第十一章 第二節「誤解」
「奇妙な能力を持つ娘とはおまえか?」
開け放たれた雨戸の向こうに日本庭園が見える。古い家屋だがしっかりと手入れされている。介護用のベッドの上で老人が上半身を起こし、縁側に立たされた少女を見つめていた。腕には点滴のチューブが刺さり、顔色は土気色だった。
「何のことでしょうか?」
吉澤栞里は黒ずくめに派手なネクタイの男に、左手を後ろ手にしてつかまれていた。背中には棒の先をあてられたような感覚がある。それがグイっと押し込まれる。
「とぼけるな!」
背後から低く鋭い声が耳をついた。
「まあまあ。手荒なことはするな。栞里ちゃんと呼べばいいのかな?総合病院で何かしなかったかな」
「・・・」
「わしはな、見ての通りもうそれ程長くは生きられん。末期ガンって言うやつだ。総合病院でやったように私を治してもらえないか」
「・・・」
「黙ってないで組長に答えんか!」
右手を握る男の手に力が入る。吉澤栞里は痛みに顔をしかめた。
「何のことかわかりませんが、私に何かできたとしても学校の前で拳銃を打ち鳴らすような人たちには協力できません」
吉澤栞里はきっぱりと言い放った。
「おやおや。今どき珍しく気概のある子だ。われわれが怖くないのかね」
「もちろん怖いです。ですが、人にものを頼むならそれなりの礼儀と言うものがあるはずです」
「なるほど。これはまいった。おい、拳銃をしまえ。この子は逃げたりはしない」
老人は彼女の後ろの男に告げた。
「膝まずいてお願いしたいところだか、この通りの体でな。私のガンを治していただけないか。礼はする。おい、例のものをだせ」
老人の側に立っていた男がスーツのポケットから札束を出した。
「これでどうだ。気に入らんか」
「・・・」
「おい。出し惜しみするな。残りも出せ」
老人の言葉を受けてスーツの男が札束を三つ重ねた。とその時だった。縁側に続く廊下の先から声が響いてきた。
「何だおまえ!」
バン、バン、バン。
数発の拳銃の発射音が続く。
「化け物か?かまわん。撃て」
バン、バン、バン。バン、バン、バン。
廊下を歩いて天乃解が現れた。




