第八章 第一節「デートの誘い」
前島麗華にとって如月創は不思議な男の子だった。もちろん『創造者』としての特異な能力もあるが、生まれてから贅沢が当たり前の生活をしていた彼女にとってはあまり興味がなかった。大掛かりなイリュージョンとさほど変わらない。
前島麗華の関心は、むしろ如月創の感性に向けられた。鍛え上げられた筋肉で創られた美しい肉体、女の子のような顔立ちと澄んだ瞳。オリンピック選手をしのぐ運動神経。なにもかも完璧でありながら、どこかピントがずれている。日本でもインターナショナルハイスクールでも出会ったことのない初めてのタイプだった。
知り合った日の翌朝、目覚めると如月創は何も言わずに消えていた。二日たってインターナショナルハイスクールから戻ると、ペントハウスのプールで一人で泳いでいた。同居者なのだから、出かける時は一声くらいかけてほしい。彼女は生まれて初めて、他人の心配をした。
「キミ。どこに行っていたの?」
「大統領に会ってきた」
「大統領ってビル・ワトソンのこと?」
「ああ」
如月創は、バスタオルで体を拭きながら事も無げに答えた。
「知り合いなの?」
「いいや。初めて会った」
「会ったって。そう簡単に会える人じゃないけど」
「創造者の力を使った」
彼が答えた時、ペントハウスの玄関の呼び鈴が鳴った。モニター画面に黒服の男が映る。見るからにあやしいい姿に前島麗華は身がまえる。
「ビル・ワトソン大統領からお届け物です」
如月創はバスローブをまとって玄関に向かうが、直ぐに戻ってくる。手にはパスポートとプラチナカードが握られていた。
「出かけよう」
「何処へ?」
「人間の文化を知りたい。クラッシックコンサートなんてどうかな」
「デートの誘いならもっと気の利いた言い方はないの」
「デート?なるほど。それも、人間にとっては大切な文化の一つか」
「その言い方が変なのよ。それに女の子の前で裸で言うことじゃないわ。キミの感性はどうなっているの?」
前島麗華は如月創の姿を見つめる。如月創がバスローブを脱ぎ捨てた瞬間、彼は黒のフォーマルタキシードを身に着けていた。
「お嬢さん。私とコンサートにまいりましょう」
ひざまずいて彼女の手を取った。前島麗華は彼の時代錯誤的な言動に思わず吹き出してしまった。
「キミ、いつの時代の人なのよ。まあいいわ。着替えてくるから、少し待って」
前島麗華は自分の部屋のクローゼットに向かった。パーティ用のドレスが何着もかかっている。次々とドレスをとっては体に当てて、姿見で確認する。とても楽しい。デートの衣装選びがこんなに楽しいなんて。彼女は彼と並んで歩く姿を思い浮かべながらドレスと靴、ポーチを選んだ。ネックレスを手に取ってつけるのを止めた。
「アクセサリーは彼に創らせよう。創造者なのだから」
彼女は部屋の外に聞こえないように小さくつぶやいた。




