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或る別な話

「A母は、皆を車に乗せた時に、子ども達を殺そうと、決めたのかな」

「母親達に酒を飲ませ、子ども達を殺すチャンスを伺っていた」

「でもさ、最初に死んでいる自分の娘を池に落とし、他の母親を呼んだ。皆を池に落としてから、呼んだ方が簡単だと思うけど」


「自分が子ども達の面倒を見ていた。四人浮かんで居たら、真っ先に疑われる。母親達は、A母を疑っていない。Aも被害者で、四人池に浮かんで居るのを見たのは、外へ出てから。子ども達は池の柵から落とされたと思いこんでいる」


「A母は、子ども達をどこかに隠しておいて、他の母親達が、庭を捜すように、誘導し、皆が家から出た後に3人の子を池に落とし、皆に合流したという事?」


「そうよ。D母が、A母が、他の子はどこだと聞いたと言っていた。他の子。池の死体はAと知っているから、ついそう言ったのね。どの子か分からないなら、自分の娘はどこかと、聞くでしょう」

「あ、そうか。全然気がつかなかった」

何故、マユが、犯人はA母に決まっていると言ったのか、やっと分かった。


「ところで、子ども達を、どこに隠していたのかな」

「母親達が捜さない場所よ。子ども達が一緒に居ると思い込んでいた。まず、家の中の全ての部屋を捜すでしょ。次にトイレや風呂……結果、見つからない。家には居ない。じゃあと、外へ出たでしょう」

「そうか。クローゼットを開けたりはしなかったんだ」

「押し入れとか、子どもが入れそうな鞄を調べたりはしないわ」

「確かにそうかも」

「玄関に靴が無かったら尚更。外を捜すでしょう」

「子ども達の遺体が靴を履いていたかは聞いてない。もし玄関に靴があれば、家の中だけを捜した筈だね」

「A母は、頭の良い人よ。巧く母親達をコントロールしたと思うわ」

「子ども達は、狭い処で静かにしていたんだ。A母が、何かの遊びだと騙したのかな。かくれんぼ、とかさ」

「それは違うと思う。幼い子の行動は完璧に制御できない」

「では、どんな方法を使ったの?」

「眠らせたと思うわ。薬を使って」

「睡眠薬?」

「そうね。暫く前から子ども達の気配が無かったと、A母は言っていた。庭で写真を撮った直後に薬を飲ませて……無抵抗な状態にしたと思う」

 庭で写真を撮った話は、他の母親からは無かった。

 庭には子ども達とA母しか居なかったという事だ。

 では他の母親達は何をしていたのか?


「3人でワイン5本空けているのよ……酔いつぶれていたのよ。A母は、とっておきの上等のワインを出したと思うわ。娘の死後変化が進まないように、1階の、台所とリビングのヒーターは低めの温度設定にしていた。遺体は台所に隠していたから。母親達は寒くてワインで身体を温めた。子どものことも忘れて酔った。A母は写真を撮った後、子ども3人2階に連れて行き、睡眠薬入りのジュースを飲ませたんだと思う」

「計画的犯行じゃないな。行き当たりばったりだよ。Aの遺体を誰かが見つけたかも知れない、子ども達を隠すのも、見られる可能性はあった。他の母親達が、子どもの様子を気にかけて行動していたら、犯行は無理だった」

「そうね。たとえば台所に入って手伝うとか、Aちゃんの姿が見えない事に気がつくとか、そんな人が、一人でもいたら、不可能だったわ」

母親達は自分の娘の行動を把握していなかった。

Aが居ないのに気がつかなかった。

リビングに座りっぱなしで、ただ飲み食いし、喋っていたのだ。


「あ、でもさ、D母が、B母とC母は台所と庭をウロウロしていたと言っていたよ」

「ウロウロ、でしょ。自分はトイレに1回、リビングを出ただけと言っている。他の二人もトイレにたったついでに、酔っ払って台所を覗いたり、ちょっと庭を見てみたりした程度だと思うわ。子どもの様子を気にかけて、探しに行ったのなら、ウロウロとは言わないでしょう。D母はA母では無く、酔っ払いの2人を疑っているとも考えられる」

「2人は2階には行ってないのに?」

「2階の窓から落とされたとは思っていない。家の外で何者かに拉致され、池に落とされたと、思ってる」

「そうか」

「保険金目当てに自分の子を殺す犯罪もあるでしょ。母親4人の中で、2人だけが家族ぐるみの付き合い。グルになれば何でも出来ると考えても、不思議じゃ無いわ」

「Aが死んでいたと知らないんだから、絶対A母の事は疑わないよな。……でも実はB母とC母の犯行だった、という可能性は無いの?」

「A母が子ども達の面倒を見ていたから無理よ。逆に言えばA母にしか出来なかったのよ」



翌朝、

聖は、結月薫に推理の結果を伝えた。

薫は

「あの写真、なんか気味が悪かってん。死写真とはな。専門家に見て貰うわ」

と、やや興奮した様子で電話を切った。


マユの推理は正しいと思う。

すぐにでも真相はあきらかになると思っていた。

だが事件について報道は途切れた。

A母の自白は無かったのか。


薫がふらりと工房に来たのは事件から一ヶ月が過ぎた頃だ。

もちろん、夜に。

夜食と酒を携えて、やってきた。


「どうなった?」

「……厄介な事になってる」

「写真から、犯人を責められなかったの?」

「あの写真ではAが死んでいると断定出来ないんや」

「……そうなのか。残念だな」

「A母は否定している。娘の死も犯行も」

「……推理、違っていたかな」

「いや、あの写真に関してはAが生きている事の証明になる点は見当たらない。しかし、イコール死体と断定出来ない」

「解剖結果で死因が分かるんだろ?」

「それがな、4人とも、咳止めシロップを大量に飲んでいたことが、わかったんや」

「咳止めシロップか。飲み過ぎると眠くなるんだろ。A母が飲ませて眠らせたに違いない。Aは、その日の朝くらいに飲ませたんだ。発表会なのに咳が出ていたから」


「咳止めシロップはAの家にあった物や。買い置きして2階に保管していた」

「2階に?……A母が、そう言ってるのか」

「そう。子ども達が、勝手に飲んだと言っている」

「指紋で分かるんじゃ無いの」

「指紋は子ども達の物しか出なかった」

「……そんな」

「A母は、子ども達は薬を勝手に飲み、酔ったような状態になり、外へ行き、柵を越えて池に入ったのではないかと、言っている」

「三才の子に越えられる柵なのか?」

「無理では無い。Aはよじ登って越えた事があると言っている」

「何しに池に行ったんだ。寒かったんだろ。雪が積もって……」

「その疑問にも答えてくれた。Aが誘ったと思うと」

「どうして?」

「池の水面がところどころ凍っていた。Aは氷の上を歩きたいと言っていた。母親には止められたので、友達を誘ったと」

「池に浮かんでるのが、1人から4人になったのは? A母は何か言ってるの?」

「一番最初にAが池に張った薄氷の上に足を踏み入れた。身体は沈む。しかしビニール素材の大きな羽根と、撥水性の高い生地のワンピースやから、背中の部分が水面に浮かんできた」

 A母が窓から見たのはこの時だと。

 3人の子ども達は、単純に助けに行った。

 同じように氷の上を2,3歩行って

 同じように落ちた。


「窓から池を見たんだろ? 他の子ども達も見えた筈」

「大きな池やで。窓から柵が全部は見えない。死角がある」

「そうなんだ。……でも子ども達の足跡は無かったんだろ?」

「母親4人が踏み消してしまった可能性はある。同じ道を歩いたのや」

 

A母は、マユが推理したのとは、全く別のストーリーを語ったのだ。

 



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