1人足りない
「話聞いていると、全然楽しくないママ友ランチかも」
「子ども達は楽しんでたと思いたいな。セイ、誰が、なんで、子ども達を窓から池に落としたと思う?」
「窓から、なの?」
「地上から柵を越えてでは無い。窓や」
「家の構造が一番分かっているA母が一番怪しいけど」
「一人で子ども達の相手をしていた時間もあった」
「でも他の3人にも不可能ではないよね。3人の話だと、誰がいつ、どれくらいの時間リビングから居なくなっていたか、分からない」
「そうなんや。……これが子ども達の生前最後の写真や。撮影時間は1時49分や」
薫はスマホで写真を見せた。
Aの母親が撮った写真だ。
ネット上にも被害者写真として、顔が隠され、出ているという。
「ティンカーベル、白い衣装なのか」
と驚く。
聖には有名アニメ映画のイメージがあった。緑だと、思い込んでいた。
「正確にはシルバーかな」
「羽根、大きいな」
「便座カバーの芯が入っているらしい」
「……手作り、なのか?」
プロが縫製した衣装には見えなかった。
「うん。園でデザインと生地やらを保護者に配って、各自手作り、なんだって」
白いワンピースはボリュームのある袖付き。
白い羽根は円形が4枚。
髪はアップで大きな白いリボン。
シロのタイツに、白い上履き。
想像していたのと違うコスチューム、だった。
写真の子ども達は、誰ひとり、顔がちゃんと取れていない。
その上濃いメークをしているので、顔立ちがわからない。
二人、しゃがみ、二人その後ろに立っている。
俯いたり横向いたり。
「寒かったん、やろな。雪積もってる。この薄着では寒い」
「寒い庭で何して遊んだのか」
「謎やな。劇の動画も明日送る。これもどこからか、出回ってる。それも見て、推理助けて。解剖結果が出る前に、自白させたい」
「溺死は確定ではないの?」
「外傷は無い。絞殺も含めて。殺害後に池に遺棄されたのでは無く、池に遺棄されたのが死亡原因ではある。直接の死因が溺れたのか、ショックによる心停止か、調べるには時間が掛かる」
「犯人は子ども達を2階の窓から池に……抱きかかえて、放り投げたのに、間違い無いんだな」
「自分で池にダイブしたのでは、なかったらな」
「……そんな、……しないだろ、そんな事」
「窓の周辺には子ども達全員の指紋が確認された。……母親4人の指紋も」
「母親達の指紋は、犯人以外は後から付いたんだろう」
「誰かが窓を開けて……当然身を乗り出して、池を見たんだ」
「カオル、その後、すぐに助けようとはしなかったんだよな」
「死んでいるように見えたのかな。分からない。とにかく、自分の子では無いと確認するのを優先したんや」
「成る程。同じ服だし、はっきり顔が見えてなかったら、どの子か分からないよな」
「セイ、劇の動画見せて」
次の夜、マユは最初に、こう言った。
つまり、昨夜の、薫とのやりとりを、全部聞いていたと言うことだ。
もうマユはどこからか、やってくるのでは無い。
白いヨウムが
聖の作った剥製が、
住処であるらしい。
「やっぱり、数が合わないわ」
と言う。
「何の数?」
「ティンカーベルは3人が入れ替わっている。4人じゃ無いわ」
動画を静止しながら説明する。
3人でも4人でも聖には見分けが付かなかった。
動画は舞台全体を撮ったもので、周りの子が被さっていている。
どの子も痩せていて小さい顔だ。
「3人、全然違うじゃ無い。横顔、肩の線、足の太さも」
「そうなのか……確かに3人なの?」
「ええ。ティンカーベルが一人足りない。この時から事件は始まっていたのね」
「どういう事?……マユは、もう謎が解けたの? 犯人が分かったの?」
「犯人はA母に決まっているでしょ」
「……決まっているの?」
「4人の話で分かったじゃ無いの。……分からないのは、犯行の理由でしょ。一人足りないティンカーベルがAなら、その謎も解けるわ」
「解けたの?」
「ええ、多分。でも念のため、子ども達が庭で撮った写真を見せて」
「うん」
写真をマユに見せた。
「……やっぱり、思った通りね」
マユは、2人しゃがんでいる右の子を指差した。
体育館座り。俯いるから顔はよく見えない。
「セイ、この子は死んでいる」
4人の幼女の<生前最後の写真>
だけど、
1人は死体だと、言う。