第八章 第四節「和食レストラン」
オーケストラのコンサートを聴き終えた二人は食事に向かった。前島麗華が、ワシントンDCの街の大通りに面した店ののれんをくぐった。のれんには日本語で『やまむら』と書かれている。隠れ家レストランといった感じて、間口は狭いが中は活況をていしていた。
カウンターでは板前たちが活魚をさばいている。ガツンっと音とを立ててタイの頭をはねる。体を失ってもタイの頭はパクパクと口を動かしていた。如月創は前島麗華の後ろを追いながらその光景をながめた。タイのギョロリとした片目が彼を見つめる。彼はタイの最後の言葉を聞いた。
「ここはね。新鮮なお魚で有名なのよ。少々値は張るけど、日本の高級料亭に負けない味が楽しめるわ」
前島麗華が自慢そうに告げる。彼女に気づいた板前たちが手を止めて一礼した。彼女は彼らに向かって言う。
「こんばんは。今日は大切なお客様を連れてきたから、惜しまず腕をふるってね」
「いつもごひいき頂き、ありがとうございます」
料理長が頭を下げる。
「今日は質のいいウナギが手に入りました」
料理長は板前に指示する。板前は木のおけからウナギを一匹つまみだすと、まな板に載せて頭にくいを打った。ウナギは体をくねらせて抵抗するが、押さえつけられて腹を裂かれていく。口をパクパクさせながら、如月創に断末魔の言葉を告げる。
「おいしそうね。白焼きで頂戴」
「へい。かしこまりました」
板前は元気な声で答えた。
ここは厨房と言う名の殺戮室だった。いけすの中で、次の処刑を待つ魚たちが健気に泳ぎ回っている。如月創は面白いし好だと思った。
二人は廊下を通って個室に通された。如月創は席に座り、前島麗華が女中に注文する姿を静かに眺めていた。
地球には二種類の生物が存在する。一つは太陽の光を吸収して生きる植物。そしてもう一つは他の生物の命を奪って生きる動物だ。前者は宇宙に広くあまねく存在したが、後者は稀有な存在だった。
命を犠牲にしてしか生きられない不完全な生物が、殺し合いによって絶滅せずに、よく生き残ったものだ。そればかりか知的生命体として文明を築き上げるまでになっている。如月創は驚くばかりだった。しかし、彼らがこの先、宇宙に出ていくことになるのは深刻な問題だった。これほどまでに好戦的かつ、欲望の強い生命体は全宇宙でも見たことがなかった。
如月創は人間の体を生かすために、前島麗華と共に運ばれてくる料理を食べた。口の中に広がる新鮮な魚介の味は、繊細さと力強さをあわせ持ち格別だった。それはオーケストラが奏でる音楽に匹敵した。
「うん。美味しい」
「そうでしょ。ここの日本料理を食べたら、ホテルの和食は食べられないわ」
満足そうに前島麗華が笑みを浮かべた。




