証拠
「なあセイ。悔しいけど証拠が無い。第一の遺体発見場所の2階の子供部屋クローゼットに子ども達が閉じ込められていた痕跡は無い。衣服とオモチャで一杯や。他の部屋も同様、何も出なかった」
マユの推理を、裏付ける証拠が無い。
こども達が柵を越えた証拠も無いのだが、
柵内の足跡は事件後の雨が消してしまったと考えられ、
柵から指紋を採るのは困難。
どちらも証拠が無い。
しかし、
状況から考えて子ども達4人が自分たちの意志で池へ行ったと考える方が自然だ。
子ども達は靴を履いていた。
150センチの柵を越えるのは不可能では無い。
幼稚園のジャングルジムより低いのだから。
「事故に、なるの?」
マユは残念そうな顔で言った。
薫は疲れていたのか、少しの酒で眠ってしまった。
毛布を掛けてやり、
パソコンの前に移動したら
マユが隣に居た。
「物証が無い。でもどんな物が証拠になるんだろう?」
「難しいわね。例えば眠った子ども達をクローゼットに隠していたとして、クローゼット中に、子ども達が居た痕跡が有っても、犯行とは直接結びつかないわ」
「それは、無かった。どこにも、無かった」
「隠していたに違いないのよ。でも指紋も髪の毛も出なかった。何故かしら? 痕跡が残らないように工夫したのかな? たとえば大きめのポリ袋に入れた状態でクローゼットの中へ…」
「……ちっちゃいから、すっぽり入るね」
「以前から計画した犯行ではない。家の中に有る物、ポリ袋が一番簡単で思いつきやすい。ポリ袋が出てきたら証拠になるわね」
「子ども達の、アイシャドーやファンデーションが付いているだろうな」
「犯人の指紋もね」
「でも、すぐに処分しただろ」
「まだ家の中に有るかも。他の母親達と庭や池に行ったとき、手ぶらでしょうから」
「非常事態に携帯電話以外持って出ないか」
「A母は、他の母親たちが、2階の部屋から出て行った後、数分後に皆と合流したと思うの。それ以上長い時間の別行動は、不審がられる」
「クローゼットから3つの、子どもが入ったポリ袋を出して、中身を窓から捨てる、最短でも3分は掛かりそう。その後、ポリ袋を隠した。同じ部屋の、簡単に隠せる場所、なんだ」
「子供部屋………Aちゃんの部屋ね」
「単純にゴミ箱に捨てたとか」
「ゴミ箱は調べるでしょ。何かを入れた跡のあるポリ袋が3つ、不審なゴミよ」
「カーペットの下とか、ベッドがあったのならマットレスの下」
「いいかも。でも。平たくしないと駄目ね。丸めて隠したら外から分かりそう。1人で1分程度では出来ない」
「じゃあ家具の隙間に押し込んだ」
「捜査官に見つかるわよ。プロだもの。隙間にポリ袋って、それだけで怪しい」
「あ、ぬいぐるみの中に押し込むっていうのはどう?」
「穴を空けないと無理。そして穴を縫って塞ぐ時間は無かった」
「そうか。……一体どこに隠してあるんだろう」
「私の推理が正しかったら、ある筈なんだけど」
聖とマユは
推理上の証拠品<ポリ袋>の隠し場所を考える。
でも、他に思いつかなくて黙ってしまう。
すると、
「分かった、アレや」
突然薫が声を出した。
見れば、起き上がっている。
「カオル、どうした? 夢見たのか」
近づき、顔を覗く。
「うん。犯人がな、子ども達を、半透明の45リットルのゴミ袋に入れて、クローゼットに入れている光景を夢に見た」
「凄い。夢で推理したんだ」
聖は会話の一部が聞こえて見た夢だと、思った。
「カオル、ゴミ袋が出れば証拠になるんだな」
もう一度捜せば出るかも。
「あったんや。アレや。クローゼットの中には、オモチャやぬいぐるみ、絵本があった。それはな……3つのポリ袋に入れてあったんや」