良い人の、裁き
「犯人の夫が、SNSで公開した、告白なんだ」
取調中であるにも関わらず、<自供>となるメッセージが公開された。
当然、ネットで話題になり、ワイドショーに取り上げられていた。
「マユ、これが真実らしい。君の推理は正しかった」
「A母は自分の行動については真実を語っていると思うわ。でもね、3人の子ども達を、どうして後から池に落としたのか……一番理解出来ない行動が、『こころの声に従った』というのが、すんなり受け入れられない」
「だんだん狂っていった、という事じゃないの? 心の声は砕けた精神が作り出した幻聴だと思うけど」
「正常な精神では無かった……それで罪を逃れようとしているのかも」
「犯人に同情する声が多いね。……子どもを殺された3人の母親は非難されている。被害者なのに」
匿名サイトでは、母親達のプライベートが晒されていた。
(厚かましすぎ)
(手ぶらで、家に押しかけたんだよ、親子揃ってタダメシ、タダ酒、だって)
(B母は元ヤン)
(B母C母は幼稚園で浮いていた。誰も関わり合いたくないタイプ。A母は良い人。可哀想)
「車で送迎、料理は持ち寄りじゃない。手土産も無かった。それで子どもの世話もしない。昼間からワインを飲んで喋っていた。誰だって厚かましいと思うわね。でも犯人は、一言も責めていない」
「自分の子どもが喜ぶと思って家に招待したんだ。招待した以上、もてなすのは当たり前だと考えていたとか」
「苦渋の選択かも。親しくない、娘が同じ役、以外に何ら繋がりは無い、でも断る理由が、とっさに出てこなかった。嫌々だったとしたら? 前夜の準備も負担でしか無い。そんな状況で娘が、突然死。前夜にランチの準備が無ければ、もっと娘の体調に気配りできたと思うでしょ。……Aは幼稚園の駐車場で、発表会が終わる前に死んでいたのよ。……それでもランチを続行させたのは何故?……娘が死んでしまったのは、嫌々引き受けた家ランチのせい。3人の母親に憎悪の感情が湧いてくるのが、当たり前じゃないかしら?」
犯人は、娘が死んだと分かった時点で
まず、自分を責めた。
高齢で授かった娘を自分のせいで死なせてしまった。
その事実は受け入れがたかった。
自分のせいでは無いと、思わなければ息も出来ない。
私のせいでは無い。
自分の命より大切な娘を、死なせる筈は無い。
では、娘が死んだのは誰のせいか?
……もし、家ランチの予定が無かったら、
昨夜の体調の変化に対応できたのではないか?
ランチが、災いの元凶ではないか?
家でランチ……そのせいで、昨夜は調理で忙しかった。
……でも、そもそも、どうして我が家でランチ?
……あ、
……あは、
よく知らない下品な女が、
馴れ馴れしく、腕を掴んで、
私の、腕にいきなり触ってきて、
猫撫声で……。
厚かましい3人の<ママ友>に罰を下すべきだと、思った。
娘が死んで、低レベルの、あいつらの子どもは、普通に生きている。
おかしくない?
許せなく無い?
頭の中に、<あいつらの子>を殺すプランが浮かぶ。
そのプランは、<ママ友>が厚かましければ厚かましいほど実現可能、だった。
「セイ、もし3人の子ども達を、一時入れていたポリ袋が見つからなかったら、事件では無く、子ども達が池の柵を越え、凍った水面を歩いた、事故になっていたかも知れない」
「そうだよ。不審者の情報も、不審者の足跡も、ないから」
「完全犯罪ね。ポリ袋が見つからなかったら……犯人は、自分の不注意で娘を死なせた事実は消え、恨むべきママ友3人に罰を与える事が出来た。……犯人の行動には、犯人にとっての、メリットがありすぎるのよ」




