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異世界で料理人を命じられたオレが女王陛下の軍師に成り上がる!2  作者: すずきあきら
第二章 蒸留酒はアルコール度数が高いだけ、じゃない?
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3

ハイドラに衝太郎がどんな料理を出すのか、というと

 とつぜんの声が響く。

 ハイドラの侍女が、とっさに主人の盾になろうと立ちはだかる。だが、

「安心してくれ。危害を加えようってんじゃない。むしろ逆さ。招待だ。ようこそハイドラ!」

 続けての声。

 そして姿を現したのは、衝太郎、そしてアイオリアだ。

 それを見てハイドラ。

「ホーホホホホ! 当主みずから出迎えとは、痛みいるでありんす。してこれは、歓迎の趣向でありんすか」

 笑いながら、しかし油断なく辺りをうかがう。背後にはとくに気を配って、いつでもまた水道へ飛びこめる態だ。

「前回、フィレンツァ軍に襲撃されたときのことを、あれから徹底的に研究したのよ。市民の話を集めて、最初に何人もの兵がグループで街中に現れて、火を点けたり、暴れてたって、わかったわ」

「この館の近くまで通じてる水路を、大きなヘビが浮かんだり沈んだりしながら通っていった、って話もあってな。同じことはまた起きる、なら、積極的にそれを利用してやろうじゃないかって、な」

「なるほど、まんまと嵌められたというわけでありんすか。あの水道も」

「そうそう。水路からこの部屋まで導くための水道さ。気に行ってくれたかな。新しく作ったんだ。下水道じゃないぜ」

 衝太郎の言葉は、あきらかにラヴェニスの街で、ハイドラが下水道へ飛び込んで逃げたことの皮肉だ。

 ハイドラの顔がみるみる怒りに染まる。

「言うでありんすな。いまこの場でおまえたちを絞め殺して、また水道から逃げることくらいかんたんだと言ったら? 帰り道、少しくらいの兵で塞いでいても、水の中ではあちきの敵ではありんせん!」

 ヘビの目のように、ハイドラの瞳が縦に細まる。

 ペロッ、と細く長い舌が唇をなめる。

「おいおい、勘違いするなって。最初に言ったろ? 歓迎するって。そのための仕掛けなんだ。招待状を出しても素直に来るとは思えないから、こんな回りくどいことにはなったけどな」

「歓迎するというなら、なにをしてくれると言うでありんすえ? 騙そうとしてもそうは……」

「オレの料理を、食べてほしいんだ!」

 衝太郎のシンプルなひとこと。

 いっしゅん、空気が固まる。

 部屋を沈黙が満たして、ハイドラも侍女も言葉を失う。

 ようやく、

「なぜ、おまえの料理などを食べなくてはならんでありんすか。これは戦争でありんす! あちきの軍がこの街をそっくりいただくか、焔で灰にするか、皆殺しにするか、それが戦争でありんす! なにをのんきに料理など……」

「だからだ。料理はのんきなんかじゃない。オレには料理は戦争と同じだ。料理で戦争をしてるんだ!」

「な、なにをまた、わけのわからないことを」

 ハイドラがいっしゅん気押される。衝太郎の気力がまさった。

「どうだ。食べてくれるか」

「そんなもの! なぜあちきが食べると思うのか、わからんでありんす!」

 なおもハイドラの拒絶。すると衝太郎。

「そうだよなあ。いきなり戦の最中に、敵にメシ食えって言われて、はいはい素直に食う敵の大将はいないよなあ」

 腕組みし、うんうん、とうなずく。

「ちょっと、衝太郎!」

 アイオリアにうながされ、

「それで……これだ」

 指を鳴らす。

 と、

「ハイドラさま!」

 現れたのは、先に進んだ侍女だ。武器を取り上げられ、リュギアスの兵に後ろから拘束されている。

「ゼッタ! おのれ!」

 侍女の名を呼び、さらに怒りに眦を釣り上げるハイドラ。

「うん、ごくろう。もう戻っていいよ」

 兵を帰すと、衝太郎、縛られた侍女をハイドラに向かって突き出す。

「人質であちきに言うことを聞かせようというでありんすか! おまえたちのほうがずっと悪辣で最低でありんす!」

「うん。だから返す」

「たとえ人質を何人とられても、決してあちきはおまえたちの好きには……」

「だから返すよ、ほら」

 衝太郎は言って侍女を離す。侍女はハイドラのもとへ。

「ハイドラさま」

「ゼッタ……こ、これはどういう」

「だーから、卑劣な人質とっていうこと聞かすのはナシ! ナシだ。いいだろ」

 そう言う衝太郎に、

「ほんとうにいいの? 人質って、よくないと思うけど、でも衝太郎の料理をハイドラに食べさせるためなのよね?」

 と、アイオリアも。

 しかし衝太郎、ここで、

「そうだ。人質を取って言うことを聞かせるなんて卑劣なことだ。オレはやらない。その代わり、人質を出す」

「人質を、おまえたちが出すというのは、どういうことでありんす」

「それは……」

 そこまで言うと衝太郎、アイオリアの手を握って、

「えっ」

 ぐっ、と押し出す。それも、ハイドラのほうへ。

「人質だ! アイオリアを、人質に差し出そうじゃないか!」

「えええええー!?」

 叫んだのはアイオリアだ。衝太郎に詰め寄る。どころか胸ぐらをつかんで、

「ちょっと! どういうことよ! なんでわたしが人質なのよ! 意味わかんない! せっかく取った人質を返して、で、アイオリアが人質になるって、ぜんっぜん意味わかんない! ……まさかこのためにわたしを連れて来たんじゃ、衝太郎! ……きゃあっ!」

 言い募るところ、背後から伸びて来たハイドラのヘビのしっぽにからめとられる。あっという間に引き寄せたハイドラ、

「ホ~ホホホホ!! こっちこそよくわからないけれど、この人質はもらったでありんす! 覚悟するでありんすよ!」

 勝ち誇って声を上げる。

「人質も渡したんだ。オレの料理を食べてくれるんだな」

「そんなもの、食べる義理も理由もないでありんす。ここから出るでありんすよ! 道を開けるでありんす!」

「おっと、約束を破るとか、人質をとるよりひどいぞ」

「約束などしたおぼえはないでありんす! おまえの料理なぞ、金輪際……ぅ、ん?」

 ハイドラの言葉が止まった。

 衝太郎がコップを差し出していたのだ。

 陶器のコップ。そんなものは、払い落としてしまえばいい。しかしハイドラはそうしなかった。

 逆に、コップの中のものに、強く心を奪われる。

「こ、これは、なに?」

「ありんす、忘れてるぞ。これは……まぁ飲んでみろよ」

 けっきょくハイドラはコップを受け取ってしまい、

「これ……い、いや、だまされないでありんす! きっとなにか毒かしびれ薬が入っているであり……」

「入ってないよ、そんなもの。こっちは人質にアイオリアを差し出してるんだ。そんなことできないだろ? 飲んで異変を感じたら、アイオリアを殺せばいい」

「ちょっと、衝太郎!」

 とはアイオリアである。無理もないが、かなり怒っている。

「たしかに、道理でありんすな。ま、まあ、そういうことなら、こんなもの、一杯くらい……んっ、こくっ、こくっ、こくんっ!」

 ハイドラ、納得した、というよりコップの中のものが飲みたくて無理やり自分を納得させた、というふうだ。侍女に毒味をさせることも忘れていた。

 口を付けると、いっきにあおった。

 喉を鳴らして、すっかり飲み干していく。

「ぉー、いい飲みっぷりだ」

「はぁー! これは、なんでありんすか」

「ケフィールだよ。アルコール度数はビールなんかよりもずっと低いけどな」

「ケフィー、ル?」

「そう。牛乳酒さ。馬乳酒なんかもそうだけどな。遊牧民が牛乳を革袋に入れて、発酵させたのが最初。革袋にぐうぜんついていたイースト菌や酵母菌が牛乳を発酵させるんだ。もっとドロドロしてて、ヨーグルトみたいに、飲むっていうより食べるって感じだな。それを濾したものさ」

「そんなものが。で、でも、でありんす。こんなものはこどもの飲み物で……」

「だよな。もっといいものを用意してあるんだ。ぜひハイドラに飲んでほしくてさ。いいだろ? そのくらい。アイオリアを人質にしてるんだ」

 畳みかける衝太郎。

 これには、

「なんと、もっといいもの……いい酒でありんすか。それなら、しかたないでありんすな。な、なぁに、いざとなれば人質をひとひねり……」

「わたしを人質にしてるからって、なにそれ!」

 さまざまリアクションはあるものの、

「決まりだ! 奥へ来てくれ、みんな。とっておきの酒を飲ませるぜ!」


ん? 料理?

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