第九章 第四節「守り人」
遠山一馬が神社を離れようとすると、竹藪から声が聞こえてきた。
「天乃解には勝てないわよ。どんなに強くても」
遠山一馬は立ち止まって竹藪の方を向く。竹林の奥から制服姿の高木彩佳が現れた。彼女は遠山一馬の顔を見るとおかっぱ頭をペコリと下げた。サラサラとした髪がフワリと舞い、額へと戻る。クリクリとした小動物のような目で彼を見つめる。
「なんだ。彩佳か。脅かすなよ」
高木彩佳は遠山一馬のもとまでスタスタと歩いてくる。二人が並ぶとまるで巨人と小人だ。とても同じ18歳の高校生とは思えなかった。
「一馬も、私も、星崎大貴も。吉澤栞里を守ることが定めなの。これは運命よ」
「何が言いたい?」
「説明しなくてもわかるでしょ」
「・・・」
「栞里が転校してきたとき、一馬はあの声を聴いたでしょ。そして役目をもらった。違う?そして強くなった」
高木彩佳は首を少しかしげでたずねた。
「あれは俺自身の声だ」
「違うわ。私もその声を聴いたのよ。あなたと私は栞里の守り人。私は賢さを授かり、一馬は力を授かった。星崎大貴は栞里の育て人。財を授かったのよ」
「違う。俺の強さは自分で鍛え上げたものだ」
「そうかしら。一馬は私にすら勝てない」
「ちっ。幼馴染だからって。俺が女に手を出せないとでも思ったか」
遠山一馬は丸太のような太い脚を、高木彩佳の顔面に向けて振り上げた。足先が一直線に走り、高木彩佳のあごへと向かう。その一瞬に、彼女は体をわずかに横にずらしてそれをよけた。遠山一馬は空を切って振り上げた足を引き戻し、かかとで高木彩佳の肩を狙う。彼女は体を引いてそれもかわした。
「力任せの単純な動きね」
高木彩佳は口の端をあげて笑った。
「もっと頭を使いなさいよ」
高木彩佳は小鳥が宙を舞うような俊敏な動きで、指を立てて遠山一馬の目を狙った。目に突き刺さる瞬間に指を折って軌道をずらし、グーで額をついた。
「はい。おしまい。スポーツの武道がどんなに強くても、人は倒せない」
遠山一馬は呆気にとられた。目の前の女の子が本当に高木彩佳なのか信じられなくなる。
「何者なんだ」
「だから言ったでしょ。私も一馬も栞里の守り人だって。そして、天乃解は私たちの主」
「やつは栞里を迎えにきたのか?」
「そうよ」
高木彩佳は乱れた制服をなおしながら告げた。




