第三章 第二節「依頼」
如月創は真っすぐ歩き、テーブルをはさんでビル・ワトソン大統領と向かいあった。
「まあ、座りましょう。立ったままでは、お互いに落ち着いて話もできません」
如月創は椅子を引き、ビル・ワトソン大統領の前に腰かけた。彼が急に襲ってくるようなことはなさそうなのでビル・ワトソン大統領も椅子に腰をかける。ビル・ワトソン大統領はポケットからハンカチを取り出して血が流れ出ている右手に巻きつけた。
「部屋全体をダイヤモンドの壁で覆いました。しばらくは誰も入ってこれません」
大統領が周囲を見まわすと、いつの間にか壁も床も天井も分厚いガラスのようなもので覆われていた。
「部屋の外にダイヤモンドのトンネルもありますよ。全部合わせたら、この星の一年間の採掘量をはるかに凌ぐ量です。お望みならもっと差し上げますが」
彼の言うことが本当なら、世界のダイヤモンド市場は明日にでも大暴落を引き起こして崩壊するだろう。ヘタをすれば、大恐慌の引き金にすらなりかねない量だった。大統領は大きく息をはいて気持ちを落ち着かせ、ゆっくりとした口調で尋ねた。
「キミはだれかな。何が目的ですか」
「質問は一つずつでお願いします」
如月創は、ビル・ワトソン大統領の目を見すえてから続けた。
「如月創といいます。この星の『創造者』です」
ビル・ワトソン大統領は如月創を挑発するように言った。
「なにをいい出すかと思えばバカバカしい。こんな手品まがいのものを見せて『神』だと言うのかね」
如月創は挑発にのることなく紳士的に答えた。
「『創造者』とは言いましたが、あなた方、人間の言うところの『神』とは言ってません。ぼくには、この星を創る力があったから創ったまでです。あなた方、人間が原子爆弾を創ったのと同じです」
入り口では職員たちが、中に入ろうとダイヤモンドの壁を叩きたつけていたが、一向に壊れる様子はみられなかった。ビル・ワトソン大統領は、しばらく彼と話をせざるを得ないことを悟った。ビル・ワトソン大統領は右手に巻きすけたハンカチを強く結び直した。
「好奇心のことを言っているのかな。原爆を創る技術があったら創ってみたくなる。創ったら使ってみたくなると」
「ええ。そうです。理解がはやくて助かります」
ビル・ワトソン大統領は如月創の言葉を聞いて考えた。彼が『創造者』かどうかは別としても不思議な力を持っていることは間違いない。この国の為なら何でも利用する。それが彼の信条だった。
「如月くんと言ったかな。その『創造者』が私に何の用かね」
ビル・ワトソン大統領は笑みを浮かべる。
「『破壊者』がこの星のどこかにいます。『破壊者』は人間の創りあげた全ての文明を無にする力があります。力があれば使いたくなるものです。これはアメリカにとって脅威と言えませんか」
如月創は口角を上げて答えた。
「確かにそんなものが存在するなら脅威だ。如月くんは、それを伝えにきたのかね」
「ええ『破壊者』を殺していただきたい。それが我々の共通の願いです」
ビル・ワトソン大統領は笑みを崩さずに仕掛けてみる。
「キミが本当に『創造者』なら、私の力を借りる必要などないのではありませんか」
「『創造者』は破壊も死も与えません。破壊や死は『破壊者』と人間がもたらすものです」
如月創はサラリと答えた。ビル・ワトソン大統領は次の質問を投げかける。
「我々人間の力で『破壊者』を殺すことができるのかね」
「わかりません。できなければ、ぼくも人類も全て滅ぶまでです。ぼくには創造の力があります。どんな兵器でも、資源でも無尽蔵に提供しましょう」
「我々は仲間ということでよろしいのかな」
ビル・ワトソン大統領はニヤリと笑う。
「ええ」
如月創もそれに答えてニヤリと笑った。