序 章
すみません。一部表現を変えました。
村外れの森の入り口から小さな子どもが二人、転がり込む様に村の中心へ向かって逃げてきた。
「助けて!魔物がッ……」
「わぁッ」
ズシャッと派手な音を立てて一人が足元の石に蹴躓いてすっ転ぶ。
「お兄ちゃん!」
先を行く少女が立ち止まり、振り返る。
コケただけではないのだろう。少年は既にあちらこちらと傷らけだ。
少年は顔を上げる。
「リア!先に行け。自警団を呼んできて!」
「あ、ぁぁっ…。で、でも……」
小さな少女はガタガタと震える。
地面に転がる兄を見て、そして、逃げてきた先を見る。
「早く行け!このままじゃ二人とも助からないから!」
悲鳴にも似た声で叫ぶ。
しかし、少女は震えたまま首を振る。
「お、にぃちゃん……も、も、もぅ」
恐怖に怯え、膜を張った瞳にそれが映し出される。
少女はへにゃりと座り込む。
少年は首だけで振り返り、絶望を垣間見る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
少年は叫び、両手で頭を覆い、小さくなった。
ザンッ。
身を竦めて震えていた少年はいつまでたっても来るべき衝撃が来ない事に訝しみ、腕を緩める。
そろりと隙間から目線を彷徨わせるとフワリと体が浮いた。
暖かな温もりを感じ、顔を上げる。
「お兄ちゃん!」
「ごめんね、怖かったよね。もう大丈夫だよ」
妹と、見知らぬ女の人に抱き締められ、少年は戸惑う。
恐怖の先に目をやると二人の若者が小突き合いながら魔物の群れを一掃していた。
「ぁ、ぼく……」
震えながら少年は撫でる女の人を見る。
陽の光を背にキラキラと輝く、美しいひと。
「助かったよー!良かったよー」
少年に抱きついて少女が泣く。
綺麗な人が撫でる先は優しい光が灯り、暖かな温もりと共に傷が癒され、その光が染み込む様に、あの絶望的な恐怖が払拭される。
「聖女様!」
少年は我知らずそう叫んだ。
光り輝くその様は、まさに教会で聞いた姿そのままだったから。
すると彼女は苦笑した。
「聖女様じゃありません。ただの通りすがりの旅人だよ」
困った様に言って、彼女は少年の頭を撫で続けた。