第五章 第二節「呼び出し」
授業が終わり、3年2組の生徒たちが帰り支度をしている時だった。天乃解は、クラスの女子生徒数人に取り囲まれていた。
「天乃君。私たちこれからカラオケに行くんだけど、一緒にどうかな?」
「ごめんなさい。放課後は、遠山君が校内を案内してくれることになっているので」
女子生徒たちは顔を曇らせる。
「危ないよ。止めときなよ」
「不良仲間に囲まれて、ボコボコにされちゃうよ」
「そうだよ、遠山みたいなバカに付き合うことないよ」
「あんなの無視した方がいいよ」
女子生徒たちは心配そうに彼を止めた。
吉澤栞里が机の中のものを鞄にしまっていると、高木彩佳が声をかける。
「解君、一馬に呼び出されているみたいよ」
「はいそうですかって、行くほどバカじゃないでしょ」
吉澤栞里が高木彩佳に答えた時だった。天乃解が周りを取り巻く女子生徒に告げる。
「誘ってくれてありがとう。でも、遠山君を待たせては悪いので、また今度にしてください」
天乃解はそう言い残して、教室の出口に向かった。
「彼、行くみたいよ」
高木彩佳が瞳をキラキラと輝かせて、興味津々で後を追う。
「ちょっと、彩佳。趣味悪いよ」
吉澤栞里も仕方なくそれに続いた。
人気のない体育館裏で、遠山一馬は取り巻き二人と天乃解が来るのを待っていた。体育館の中から運動部の練習の声が響いていた。
遠山一馬は学生服の内ポケットからタバコを取り出して火をつける。口にくわえて一口吸うが、すぐにむせかえって投げ捨てた。靴底で火を消して、頭を上げた時だった。目の前に天乃解が立っていた。
「おっ。逃げずにちゃんと来るなんて見どころあるじゃないか」
「誘ってくれてありがとう。校内の案内をお願いします」
天乃解は軽く頭を下げて丁寧に依頼した。吉澤栞里と高木彩佳は焼却炉の陰に隠れて様子をうかがっていた。遠山一馬の取り巻き達が吠える。
「一馬、こいつバカだぜ!」
「ボコっていいか?」
取り巻き二人が天乃解を取り囲む。吉澤栞里が止めようと飛び出そうとすると、高木彩佳が彼女の肩を押さえて止めた。取り巻きが天乃解に襲いかかる。
「うぉ!」
一人は靴が脱げてぶざまにひっくり返る。
「えっ?」
もう一人はズボンが脱げてずり落ち、脚に絡まる。トランクスをあらわにしてオタオタする。
「おい、てめえ!何しやがった!」
遠山一馬はポケットから護身用に持ち歩いていたジャックナイフを取り出して構えた。ナイフの刃先がギラリと光る。天乃解はそれでも涼しい顔をして、遠山一馬を見つめている。
「案内してもらえないなら帰ります」
天乃解は遠山一馬と二人の取り巻きに背を向けて歩き出した。
と、その時、遠山一馬の持つ金属製のジャックナイフが粉々になって崩れていく。砂粒のようになったナイフは風に吹かれて消えた。そればかりか、遠山一馬のピアス、制服のボタン、ベルトの留め金、ズボンのファスナーなど、身に着けた金属類が同じように砂粒になって崩れた。
ズボンがストンとずり落ちて地面につく。制服の上着がはだける。続いて、靴ひもが崩れていく。止ひもを失ったワイシャツのボタンがパラパラと地面に落ちる。それでも、遠山一馬は裸足で後ろから天乃解に殴り掛かろうした。
今度は着ていた衣類が全て砂粒と化して消えていく。取り巻きたち二人も同様に丸裸になってしまった。
「キャー!」
吉澤栞里が思わず声を上げる。吉澤栞里と遠山一馬の視線が交差する。遠山一馬は股間を隠しながら、取り巻き二人と体育館裏の奥へと走り去った。
「キャー!」
「変態!」
「先生、変質者が!」
彼らが走り去った方角から女子生徒たちの悲鳴が次々と聞こえてきた。
「いいもの見せてみらったわ」
高木彩佳はこちらに戻ってくる、天乃解に向かってコクリとお辞儀をした。




