第一章 第二節「アメリカ議会図書館」
アメリカの首都、ワシントンDCには世界最大とも言われる図書館がある。所蔵品は一億点をゆうに超え、世界中で出版される書籍を収集しながら、今も成長と拡大を続けている巨大な施設だ。建物の外壁はもとより、中の壁や床、柱もすべて大理石できており、アメリカの象徴と呼べる施設の一つだった。
如月創は書庫の横にある壁に背中をあずけて本を読んでいた。読むといっても、ページをめくって読むのではなく、書棚の横から棚に並んで納まっている何百冊もの本のページを透かして読んでいた。
もし、彼の視覚を覗き込むことができるとすれば、色のついたレントゲン写真が1秒に数千枚と言うスピードでパノラマ写真のように切り替わっていく様子を見ることができるだろう。裏側から透かしたものでも彼には関係なかった。英語で記されたものだけでなく、世界のあらゆる言語、さらに失われた文明の文字さえも理解することができた。
まわりから見れば、ただ壁によりかかって休んでいる程度にしか見えないかもしれないが、彼は人類が築きあげた文明のすべてを学び取っていた。
「ずいぶん偏った知識で溢れているな」
彼がそうつぶやいたとき、きれいに仕立てられたブランド物の服に身を包んだ四人組の少年たちの一人が声を掛けてきた。
「こんにちは。僕たち学校の課外授業でアメリカの歴史を調べているんだけど」
メガネをかけた白人の男の子が彼を見上げて言った。
「どんな歴史を調べているのかな」
彼は読書を止めて、かがみこんだ。目線を子供たちの高さに合わせて聞いた。少年は目を輝かせながら答える。
「戦車とか戦闘機とか。戦艦とか。アメリカが世界一、強い国だから」
「なるほど。それならすぐそこだ。このまま真っすぐいって「W-15」と書かれた棚の奥から四番目辺りかな」
「ありがとうございます」
少年たちは丁寧にお礼を述べて、棚に記された記号をおいながら、駆け足で「W-15」の棚に向かった。
彼は再び壁に背中をあずけて読書を再開した。しばらくすると少年たちの興奮した声が書架の向こうから聞こえてきた。
「これ、人間かよ。ゾンビじゃん」
「この女の子、足ねーし」
「こっちなんか顔がくじゃぐじゃだよ」
如月創は、少年たちの憧れの兵器がつくりだした結果を案内してあげたのだった。