第十章 第四節「師弟対決」
風が竹林の間を駆け抜けていく。サワサワと葉が鳴り、遠くの小川から水の流れる音が聞こえる。おかっぱ頭でどんぐり眼の少女、高木彩佳は中学生になっていた。セーラー服と両手に持った二本の短剣が不釣り合いだ。
ゆっくりと瞳を閉じる。竹の青臭い匂いと土の香りに混じって、微かに酸っぱみを帯びた動物的な匂いを風が運んでくる。
「来る」
彼女が目を見開いて短剣をかまえた瞬間、銀色の刃が目の前に伸びてくる。高木彩佳は体を少し反らして、攻撃姿勢を崩さないようにして右手の短剣を合わせる。
カキン。
金属同士が交わる甲高い音が竹藪にこだまする。相手の懐に入り込んで、左手の短剣を前に押し出す。心臓を狙う。星崎大貴は後ろに飛びのいて、それをかわしながら、空を切った刀の刃を彼女の首へと向ける。高木彩佳は右手の短剣でそれを受け流した。
激しい攻防が十分ほど続いた。二人は距離をとって対峙する。星崎大貴が声を発する。
「よし、やめ。今日はここまでだ」
高木彩佳は、大きく肩を上下させて荒くなった呼吸を整えた。
「ずいぶん、いい動きになった」
星崎大貴は手に持った日本刀を鞘に納めると、彼女の下に歩み寄る。
「何度も言うがこれはスポーツではない。小さな体で飛び回っていては体力が持たない。やれるときは、ためらわずに相手の急所を突け。それができないときは手足の腱を絶って動きを止めろ」
「はい」
高木彩佳は真剣な顔でうなずくと、スカートのすそを引き上げて、太ももに巻いた革のケースに短剣を収めた。目の前の星崎大貴を見上げる。星崎大貴は笑顔をつくった。
吉澤栞里の守り人になって以来、高木彩佳は週に数回、星崎大貴から人を殺す技を学んでいた。冷静に考えれば、ろくに事件も起きない田舎町で、なぜそんなことが必要なのかわからない。しかし、二人ともいつか襲い来るわざわいを感じていた。
「よし、帰るか。栞里が待っている」
星崎大貴が目を細めて、いつものように彼女のおかっぱ頭をなでた。高木彩佳はこの時間、この瞬間が好きだった。倍以上、年の離れた父親と変わらない年齢の男に恋心を抱くようになっていた。
「ねえ、キスして」
高木彩佳は星崎大貴を見上げながら真剣なまなざしで言った。
「だめだ。子供に興味はない」
星崎大貴はキッパリと拒否する。高木彩佳は笑顔をつくる。
「後、三年もしたら立派な大人の体になるんだから。その時、後悔してもしらないから」
高木彩佳は小学生のような薄っぺらい胸をせり出し、強調して見せた。
フン。
星崎大貴は鼻で笑った。高木彩佳はほおを膨らます。幼さが抜けきらない表情と、少女らしい乙女チックな発想。先ほどまでの野生動物のような動きとのギャップに星崎大貴は戸惑った。




