まだ私が進路で悩んでいた時。
この辺りでは下手な私学へ行くより公立へ行く方が難しい。
男子は私学に全国区のトップクラスの進学校があるが、女子は微妙だった。
私学も悪くは無いが、私は公立を選んだ。
校則上、髪の色を染めるのは禁止されていた。
それでもやはり薄く茶色に染めたりする子は後を絶たない。ただ、受験生になるとみんな黒に戻す。
私も興味はあったが、親が面倒だから髪は染める事をしなかった。
成績はずっと上位にいて一位、二位争いをしてきた。
周りからは親が医者だから出来て当たり前という評価を受けてきた。
親は確かに優秀かもしれないが、残念ながら私は違った。余り努力をしなくても要領良く勉強をし、優秀な成績を収める人がいる中、私は残念ながら努力をしなければ優秀な成績を収める事は出来ない部類の人だった
努力をして結ばれるだけ良いと言えば良いのだろうが、周りでは要領良く遊びつつ成績も上位を収める人がいるので正直なんとも複雑な心境だ。
受験を目の前に控え、私は歩きながら本を読むのは普通の事だった。
だから今日も今日とて本を読みながら歩く。
今日は模試の日だから。
私には兄弟はいないが、実に優秀な従兄弟がいる。
本心は分からないけど、表面上の性格も穏やかだし凄く出来た人だった。
いつも比較対象が従兄弟だったせいで、親からはずっと「お前が男だったら良かったのに」と言われて育ってきた。
じゃあ弟でも作ればいいのにと小さい頃言えば、母に泣かれた。
私を産んだ時に死にかけた母はもう出産が出来ない状態らしい。
だから、私なりに男に負けない様に勉強もスポーツも頑張った。
でも、少し身体が弱いせいでスポーツは大して成績は上がらない。
直ぐに息が上がり、持久力がないのだ。
色々なスポーツをして剣道が気に入ってやっていたが、どうしても連戦になると息が上がる。
心肺機能に良い水泳や筋トレもしても呼吸は強化出来なかった。
途中から母に言われてヨガとピラティスを取り入れてみて、多少は上がってもそれは所詮『当社比』というもので、やはりみんなよりは持久力がなかった。
けれども、運動をしたおかげか、身体が少し丈夫になり、風邪などはひきにくくなった。
小さい頃から、親の仕事を見ていたから医者になるつもりでいた。
当然、周りもそういう目で見ていた。
幼い頃は父の膝の上で解剖学の本を見たり、教えてもらったりしていた。
ついこの間まで、私は医学部を目指していた。
選択科目も当然、理系だ。
なのに、今更、ここに来て、この土壇場で。
優秀な従兄弟が、医者になり父の跡を継ぐ事になった。
なぜ?どうして?
成績は全然問題ない。
国立も十分合格圏内だ。
意味が分からなかった。
余りの事に、理由を聞き返す事も出来なかった。
むしろ、成績だけなら従兄弟より優秀な筈だ。
本当に、理由が分からなかった。
急な事だった。
でも、私は親に嫌われたくなくて。
私の口から出たのは……。
「分かりました。じゃあ、弁護士を、目指そうかな」
その職種しか出なかった。
今更、何になれと?
同じぐらいの難易度が直ぐに出なかった。
やりたい事なんて他になかったのだから。
それでも、医者になりたいです。そう言えたら良かったのだけど。
私は言えなかった。
けれど、まだ理系の模試を受けるのは、足掻いても意味が無いと分かっていても、まだ気持ちが整理出来なくて。
このままじゃダメだと分かっていても、どうしたらいいのかわからなくて、時間だけが過ぎていく。
誰にも相談出来なくて。
みんな私が医学部を受けると思っていて。
みんな私が医者になると思っている。
ただ、親だけは望んでいなくて。
数学の勉強は余り必要ないけど、でも数学が一番無心で出来るから逃げる様に数式を見て、解いていた。
他の科目も勉強するけれど。
物理も生物も化学も、もうここまでする意味が無いのに、勉強してしまう。
私が、我慢すれば良いだけなのだ。
男に生まれなかったから、仕方ないんだ。
頑張ったんだけどなぁ………。
この空虚な気持ちを表す様に、気が散っていたのだろう、足を踏み外した。
溝にはまった?
深い。
地面に穴でも空いていた?
そんなバカな。
マンホールが開いていた?
立て看板とか囲いも無いなんて危ないじゃん。
足を踏み外し、暗い暗い穴に落ちる。
声が出ない。
なんでこんな深い穴が……。
勢いよく落ちていき、私はいつのまにか意識を失っていた。
確か、センター試験の締め切りが9月下旬。
大学の願書はは11月か12月だったような?
しかももうセンターなくなるしね!
ちなみに、主人公の親が主人公に家を継がなくていいと言ったのは夏休みにしてます。
私が主人公なら「クソジジイ!今頃言うな!ふざけんなバカヤロウ!」と、心で罵詈雑言吐きつつ、実際は。
「は?今更?何言ってんの?じゃあ進路どーすんの?将来医者しか目指してなかったんだよ?意味わからん。ちゅーか言うの遅いわ!」と、罵らずにキツく言うだろうなぁと思います。