第十一章 第一節「拉致」
吉澤栞里が明菱高等学校を出た時だった。黒塗りのメルセデス・ベンツSクラスが校門の前で急停止した。窓ガラスはスモークでおおわれ、車高が低く改造されている。明らかにヤクザ者の車とわかる。後部ドアが開き、黒い背広姿に黒いシャツ、派手なネクタイをした二人組の男が飛び出してきた。
「吉澤栞里だな」
男が彼女の腰に拳銃を突きつける。ドスを聞かせた低い声で彼女をおどした。
「さわぐな。騒ぐと誰かが死ぬぞ」
もう一人の男が手で拳銃を隠しながら、下校途中の女生徒に向けた。吉澤栞里は仕方なく、一人目の男に従う。開いたドアから車に乗せられそうになった時だった。
「なんだ、おまえら!」
校門の陰から遠山一馬が飛び出してきて、女生徒に拳銃を向けている男に蹴りをくらわした。丸太のような脚が男のみぞ内に食い込んだ。男は拳銃を遠山一馬の太ももに当てて引き金を引く。
バン。
薬きょうがはじけ飛び、大きな銃声がこだまする。下校中の生徒たちがパニックを起こして逃げ惑った。遠山一馬のズボンに小さな穴が開き、赤黒い血しぶきがあがった。遠山一馬は太ももを撃ち抜かれてもひるまず、拳銃を握った男の腕をとって、一本背負いで投げた。男の体がクルリと中を舞う。
ドスン。
男はアスファルトに叩きつけられた。吉澤栞里を車に押し込んだもう一人の男が、遠山一馬に拳銃を向けてたて続けに引き金を引いた。
バン。バン。バン。
遠山一馬が飛びのいたすきに、地面に転んでいた男が車へと走る。男を乗せて、メルセデス・ベンツSクラスは車輪を鳴らして走り去った。
「大丈夫か?」
騒ぎを聞きつけて、天乃解が遠山一馬に駆け寄る。
「ちっ。おせえんだよ。栞里が連れ去られた。主さんよ」
遠山一馬は吐きすてるように言った。声に力がない。遠山一馬は左太ももに加えて、右わき腹にも銃弾を受けていた。制服の下の白シャツが赤く染まっている。
「弾は消せるが、傷は治せない」
幸いどたらも発達した筋肉が銃弾を押しとどめていた。天乃解はわき腹、太ももの順に手をあてて弾を消し去った。
「彼女は無事だ。栞里さんの居場所ならどこにいても感じられる」
天乃解は冷静に遠山一馬に告げた。




