第三章 第三節「創造者の力」
アリゾナの砂漠地帯に造られた米軍基地に、如月創とビル・ワトソン大統領は二人並んで立っていた。まわりには勲章をいくつもつけた軍服に身を包んだ恰幅の良い白人や、黒服のSPなど、アメリカを代表する面々が並んでいた。
広大な敷地は鉄柵で囲まれて民間人の侵入を拒んでいる。砂を含んだ熱風が絶え間なく吹きつけて、汗がにじむ。ビル・ワトソン大統領は汗を拭こうともせずに言った。
「それでは見せてもらおうか」
如月創は緊張もせず笑顔で答える。
「どんな物がお望みですか?」
ビル・ワトソン大統領は少し考えると、包帯を巻いた右手で何もない砂漠を示した。
「そうだな。『ロッキード・マーティン社製。ボーイングF-22 ラプター』なんてどうだ」
「お安い御用で」
目の前に銀色の戦闘機が突如として現れた。驚きの声が湧き上がるが、ビル・ワトソン大統領は真っすぐに戦闘機を見つめたまま黙っていた。如月創はその横顔を見つめて続けた。
「1000機、創りましょうか」
彼がそう言った瞬間、あたり一面が戦闘機でおおわれた。太陽の日ざしを受けて輝く機体は傷一つない新品だった。1機、1億5千万ドル。それが1000機。合計1500億ドル。日本円にして15兆円。アメリカの国防予算の四分の一に相当する資産が現れたことになる。
「もういい。十分だ」
ビル・ワトソン大統領の額から汗が流れ落ちる。世界の軍事バランスが意味を失った瞬間だった。
ロッキード・マーティン社の技術陣が駆け出し、現れた戦闘機をチェックして回る。これが事実だとしたら、彼らは開発と整備の要員を除いて全員が職を失う。ハリボテであることを願ったが、内部まで完全に再現されていた。第一級の軍事機密がこうも簡単に漏洩して、模倣されたのでは彼らのメンツが立たなかった。
ロッキード・マーティン社のCEO、エレナ・ベーカー女史は、ビル・ワトソン大統領のもとに駆け寄って耳打ちした。
「この子は危険すぎます」
「ああ、わかっている。この力が我々の敵国にまわったら、アメリカ軍の支配力は世界から消え失せる」
ビル・ワトソン大統領の脚が微かに震えていた。彼はそのことを悟られないように戦闘機に向かってゆっくりと歩き出す。エレナ・ベーカー女史が続く。如月創は笑顔のまま黙ってそれを見送った。
「いいか。彼は私のもとに置く。アメリカは、今、建国以来初めての危機に直面している。そしてこれはチャンスでもある」
「わかりました」
エレナ・ベーカー女史はビル・ワトソン大統領に答えると、振り向いて後ろにたたずむ如月創に笑顔を返した。