーを知らないとなると皆目見当がつかなかった。


「まぁ、アレだ。自己紹介をさせてもらっていいかな。私はこの国の第二王子アレクサンドル・L・ディアス。こっちが宰相の次男レンドール・フィアス。そして彼が護衛のシャースリーン・ランバード。聖女様のお名前をお伺いしてよろしいでしょうか?」


  真ん中に座る茶金髪の外国人はアレクサンドルと名乗り、銀髪の美青年をレンドールと紹介した。

  反対側に座る軍服みたいな服を着た彼を護衛だと説明したのは、なるほどと納得出来た。

  軍服は世界共通らしい。


  しかし。


  突っ込みどころ満載過ぎてどこから突っ込んで良いの?


  呆然と前に座る三人を見るしかなかった。


  彼は今、何と言った?

  この国の第二王子と名乗らなかっただろうか?

  いつから日本はこの外国人の国になった?


  一日寝たら王政に?

  どこかに征服された⁇


  ンなバカな⁈


  いつから王政に?

  国会どうした!総理大臣どこ行った⁇


  いや、今この人変な事言わなかったか?


  ────誰が聖女⁇


  ゆっくりと後ろを振り向く。

  誰もいない。

  反対側から見ても、誰もいない。

  右を見ても、左を向いても誰も居ない。


「まず、聖女様は人違いとして……。

  介抱していただき、有難うございます。丸一日も眠っていた様ですみません。

  私は、佐藤 恵理奈えりなと言います」


  再度深々と頭を下げてお礼を述べ、相手が話そうとする気配を感じながらも、恵理奈は間髪入れずに話し出す。


「これ以上ご迷惑をおかけする訳には参りません。お礼は改めて親と共に参ります。ですので今日はこの辺で失礼致します」


  ヤバイヤバイヤバイ。

  これ、なんかヤバイやつだ。

 

  胸がザワザワとして仕方がない。


  早く帰らなきゃ。


  恵理奈は荷物を掻き抱き、素早く立ち上がるとアルカイックスマイルを浮かべ、大股で、半ば駆け足になりながら出口へと向かう。


「お待ち下さい!エリーナ様」

「待て!」

「エリーナ様」


  一瞬、意表を突かれた形になった三人はワンテンポ遅れて素早く立ち上がり、シャースリーンが飛び出す。


「お待ち下さいませ姫君。お食事も今ご用意致しております。どうか、どうか話を!」


  入り口に控えていたさっきのメイドが二人とも跪き、恵理奈に乞う。

 

「ちょっ、やめて下さい!私は姫ではありません。人違いです」


  思わずギョッとなった恵理奈は後退り、そこに気配を感じ、避ける。


「聖女様、どちらに行かれるのですか!」


  声と共にいつのまにか距離を詰めたシャースリーンの手が空を掴む。

  腕を掴むつもりだったのだろう。

  それをかわされ、シャースリーンが目を見開く。

  恵理奈はキッとシャースリーンを睨み上げると毅然と言い放つ。


「私は家に帰ります。助けてくれたみたいですが、すみません、人違いです。

  私は姫ではありませんし、聖女でもありません。

  ただの日本の女子高生です。もうすぐ大学受験なんですよ。模試だってこんな事故に遭ったせいで受けれなかったし、親に連絡もしてませんよね?私の親も心配してると思います。だから一旦帰ります」


  連絡もせず無断外泊はおろか、外出さえした事は無い。

  急に友人に誘われたとしても携帯で必ず連絡はしていた。だから親が心配しているだろう事は容易に想像出来た。


  一気に捲し立てる様に言い切った恵理奈を前にシャースリーンがグッと小さく呻き、固まっているのを無視し、恵理奈はソファーの方へ顔を向け、頭を下げると再び出口へ向き直った。

  素早く上着を着直し、リュックを肩にかけて歩き出したところで鋭く声が響く。


「待ちたまえ」


  威圧の込められたそれに恵理奈の足が止まる。

  ゆっくりと首だけで後ろを見る。


「いや、待って下さい」


  アレクサンドルがハッとなり言い直し、険しい顔を直ぐに穏やかに変えた。


「すみません、エリーナ様。貴方が認めなくても、貴方が嫌がろうとも。

  申し訳ないのですが、貴方はこの国の聖女様です。どうか話を聞いてもらえませんか?」


  それは否を言わせない強制。

  それでも恵理奈は聞きたいとは思えなかった。

  チラリと出口を見る。


  2人のメイドが涙目で跪き、塞いでいた。


  思わずギュッと眉根が寄り、奥歯を噛み締める。

  逃げられない現実に腹立たしさが募る。


「私はここでどれくらい寝ていましたか?」

「正確には26時間と聞いています」


  最初、王子と間違えた銀髪が答える。


  26時間……。


  与えられたヒントを元に考える。

  人種も白色系、髪色もアジアや中東ではない。

  内装も見た感じ、ヨーロッパ系だ。

  恵理奈はふと上着の内ポケットから携帯を取り出した。


「親に連絡してみます」


  日本なら通じる。

  海外でも今は割高でも使えるはずだった。

 

  しかし、残念ながら携帯は圏外。

  携帯の日付は模試の日から二日経過していた。

  キュッと眉間にシワが寄る。

  でも、二日という事は考えたくないが、ここが日本ではない事も考えられなくはない。

 

  イギリスへ所要時間は13時間ぐらい。

  欧州ならばだいたい12時間〜16時間。

  20時間以上の移動時間はカナダ、ブラジル、中東やアフリカ。

  消去法的にカナダか欧州。視覚的にはやはり欧州圏が濃厚となる。


  間違えられて連れて来られたか…。


  恵理奈は深く溜め息を吐き、携帯を内ポケットに仕舞うと唇を噛み締めた。

 

  大使館に行くしかない?取り敢えず、逃げるにしても話は聞かないと。

  情報収集しなきゃ。


  嫌な汗が背中を流れるのを感じ、必死に冷静になろうとする理性を嘲笑う様に心臓は早鐘を打つ。


  落ち着け。考えろ。考えるんだ。

  そう言い聞かせながら、今までずっと黙ってこちらを静かに見ていたアレクサンドルを見る。


「携帯も圏外でした。すみませんが、親に連絡をしてもらえませんか?

  後、ここはどこでしょうか?」


  少しは話す気になった様子にアレクサンドル達はあからさまにホッとした様な顔になり、緊迫した雰囲気が和らいだ。


「取り敢えず、席に。シャスももう戻って来て」


  促され、恵理奈とシャースリーンは再び席に戻る。

  メイドが素早く恵理奈の荷物と服の介助に入ろうとするのを首を振り拒否し、そのまま彼らに対峙した。

  何かあれば直ぐ逃げれる様に……。


  それはアレクサンドルにも分かった様で、彼は苦笑を浮かべた。


お読みいただき有難うございます。

本日は纏めて何話かUPする予定です。順番にお気をつけて下さい。

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